第10話 魔神の力
魔神に向かって無数のミサイルが飛ぶ。
「くっ……」
両腕を交差させて防御するが、その程度で耐えられるような火力ではない。
実際、出そうと思えば【無限生成】があるおかげで無限に撃ち続けることができる。が、そんなことをしても意味がないと分かっているので500発に留める。
「下りろ」
空中にいたショウへ魔法陣よりも下へ下りるよう言う。
「うわっ」
魔法陣の上では全てを吹き飛ばしてしまうような爆発が起きていた。
それでも魔法陣よりも下には一切の被害が出ていない。全ての熱や衝撃が魔法陣によって亜空間へと収納されている。
ミサイルの直撃を受けた魔神は動けない。
今の内に『門』の通過を進める。
「くそっ、やっぱり生きているか」
500発のミサイルによる爆発が収まると魔神のいた場所に墨汁を垂らしたような点が浮いているのを確認できる。
その点に周囲から瘴気が集まり、元の形を復元しようとしていた。
「これは、さすがにキツイな」
3分の時間を掛け魔神が元の姿を取り戻した。
「3分――全身を吹き飛ばすような攻撃を与えてもその程度が限界なのか」
だが、3分を稼げたのは僥倖。
この3分の間に5人が『門』の向こう側へと姿を消した。
「この調子で残りの時間を稼げばいいだけだ」
「そう上手くいくか?」
魔法陣の上に飛び出る。
転移能力を封じた魔法陣。これも決して万能の通行止めという訳ではなく、生物が相手だった場合にはそのまま通してしまう。つまり、俺が対処しなければならないのは転移能力に頼らず肉体でそのまま通ろうとすることだ。
いつまでも魔法陣の下で籠城するような真似はできない。
魔法陣の上には俺とショウ、それにマコトもいる。
「ユウカ、『叡智の書』はなんて言っている!」
「それがサッパリ! さっきから魔神の能力を知ろうと何でも試しているんだけど、一向に反応してくれないの」
色々な知識を教えてくれる『叡智の書』。
それでも限界はあるらしく、魔神の能力や『楽園への門』の使い方についてまで知ることはできなかった。
「ほう。それがここにあるとは思いもしなかった」
「あれを知っているのか」
「もちろんだ。脅威に値するかもしれない、と判断した物は全て詳細に調べるようにしている。アレも、脅威と判断した物の一つ。けど、私を殺すには至らない。アレは『ポラリス』にある知識は与えてくれる。しかし、『ポラリス』にない答えはどれだけ呼び掛けたところで得られない。私の得た力は、理の外側に存在している。故にアレでは、私の能力を知ることなどできない」
魔神が姿を消す。
俺の後ろに転移しており、手には真っ黒な剣が握られている。
気付いた時には既に振られた直後であり、今から動いたところで回避するのは不可能。
「……!」
魔神の斬撃が空振りする。
剣が通り過ぎた瞬間には俺の姿はそこにない。
「貴様も転移を使えるのを忘れていた」
先ほども魔神の背後へ移動していた。
殺したとしても何度でも立ち上がってくる魔神を相手にした場合、奇襲による攻撃など意味がなく、転移できることは自分から見せつけていく。
「俺の転移はスキルによるものじゃない。魔法道具によるものだ」
【収納魔法】で『転移の宝珠』を好きな場所に設置。転移しようとした瞬間に収納から対になった『転移の宝珠』を取り出して移動する。
たった、それだけのことで瞬間移動が可能になる。
「さて、追えるものなら追ってみな」
魔神の姿が消える。
どこへ移動したのか確認しない。『転移の宝珠』を離れた場所にある壁際に出して瞬時に転移。
そこから芸もなく俺のいた場所の背後へ移動した魔神が剣を振り下ろす姿が消える。先ほどまでと全く同じだ。
「そこか!」
魔神が消える。
次は目の前に現れた。今いる場所が壁を背にしている以上は横か前へ現れるしかない。
だが、正面の方が魔神の視界に入っていたこともあって移動し易い。
再び魔神が空振る。
「どこ……ぐぅ!」
俺の正面へ転移してきた魔神の背後に転移すると後頭部を掴んで壁に叩き付ける。
「お前の行動は本当に単純で読み易い」
攻撃の為の最短距離を移動しているのだろう。
だからこそ行動を先読みし易い。
「調子に乗るな!」
「おっと」
魔神が壁に叩き付けられたまま後ろにいる俺に向かって剣を振るう。
明らかに人の体で動かせる限界を越えた動きをしているが、今さらその程度のことで驚いたりはせずに離れる。
――ブゥゥゥゥン!
「何の音……」
音の発生源は魔神の目の前に突如として現れた。
ソレは、モーターの動いたチェーンソー。離れる直前に収納から取り出しておいた物だ。
回転した状態の刃が魔神の腕を無造作に斬り落とす。
普通のチェーンソーでは魔神の腕を斬り落とすなど不可能だろうが、俺が取り出したチェーンソーは昨日までの内にハルナに頼んで【強化魔法】を施してもらった物。切断力を強化されたチェーンソーは効果が持続している限り魔神が相手でも斬り刻むことができる。
斬られた魔神の腕が下へ落ちる。
魔神にとって核とも言うべき物がどこかにある。そして、核から離れてしまった肉体はただの瘴気へと還り、再び魔神の肉体を構成する為のエネルギーへと変わる。
落下した腕も落ちながら露と消え……
「おっと回収させてもらおうか」
魔法陣から飛び出した鎖が腕を絡め取り、消えてしまう前に魔法陣へと戻って収納へ収めてしまう。
収納しても魔神の腕が消えるのを止めることはできず消えてしまった。これではステータスの足しにすることもできない。
もっとも、今回の目的は強くすることではない。
「これはすげぇチートだ」
俺は収納した物の使い方が分かる。
収納していた時間が一瞬であろうとも『魔神の腕』を収納したのなら『魔神の持つ力』の使い方も分かる。
知れた結果に思わず笑いが止まらなくなる。
魔神の方も自分の能力が本当に知られたと理解したのだろう、表情が苦渋に満ちていた。
「ミサイル発射」
その隙を逃さずミサイルを発射する。
魔神がミサイルに耐えるため腕を交差させる。
「ん?」
妙な気配を感じて周囲を見れば周囲をグルッと黒い剣に囲まれていた。
逃れる為に『転移の宝珠』を取り出す。が、全く反応してくれない。壊れている訳ではなく、魔神からの妨害に遭っている。
「【存在】の力。そういう使い方もできるのか」
周囲に浮いていた黒い剣が一斉に解き放たれ俺の体を串刺しにする。
腕が、足が、胸が斬り刻まれ下へと落ちて行く。
「今度は再生しないように力を込めた剣で攻撃させてもらった。再生能力を持っていたとしても阻害される。そこで、再生しない体に苦しみながら死ぬといい」
ミサイルによって体の大半が吹き飛ばされたもののどうにか生き残っている魔神。
たしかに魔神が言うように【再生】が発動しない。スキルが発動するところを意識してみるものの邪魔されている。
「あんまり使いたくないんだけどな」
空中に描かれた魔法陣から3人分の死体が取り出される。腕や足を欠損していたり、上半身しかない物もあったりするが、たしかに3人分ある。
「持っててよかった【指揮】の魔結晶」
背から飛び出した黒い腕が取り出された魔物を掴む。
すると頭部と胸の一部しか残っていなかった体から欠けていた部分が生えてくる。いや、再構成といった方が正しいかもしれない。
「上でついでに倒したコンラッドが持っていた【指揮】。あいつは、指揮下にある魔物を黒い腕で喰らうことによって自らを全く異なる生物へと変化させていたけど、俺は自分の新しい体を作る為に利用させてもらった」
再生を妨害する力は込められていたが、再構成まで妨害するような能力は黒い剣に込められていなかった。
「大丈夫なの!?」
「平気だって」
下から不安そうに見上げてくるレイに腕を振り回して平気な様子を見せる。
「でも、どうして【再生】が起動しなかったんですか?」
「あの黒い剣に斬られたせいで存在ごと断ち切られたからだ」
おかげで両腕両足を失った傷付いた状態こそ正常だと誤認識させられ、存在を固定化された。
「魔神のスキルは【存在】。自分が存在している“場所”も自由自在だし、存在ごと“相手”を断ち切れる剣も自由に生み出せる。それに、どれだけの傷を負ったとしても傷付いていない存在から“復元”することも可能だ」
様々な存在に干渉する力――それが魔神の持つスキルだ。




