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第8話 今の内に

 『楽園への門』の使い方。

 そんなものは俺だって知らない。一応、『叡智の書』で調べてみたが、何か特殊な力によって妨害されてしまっているのか確実な答えが得られなかった。残念な事にそんな不確かな情報に頼るほど楽観していない。


 これから行う事には召喚された者全員の悲願が懸かっている。

 だから、やるなら確実な方法でなければならない。


 アンたちが『門』へ辿り着いたのを確認する。


「少しの間、こっちは任せたぞ」

「急いで下さい」


 鎖に拘束されている魔神だが、今にも内側から吹き飛ばしてしまいそうで鎖が悲鳴を上げている。

 足場を蹴って『門』の傍へ下り立つ。


「ここからは俺がやる」


 とはいえ、やることは限られている。

 俺の【収納魔法】で収納することによって対象の使用方法を知る。

 だが、『門』は完全に地面と接着しているため収納することが今のところはできない。


 だから、収納すべきは別の物だ。

 『楽園の門』の両端にある柱を殴る。すると、欠片程度の大きさだが柱の一部を砕くことに成功した。


「【収納】」


 柱の欠片を収納する。

 柱だけで壊すのに力を要した。『門』そのものは柱以上に頑強に造られているはずなので今以上の力を要することになる。最悪の場合には砕くことができない、なんて事も考えられたため柱を狙わせてもらった。


 欠片程度の大きさ……それも飾り程度の柱でしかない。

 それでも『楽園への門』の一部(‘‘)であることには変わりない。


「分かったぞ」

「え、ホント?」


 想定されていた事とはいえ、すんなりと未知の道具の使い方が分かったことで女子生徒たちの顔に笑みが浮かんでいた。


「単純だ。『門』を潜る時に行きたい場所を強くイメージすればいい。それだけで向こう側へ行くことができる」


 正しくは、向こう側を設定することができる。

 魔法道具には起動に必要な魔力を充填させたり、中には詠唱や起動に必要な行動を求められたりする場合がある。


 しかし、『楽園への門』は周囲に満ちる瘴気や魔力を自動で吸い取って起動までしてくれる優れ物であり、起動条件も必要ない。

 ただ、強く行き先をイメージする必要がある。


「やった! これで帰れる!」

「お母さんたち心配とかしていないといいんだけど……」

「大丈夫よ。その為に召喚された時間まで戻るんだから」


 喜びから飛び跳ねている少女たち。

 彼女たちの願いが世界を越えるのに不足している、そんな事は言わせない。


「早くして下さい!」


 ショウから懇願の声が響く。

 いつまでも拘束していられる状況ではないのだろう。


「俺から行かせてもらう」

「高山先輩……」


 高山先輩。

 柔道部に所属する3年生で、異世界に来てからも【格闘術】のスキルを手に入れたおかげで戦闘では頼られ、柔道をやっていたことから体格も大きく、下級生を纏められるだけの人望があった。今は、異世界へ来て危険な目にも遭ったことで精悍な顔つきになっていた。


 事前の取り決めでは女子から使うことになっていた。

 そして、その順番も決めていた。こんな魔神が迫ってくる状況を想定していた訳ではないが、いざ使用する段階になって揉めるような真似になるぐらいなら事前に順番を決めておいて順番を優先させる。


 そう、決めておいたはずだ。


「ちょっと」

「何、考えているのよ!」


 女子生徒からは不満が溢れる。


「もちろん、お前らの言いたい事は分かっている。けど、こいつは正常に作動するのか? それなりに信用できる物なんだろうけど、誰かが使う必要はあるだろ」


 そう言われるとその通りだ。

 俺たちにとって『楽園への門』ぐらいしか頼れる物がない、というのも事実だが、『門』に関する情報は長老の知る伝承や『叡智の書』が齎してくれた情報ぐらいしかない。使い方は、俺が調べたから大きな間違いはないだろうが、不安が残るのは間違いない。


「俺が試す」

「でも、高山先輩が試す必要はないんじゃないですか」


 俺が試せばいい。

 俺なら、どんな事故に巻き込まれたとしても生還できる自信があるし、ここへ戻って来るのも『転移の宝珠』があれば容易だ。

 そういう意味もあって俺がテストした方がいい。


 だが、俺の提案を高山先輩は首を横に振って否定する。


「お前は、俺たちにとって最後の切り札だ。何かがある訳にはいかないんだ」


 俺の肩に手を置いて諭すように言う。

 異世界に来てステータスが上がり強くはなったが、体格はそれほど変わっていないため鍛えられていない体には置かれた高山先輩の手が重たく感じる。


 その時……


「マズい……!」


 魔神が体内に溜め込んだ瘴気を一気に解放し、自分を拘束していた鎖を粉々に吹き飛ばした。粉々になってしまう使い魔のシルバーだが、スライムであるシルバーはバラバラに弾け飛んだ肉体を集めれば元に戻ることができる。

 それよりも危険なのは魔神の方だ。


「許さん……!」


 随分とお怒りだ。

 まあ、自分しか使うことができない物を使われようとしているのだから怒ってしまうのも無理ない。


「誰でもいいから早く潜って下さい!」


 マコトが魔神と斬り合っている。

 スキル【模倣】の対象にしているのは、今回の侵攻で将軍に選ばれたランズリー将軍をベースに伝承の中にあった勇者の技を取り入れている。どういう訳か、魔王を倒す勇者には剣を使っている者が多い。まあ、数ある武器の中で最も扱いに癖がないから多くの者が選んでいる。スキルとの兼ね合いもあるのだから偶然だろう。


 マコトの剣が振るわれる。

 鋭く狙い澄まされた斬撃は魔神の首を捉えており……


「貴様も後回しだ!」


 魔神の姿が消えたことで空振りした。


「え、あれ……?」


 困惑するマコト。

 今の魔神にとって何よりも優先するべきは『門』を使用しようとする雑魚の排除。

 その為なら、空間を転移することも厭わない。高山先輩の頭上に姿を現す。その手には瘴気で作られた剣がそれぞれの手に握られており、アイテムボックスの力で多少のステータスアップをした程度では耐えられずに一撃で両断されてしまうだけの威力を秘めている。


「もう分かった」

「なに!?」


 俺の聖剣と魔神の剣が交差する。

 襲われる直前に……正確には空間を転移した直後に魔神の位置が分かった俺は聖剣で斬り掛かっていた。


 力を込めて顔を赤くする魔神。

 いや、顔を赤くしているのはそれだけが理由じゃない。


「自分の居場所が知られたのがそんなにショックか」

「……」

「図星みたいだな」


 魔神に空間を移動する能力があるのは最初の段階で分かっていた。

 現れた魔神と俺の位置はかなりの距離があった。ついでに言えばお互いの位置は下と上。さすがに距離があって垂直に移動している相手に気付けないほど間抜けなつもりではない。


 移動に魔神が用いた能力は超スピードではない。

 その確証を得る為に知覚能力を何倍にも引き上げる魔法道具まで使って警戒していたが、姿を現した瞬間まで警戒には引っ掛からなかった。

 もう、空間を移動しているのは確定した。


「悪いが、これは俺たちで使わせてもらう」

「何を……」


 魔神の意見は全て無視だ。

 聖剣から手を放し、少し距離を取ったところで内部に蓄えていた魔力を一気に解放して爆発させる。

 余波が下へ行かないよう【収納魔法】で守るサービス付きの爆発だ。


 それでも魔神は倒せていない。

 僅かに仰け反っている間に収納から槍を取り出す。


「行け、ヘスぺリス」


 対魔王用の秘密兵器。

 魔神相手でも効果があるが、保有している瘴気の量が違いすぎて魔王ほどの効果は見込めない。

 それでもダメージを受けた魔神を押し込むだけの力はあるらしく、奥の壁へ串刺しにしていた。


「今の内に『門』を使用して下さい」

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