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第7話 魔神

 『楽園への門』から姿を現した『ソレ』。

 まさに『ソレ』としか言い様のない存在。全身を黒いローブで覆い、フードを被っているため表情が分からず不気味だ。


 だが、『ソレ』の異様な原因は別にある。


「なんだ、あれは……」


 これまで魔物や魔族と戦い、出会ったことで純粋な生物とは異なる気配にも慣れていた。

 しかし、世界の底で現れた『ソレ』は別物だ。

 そう思わせるだけの異様な気配があった。


 ソレ――『魔神』と思われる存在がゆっくりと顔を上げる。

 フードに隠れ距離があるため表情は定かではないが、その相貌が赤く煌めいたように見えた。


「え……」


 次の瞬間、魔神が目の前にいた。


「排除する」


 短く告げられた言葉。

 至近距離から言葉と共に腕が伸ばされ、魔神の腕が俺の胸を貫いていた。


「ぐはっ」


 咳き込むと大量の血が口から吐き出される。

 接近に気付けなかった。目的の物を実際に見つけて油断していたが、それでも現れた魔神の姿を見て警戒していた。あれは、異常な速さで接近したとかいう次元の話ではない。


「もらうぞ」

「……」


 自分の胸を貫いている腕を掴む。

 貫かれてダメージを負った体のまま力を込めると魔神の腕が捩じ切れる。


「これで一矢は報いた」


 胸の中に残っていたままの腕を引き抜いて収納すると膝をついてしまう。自分のステータスに反映されるはずの腕が消失している。収納した腕は瘴気で作られている。そのせいで核と言える胴体から離れてしまうと、すぐに消えてしまう。


 魔神が俺から興味を失ったように背を向ける。

 胸の中心に大穴が開いた状態では長く生きていられない。

 そういった判断からの行動だろう。


 そして、腕を捩じ切られた事も気にした様子がない。


「無駄な事を」


 ボソッと呟くと捩じ切られた魔神の腕に瘴気が渦のように集まり、数秒と経たずに元の状態に戻ってしまう。

 なるほど。どんな能力を使っているのか分からないが、傷付いた肉体を再生する術は所持しているようだ。


「どのような意図があってここへ来たのか知らないが、私の庭園へ侵入した以上は排除させてもらう」


 庭園。魔神にとって、この場所は自らの庭園らしい。

 そして、そこへ無断で入った俺たちは侵入者以外の何者でもなく、力尽くで排除することを決定した。


 その目が俺以外の勇者へ向けられる。


「この世界で生まれた人間とは違う気配を感じる。余興として面白くなるのは、もう少し先の事だと思っていたが、今回はイレギュラーが発生したようだ」

「余興?」


 魔神の言葉に誰かが尋ねる。


「最初は、全てを凌駕する力を手に入れた私が無聊に生み出した魔王だったが、人間は魔王に対抗する為に私の造った『門』を僅かにだが利用することを考えて異なる世界から人を喚び寄せる方法を思い付いた。完全な偶然による救済だったが、世界を渡った人間には力が与えられ、この世界の誰よりも強くなれる事が分かった。その力は魔王に及ぶほど。人間が必死に抗う姿を見るのは実に楽しく――滑稽だった」


 暇を持て余した魔神は、ゲームでもするかのように魔王と人間を争わせ、必死になる姿を見て楽しんでいた。

 身内だけで楽しむなら問題なかったが、巻き込まれた方としては堪ったものではない。


「ここへ来るのは想定外。貴様らに分かり易く説明するなら、ストーリー攻略には関係のない裏ボスに挑んでいるようなもの。そのような事は観測者として認められない」


 魔神の手に黒い渦が集まって生まれる。

 瘴気を自在に操っている。


 魔神の思惑は分かった。

 ……なら、もう我慢する必要はない。


「死ね」

「なにっ!?」


 ―――ズガガガガガガッッッッッ!

 背を向けていた魔神に接近して殴り飛ばす。


 致命傷を与えたとばかり思っていた魔神は俺に対して完全に隙を晒していたため想定以上に吹っ飛んで壁に叩き付けられるとバウンドをしながら反対側の壁に埋まる。

 魔神は油断はしていた。しかし、油断していたのも油断していても問題ない理由があったからだ。


「今の内に『門』へ急げ!」

「え、でも……」

「あいつは死んでいない。というよりも倒すのは不可能だ」


 もうもうと立ち込める土煙。

 その中でゆっくりと立ち上がる魔神の姿があった。


「ノーダメージ!?」

「違う。そうじゃない」


 魔神の姿を見て驚くハルナの言葉を否定する。

 殴った俺が最も分かっているが、今の一撃は不意を突いたおかげで頭部を陥没させられていた。

 けれども、立ち上がる魔神にはそれらしい怪我すらない。


「おそらく俺と同じ……いや、似たような能力だろ」


 俺も胸に空いていた穴が塞がっている。

 いつもの如くパラードから奪った【再生】があるおかげで致命傷であっても癒すことができた。

 魔神にも負傷を治療する“何か”があるのが今ので分かった。


「じゃあ、どうやって倒すの?」

「俺が思い付く限りで不死にも等しい再生能力を持っている奴を倒す方法は二つ」


 能力を封じる。

 力が尽きるのを待つ。


 どちらも今の状況では魔神を相手にするには無理だ。再生に似た何らかの能力を持っているのは間違いないが、具体的にどのような能力を所有しているのか分からない。


 それに力が尽きるのを待つのも不可能だ。

 魔神が手を掲げると瘴気が集まり、手に纏わり付く。ローブしか身に付けておらず、防具の類を装備していない魔神だが、瘴気を自由に操ることができて身に纏わせることが可能ならば瘴気の密度を考えれば最強クラスの防具を装備しているのと変わりない。

 この場には世界中から瘴気や魔力が流れてくる。

 無限のエネルギーを味方に付けることができるようなものだ。


「つまり、魔神は倒せないの?」

「その通りだ」

「え、本当にどうするの!?」


 俺の結論は魔神を倒せない。

 しかし、俺たちの勝利条件に魔神の討伐は含まれていない。


「アンたちで他の人たちを護衛。全員――門へ駆け込め」


 採れる手段は限られている。

 今、出来る事と言えば魔神を無視して『門』へ駆け込む。


「やはり、そういう手段に出てきたか」


 魔神がローブを脱ぐ。

 露わになった姿は白髪の長身の青年。1000年以上の時を生きているはずなのに俺たちよりも少し年上――大学生ぐらいにしか見えない。


「悪いが、ゲームに戻ってもらおうか。門を使わせるつもりはない」


 魔神に向かって駆ける。空中を走る必要があるが、今の俺たちにとって空中を駆けることなど造作もない。収納から出した瓦礫で足場を作りながら移動する。

 アンたちが底に向かって跳び下り先導する。


 魔神が自分に迫る俺を見る。

 せいぜい俺に意識を向けてもらおうか。

 収納から聖剣と魔剣を取り出して斬り掛かる。


「お前は面倒そうだ。後回しにさせてもらおう」


 剣が振るわれたことで床が斬り裂かれて崩落する。

 しかし、その場に魔神の姿はない。


「どこへ……」

「まず一人」


 魔神の姿を探す。

 行き先など考えるまでもない。誰か別の人の所だ。仲間たちは魔神を前にして委縮してしまっているのか一塊になって移動していた。


 それが、いけなかった。

 落下中の男子生徒の頭を掴むと集団から離れ瘴気を叩き込んでいた。


「弾けろ」


 パァン!

 嫌な音が響き渡る。

 魔神を見れば手は血で赤く染まっており、足元には頭部を失った男子生徒の体が転がっていた。


「私の描いたストーリーから外れるような真似は許さない。舞台から下りると言うのなら、今回は失敗ということで全員を始末するまでだ」


 最悪だ。

 あんな埒外の相手をしながら帰還を果たさないといけない。


「まったく……酷い人です」

「勝手に巻き込んでおいて何を言っているんですか」


 マコトとショウが同時に襲い掛かる。

 しかし、マコトの剣は右手の先から生み出された瘴気の刃によって受け止められ、ショウの槍も瘴気を纏った左手で受け止められていた。


「人のレベルを遥かに超えている。だが、神に勝つほどではない」

「勝つつもりはありませんよ」


 槍が形を解して鎖へと変える。


「む……」


 至近距離で槍を受け止めていた魔神は、突如として生み出された鎖に対応することができずに体に巻き付かれてしまう。


「今の内に――」


 門へ行ってほしい。

 そう伝えようとした頃にはアンが『門』に辿り着いていた。ショウやマコトの事を信頼していたからこそ後ろを気にすることなく前だけを見て進むことができた。


 だが、ここで問題が発生してしまった。


「……どうやって使えばいいの!?」

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