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第6話 世界の底

 魔王城から下へと延びる階段を降りる。

 周囲に光源らしき物は何もない。頼りになるのは俺が持ち込んだ全員分の懐中電灯だけだ。100人で照らせば真っ暗な空間も明るくなる。


 上から凄まじい衝撃音が聞こえてくる。

 同時に天井からパラパラと粉塵が落ちる。


「くっ、やっぱり……」


 工藤先輩が上へ戻ろうとする。


「止めるなよ」

「止めませんよ」

「え?」


 てっきり、ここまで来たのだから止められると思ったのだろう。


「ここまで来て戻りたい、と考えるということは相応の覚悟があっての事なんですよね。だったら、俺は止めるような真似はしません。その結果、元の世界へ戻る事ができなくなったとしても俺の責任ではありません」

「わ、分かったよ!」


 工藤先輩も置いていかれるのはゴメンらしい。

 改めてマコトたちのすぐ後ろまで戻ると階段を降り始める。なんだかんだ言って俺たちを除けば最強の戦力である事には変わりない。


 階段を降りて行く。

 真っ直ぐに続いている階段。もしも、今の角度で降り続けているなら既に魔王城のある場所から離れているだろう。

 それでも頭上から魔王の気配が感じられる。


「なるほど」

「何が分かったんですか?」

「俺は事前に【収納魔法】で地下も調べようとしただろ」


 その結果、魔王城の地下にいくつかの空間を見つけることに成功した。

 そして、用途の分からない空間がここだったのだが、本当に調べることができなかった。

 俺の【収納魔法】は【遠隔収納】の能力もあるので手を伸ばすように収納できる場所を広げることができる。そうして、収納する場所に何があるのか知ることができる。


「けど、地下3階ぐらいの深さまで伸ばしたところで【収納魔法】が使えなくなったんだ」

「え、もしかしてこの先では【収納魔法】が使えないんですか!?」


 レイが怯えている。

 俺たちにとって生命線とも言えるのは、俺の【収納魔法】だ。スキルが使えないとなれば恐怖しても仕方ない。


「いや、スキルは使えるみたいだ」


 問題の地点は既に通り過ぎている。

 スキルを使用して収納から物を取り出してみるが、問題なく取り出せる。


「その理由もハッキリしたよ。さっき問題の場所を通り過ぎた時に世界が変わるのを感じた」

「え……」


 本当に微かな違和感。

 あれは『転移の宝珠』を使って世界を移動する時に立ちはだかる壁を跳び越えた時の感覚に似ている。

 俺以外のメンバーは召喚された時に世界を渡っているものの、あの時は異世界へ来る前の事だったので魔力のような力を感じ取る力もなかったので気付かなくても当然。世界を渡った事のある者はいないので見逃してしまったのだろう。


 だが、世界が変わっているのは間違いない。

 正確には疑似的に作られた世界が広がっている。


「どうやら着いたみたいですよ」


 先頭を歩くマコトが声を挙げる。

 深さにして300メートルは降りただろうか。

 そこは、広い円形の部屋のようで、中心が劇場のように吹き抜けになっている。辿り着いた場所は最上階の外周らしく、目を下へ向ければ何層ものフロアがある。


 そして、最下層には……


「あった! あれが『楽園への門』でしょ!」

「マジかよ……本当にあったのか!?」

「やった! これで帰れる!」


 最下層には全長10メートルはある巨大な扉があった。

 何の飾り気もないが、真っ白な扉は美しささえ感じる。


 あれが元の世界に帰る為に必要な――楽園への門。


 その姿を見た瞬間、誰もが歓喜に喜んでいた。

 誰もが無事に帰還することを望んでおり、危険な目になど遭いたくないと考えていた。過去に召喚された勇者たちが誰も帰還などできないと知らされれば、その想いは、さらに強くなる。

 工藤先輩も目を輝かせている。なんだかんだ言って元の世界へ帰れるのは嬉しいようだ。


 俺も思わず拳を握りしめて喜びを露わにしてしまう。一人だけ何度か帰っていたが、俺の目的は異世界へ召喚された全員を無事に連れ帰ることに変わっていた。その為には『楽園への門』が必要であり、ようやく目的を達成できそうだ。


「……! 全員離れろ!」


 突如として後ろから感じる魔力に叫ぶ。

 勘のいい者は事前に横へ跳び、俺の声が間に合った者もギリギリのところで回避していた。


 しかし、5人ほど呆けていたのか間に合わずに直撃を受ける。


 それは、エネルギーの流れ。

 そもそも、『楽園への門』は世界に満ちるエネルギーに逃げる為の出入口を作る魔法道具。集められたエネルギーは先ほど俺たちが通って来た階段を流れて『楽園への門』を利用して向こう側へと行き着く。そして、時折向こう側からも流れてくることによって世界にエネルギーが再び満ちる。


 だが、これはおかしい。

 先ほど階段を利用している間も微風のように魔力が流れているのを感じ取っていた。それでも、風で言えば微風程度で人を吹き飛ばすような嵐ではない。

 しかし、後ろから叩き付けられた魔力は微風では済まされない。

 それこそ嵐のような威力だ。


 そんな魔力の風に吹き飛ばされた5人は、中央にある吹き抜けを下へ向かって落ちて行く。


「あ、ああぁぁぁ!」


 こちらへ向かって必死に手を伸ばす女子生徒。

 その手を友達なのか吹き飛ばされなかった一人の女子生徒が掴もうとしていたが、空を切ることになってしまった。


 最下層まで100メートル。

 このまま落下すれば異世界へ来て鍛えられた体でも耐えられない。


「掴まれ!」


 咄嗟に収納から鎖を取り出して飛ばす。

 鎖――『生けし鎖(リビング・チェーン)』は、使用者の魔力を得ることによって自由自在に生きているように動かすことができる。長さは30メートル。全員を回収するには足りていないが、不足している分は【無限複製】で繋いで全員の体に巻き付ける。


「大丈夫か?」

「……大丈夫。早く引き上げて」


 突然の事に驚いてしまったものの助けられたことで笑っていた。

 鎖を巻き上げて収納していく。鎖に掴まれていた女子生徒が上まで戻って来ており、先ほど助けようと手を伸ばしていた女子生徒の手を借りて生還を果たしていた。


 鎖に引き上げられて生還する5人。

 救出は鎖に任せて俺は周囲に意識を向ける。


「どうなっている……」

「何を探しているの?」

「もしかして、落とし物でもしたんですか?」


 ハルナとレイが尋ねてくる。

 頼りにされている俺が深刻な顔をする訳にはいかない。

 一人では分かりそうもないので仲間の手も借りることにする。


「さっきの風が魔力による衝撃だっていうのは分かるな」

「うん、もちろん」

「じゃあ、その魔力はどこへ行ったんだ?」

「それは……」


 ハルナも『楽園への門』については知っている。

 この場所へ流れてきた魔力は、『楽園への門』へと流れるようになっているのだから向こう側へと消えたと思った。

 だが、そうはなっていない。


「え、あれ……?」


 ハルナもようやく気付いた。

 流れ向こう側へと消えるはずの魔力が『楽園への門』の周囲に留まっている。

 そして、再び流れてきた衝撃を伴うほどの膨大な魔力も門の周囲に辿り着くと留まっている。


「まさか……」


 このまま放置するとマズいことになる。

 そう、判断してとりあえず飛び降りようとした時――門が勢いよく開いた。


「なに……」


 門が勝手に開くなど想定外だ。


「何か来る……」


 門の向こう側から膨大な魔力が溢れ出す。


「全員、アイテムボックスを起動させろ!」


 まるで水中にいるかのような濃密な魔力が周囲の空間を満たす。

 そのままだったならば溺れたように魔力に酔って死んでしまうところだろう。だが、アイテムボックスが周囲1メートルにある余剰な魔力を吸い取ってくれる。


 それでも、もって一時間。


「来るぞ」


 魔力の奔流が落ち着きを見せた時、それは門の向こうから姿を現した。

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