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第5話 魔王

 魔王城のあった場所へと足を踏み入れる。

 ちょうど入口のあった場所だ。真っ直ぐに進んできたのだから入口に突き当たるのは当然だと言えた。


「おや……」


 俺の気配察知に引っ掛かる存在がある。

 目を奥の方へ向ければ地面から溢れ出した黒い靄みたいな物が人の形を作っていた。


 が、果たしてそれは人と呼んでいいのか。

 全長は3メートル近くあり、はち切れんばかりの筋肉を軍服のような物で包んでいた。それだけならガタイのいい男のように見える。異世界には様々な種族がいるし、魔物と戦うことを生業にしているため鍛えられている者もいる。


 だが、その人影の側頭部からは鋭い角が突き出しており、背中からは翼が生えていた。明らかに普通の人間ではない。

 何よりも表情がよく分からない。それというのも相手の体は全身が真っ黒で、分かるのは体の形と起伏ぐらいだからだ。


 ただし、意思はあるように感じられる。

 こちらの存在を認識しながら、腕を組んで立ちはだかる。

 まるで、こちらを待ち構えているかのようだ。


「魔王……」


 傍にいたランズリー将軍が呟いた。

 へぇ、あれが魔王……たしかに魔族とは比べようがないほどの力を感じる。


「魔王が現れたのは、過去の記憶によれば玉座のあった場所。まさに王がいるべき場所だ。おそらく、何らかの方法で爆発を逃れ、何者かが城に侵入した瞬間に姿を現すようにしていたのだろう」


 改めて収納内を確認してみる。

 先ほどの爆発によって大量の魔物を手に入れることができた。が、その中に魔王らしき存在はないように思える。

 損傷が酷く、元がどんな魔物だったのか分からない物もある。

 てっきり爆発で木っ端微塵にしてしまったかのかと思ったが、どうやら難を逃れていたらしい。


「でも、どうしてこっちを見てくるだけなんですかね」


 魔王は、こちらを睨み付けるだけでその場から一切動こうとしない。


「王として最奥で待ち構える事こそ相応しい、とでも考えているのだろう」


 本当に自分から動くつもりがないのだろう。

 たとえ、目の前に自分を殺しかけ、多くの部下を爆殺させた相手がいたとしても自分から動くような真似はしない。


「くっ……」


 ランズリー将軍が息を呑む。

 ただし、魔王から発せられる圧力は半端ない。

 帝国の将軍であるランズリー将軍も魔王から放たれる無言の圧力に思わず後退りしてしまう。勇者たちの中にも息をすることを忘れてしまう者がいる。


「じゃあ、俺はこっちなので」


 そう言って最奥にある玉座の間ではなく、東側にある倉庫があった場所へと向かう。

 かなりの広さがある倉庫だ。

 おそらく城が原形を保っていた頃は食糧などの保存庫として利用されていたのだろう。大きな城なら大勢の人間が働いていた。彼らを養う為の食糧も大量に必要となるので倉庫も大きく必要になる。


 ここなら地下に何があっても気にされることはない。

 大抵の人間が倉庫内にある物へと意識が向いてしまう。

 まさか、倉庫の地下にこそ手に入れたい物があるとは思わない。


「よっと」


 元倉庫の中心あたりで床を蹴ると崩落する。

 姿を現したのは地下へと続く長い階段。灯りなど当然のようにないので暗い階段がどこまでも続いている。

 もちろん、どこまでも続いている訳ではなく終わりはある。

 この先に『楽園への門』がある。


「本当にあったんですね」


 階段を見ながらマコトが呟いた。


「事前にどこにあるのかは調べていたからな」


 爆発によって粉々になった魔王城の残骸を回収した際に魔王城の構造については把握した。

 その際に倉庫の地下に妙な空間があるのを発見していた。

 他にも地下室はあったが、どれも地下3階ぐらいまでの深さしかないし、使用用途の分かり易い場所ばかりだったので無視した。


 だが、倉庫にあった地下空間だけは別だ。

 調べることができたのは、【収納魔法】が届いた深さまでだが、軽く地下10階はある。そして、それだけの深さがありながら階段以外には何もない。

 使用用途の全く分からない空間。

 これ以上に調べる価値のある場所はない。


「事前に決めていた通りの順番で行こう」

「はい」


 まずは、マコトが先陣を切る。

 その後ろをアンたち3人がついて行く。

 この先に何があるのか全く分からないので先陣を切る者は危険に晒されることになる。どんな状況にも対応できるよう力が求められているので、彼ら4人が適任ということになった。


 そして、異世界の勇者たちが少し離れてついて行く。

 彼らも異世界から召喚されて特殊なスキルを習得しているし、ステータスだってこの世界の人間に比べたら尋常ではない上がり方をしている。それでも、【収納魔法】によるチートパワーアップには敵わない。

 なので、全員にステータスが1万上がるアイテムボックスを渡してある。

 それでステータスの不足を補うことができたが、チートは慣れていないと自滅を呼び込んでしまう可能性があった。速すぎるせいで体が思わぬ場所へ行き、壁などに衝突したり、危機的状況を招いてしまう場所へ放り出されたりすることがある。さらに強過ぎる力は、肉体の限界以上に引き出せば肉体を崩壊させることに繋がりかねない。


 チートに慣れるまでは時間が必要になる。マコトたちだって慣れるまでに相応の時間と実戦を必要とした。しかし、今は慣れるほどの時間はないし、適度な実戦を探しているほどの時間的余裕もない。

 そのため、彼らには死なない為のステータスは与えられたが、戦う為の力までは与えることができなかった。


 もっとも、数だけいても意味がない。

 魔神と戦う為にはマコトたち以上の力が必要になる。

 そうなると戦えるのは俺たちぐらいだ。


 そういった理由から戦力を温存する為に俺たちは最後尾をついて行かせてもらう。

 階段は幅が10メートル近くあり広いのだが、左右には壁があるだけなので横からの襲撃を気にする必要はない。何かしら特殊な方法で壁の向こう側から現れたとしても中央を歩いていれば対処できるだけの空間はある。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……! 本当に魔王を放置して行くつもりか!?」

「……?」


 今さら何を言っているのだろうか?

 俺たちの目的が魔王城の地下にある物だという事は伝えてある。それに、魔王をどうするのかはランズリー将軍に一任するとも伝えてある。


「頑張ってください」

「え、本当に……?」


 その時、玉座の間で待ち構えているだけだった魔王に動きがあった。

 こちらへ向かって全速力で駆けてくる。

 地下へ何人もの人間が入ったことで自分には本当に用がないのだとようやく悟ったらしい。


「総員、構え!」


 ランズリー将軍が指示を出すと随行していた騎士が剣を構える。

 既に魔王城へは数百人の騎士が入り込んでいる。どうなるのか分からないが、ここから先は現地の人間に任せることにしよう。


 とはいえ、剣を構えながらも足をガクガク震わせる姿を見ると情けなくなる。

 せめてもの情けだ。


「瓦礫落とし」


 空中に【収納魔法】の魔法陣を描く。

 魔法陣の向こう側から飛び出してくるのは魔王城の残骸。大半が吹き飛ばされて跡形も残らなかったが、僅かに残った瓦礫が魔王を襲う。

 自分を守るべき城が自分を襲う。


 魔王が足を止めて防御する。


「ほら、行った行った」


 迫る魔王に思わず魅入っていた勇者たちに階段を降りるよう促す。

 そうして、全員が下りたところで俺たち4人も階段を降りる。


「後は任せましたよ」

「ま、待ってくれ……!」


 魔王と対峙させられたランズリー将軍が声を挙げる。

 他の騎士も悲鳴に似た声を挙げているが、全てを無視して階段を下りたところで大きな岩を出して階段の入口を塞ぐ。

 これで簡単には追うことができなくなった。


「この後、どうなるのかはあなたたち次第ですよ」

魔王戦はこれにて終了です。

この後、どうなったのかは全く考えていません。

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