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第4話 【指揮】

 何もかもなくなった荒野を歩く。

 魔王城へは、ここを歩くだけで辿り着く。


「正確には、魔王城はもうなくなっていて魔王城のあった場所へ辿り着けるだけだし、軍勢も消滅した訳じゃないですからね」


 苦笑しながらレイが訂正した。

 彼女が見る先には金色に輝くゴーレムがあった。ゴールデンゴーレム――ゴーレムの中でも最上級の強さを誇る魔物だ。もっとも、手足はなくなり、胴体の機能が辛うじて生きているだけだ。


「ふんっ」


 クラスメイトの一人がゴールデンゴーレムをハンマーで砕く。


「あ、レベルが上がった」

「それだけ経験値がよかったんだろ」


 クラスメイトのレベルが上がった。

 魔物を倒せばレベルは上がる。先ほどの爆弾投下による大量虐殺により俺のレベルは20も上がっていた。既に簡単には上がらないレベルになっていたためレベル上げを諦めていた。それだけにレベルが上がったのは嬉しい。


「ほら、次が来たぞ」


 少し離れた場所に犀の魔物が横たわっていたので、適当な勇者にトドメを差させる。

 この先に何があるのか分からないので少しでも経験値を稼がせてもらおう、という魂胆だ。


 現在、異世界の勇者たちが先頭を歩いている。

 俺たちがトドメを差しているのは進路上にいる魔物だけで、離れた場所にいるのは後方を歩いてついて来ている騎士団に任せてある。


「俺たち何の為に付いて来たんだろうな?」

「あの人、一人で全て十分なんじゃないか?」


 強化された俺の耳がそんな声を拾う。

 まあ、数十万人も連れてきておきながらしている仕事は数十人で虫の息の魔物にトドメを差すだけとかいる意味が感じられない。


 そうして魔物を倒しながら荒野を進むこと1時間。

 ついに魔王城の手前まで辿り着いた。

 近付いて分かったが、大きな建物があったと思える程度には残骸がある。


「じゃあ、最後にアレを倒そうか」


 アレ、というのは魔王城の手前に残された積み上がった魔物の体。

 魔物の中でも最強種であるドラゴンだ。いくら最強種でも禁断の兵器には敵わなかったらしいが、最後の足掻きとでも言うべきなのか何体、何十体というドラゴンが寄り集まって難を逃れようとしていた。

 その作戦は、成功し数十体を犠牲にすることで数体を生き残らせることに成功した。

 目の前に積まれたドラゴンはギリギリのところで生き残ることができた。


 勇者数人が取り囲む。

 魔物は瀕死状態が最も危険。生存本能が強くなり、手痛い返り討ちを受けるかもしれない、というのを異世界に来てから何度も味わっていたため慎重になる。


 と、慎重になったのが功を奏したのかドラゴンの山がもぞもぞと動いたことに即座に対応でき離れる。


「おやおや」


 ドラゴンの山にある隙間から見覚えのある男が出てくる。

 イメージツリーによる通信のやり取りをしていたコンラッドだ。

 とはいえ、今のコンラッドは先ほど着ていたスーツが焼け焦げて何も着ていない。その姿に嫌悪感を抱かないのは全身に負った火傷が原因だ。爛れた肌が何も着ていない事実を隠している。

 改めて禁断の兵器の威力を痛感させられた。


「きさま……!」


 先ほどの理知的な雰囲気など微塵も感じさせない怒りの形相で俺を見る。


「私があれだけの軍勢を用意するのにどれだけの苦労をしたと思っている!?」

「そんなこと知らないよ」

「……! いいだろう。これだけ近付けば先ほどの強力な攻撃はできないはず。ここまで近付くのを待っていた! ドラゴン共を盾にした甲斐がある!」


 どうやらコンラッドはドラゴンを盾にしてやり過ごしたらしい。

 たしかに逃げるのが不可能な以上は僅かな可能性のある方法だ。


「後悔しろ!」


 コンラッドの背から黒い腕が左右に出現する。

 黒い腕が、死体寸前のドラゴンの体を掴むとドラゴンが消える。


「は?」


 まるで俺の【収納魔法】みたいな消え方をするドラゴン。

 次の瞬間、コンラッドの体が倍近くに膨れ上がり、全身がドラゴンの鱗に覆われていた。


「残りの奴らも寄こせ!」


 次々とドラゴンの体に触れて消していく。

 その度に体が少しずつ大きくなり、まるで竜人とでも呼ぶべき姿へと変わる。


「これが私の【指揮】が持つ本当の能力。指揮下にある者を喰らうことで相手の特性を得て、さらにはステータスアップを果たせる能力だ。本来なら、大軍が意味を成さなかった時に数万を超える魔物を喰らうことで貴様を倒すつもりだったのだが……」


 実際に喰らうことができたのはドラゴン数体分。


「まあ、いい。これでも最強種のドラゴンだ。既に最強の力を得た」


 鋭い爪の生えた腕を伸ばしてくる。

 速度も数体分のステータスを得ているらしく、凄まじく速い。


「……! どうして受け止めることができる!?」


 それでも俺にしてみれば遅い。

 竜人の指を掴んで受け止めた。どれだけ速く、どれだけ力が強くてもドラゴン数体分では俺に敵わない。


「お前が取り込むことができたのはドラゴン数体分だろ。倒される前の数にしたって100体ちょっとが限界だ。お前が指揮下に置くことができたのは魔王城の近くにいる魔物だけだ。俺は世界中を旅して既にドラゴンを狩り尽くす勢いで倒して収納してある」


 ステータスアップを図るうえでドラゴンほど効率的な魔物はいない。

 おかげで俺の収納にはドラゴンの死体が数万体レベルでいる。正確な数字については分からないが、ステータスアップに一役買ってくれたのは当然だ。


「いい事を教えてやる。お前の能力なら全員のステータスを一人に集約させて強力な戦士を生み出すことができるんだろ。だが、たとえ最初から全員をお前の能力で取り込んでいたとしても今の俺のステータスには敵わない」

「この……!」


 コンラッドが腕を全力で引き、口に魔力を集中させる。


 ブレスだ。

 ドラゴンが最も得意としている攻撃方法。全てを焼き尽くす光の砲撃が放たれようとしている。


「……何も学習していないな」


 ブレスが放たれる。

 同時に【収納魔法】の魔法陣を出現させ、盾のようにして受け止めるとブレスが俺たちへ届く前に消失する。


 これまで遠距離攻撃を全て収納してきたのは何度も見せたことがあるし、爆発が自分たちに及ばないよう【収納魔法】で取り込んだのは見せたはず……あ、爆発を取り込むところはドラゴンの山に埋もれていたせいで見ていないのか。


 とにかく最強の攻撃を放つ、という致命的な隙を生み出してしまった。クールタイム中は何もできない。仲間がいるならカバーしてくれるだろうが、虫の息だったとはいえ、仲間を全て取り込んでしまった。

 コンラッドの後ろへ回り込んだショウとマコトが自分の武器で斬り付ける。


 血を吹き上げながらコンラッドが倒れる。


「こ、こんなはずでは……」


 何かを呻いているコンラッド。

 こんな隙を逃すはずがない。


「よし、全員で斬り掛かろう。せっかくの経験値を手に入れないと勿体ないぞ」

「はい」

「え……」


 俺の言葉を受けて真っ先に倒れたコンラッドを攻撃するレイ。彼女も随分と逞しくなった……というよりも俺に染まった。

 対して比較的近くにいた近藤先輩は困惑している。力尽きて倒れている相手に追撃する事に気が咎めるのだろう。残念ながら、ここは異世界。相手が魔王軍の四天王である以上は容赦をする必要がない。


「魔神がどれだけ強いのか分からないです。生き残りたいなら少しでもレベルを上げておいた方がいいですよ」

「……分かった」


 不承不承といった感じで斬り掛かる。


「貴様ら……!!」


 最後の力を振り絞って立ち上がる。

 勇者たちも最大限の警戒をして離れる。


「もう、いいだろ」


 全員が1回は攻撃している。

 最後に収納の魔法陣からミサイルを顔だけ出す。


「ファイア」


 火を噴きながらミサイルがコンラッドに直撃する。

 直撃した瞬間、周囲にある物全てを吹き飛ばす威力の爆発が起こる。


「まさか……」

「核ミサイル。まさか爆弾しか用意していないはずがないだろ」


 直撃を受けるコンラッドを囲むように魔法陣を展開。爆発は魔法陣の外へ行くこともなく、内部にいる者だけを焼き尽くす。


「……どうやら何も残らなかったみたいだな」


 爆発が収まったようなので魔法陣も解除すると、そこには何も残されていなかった。


「あ、レベルが上がった」


 全員のレベルアップにより最後の魔王軍四天王が倒された事実を知った。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ゴールデンゴーレム 収納できるものは全て収納したあとに残ったのが寄りにもよってこれとは 目立つだろうしゴーレムは収納できるのだからわざと残したんでしょうかね 状況を鑑みると瀕死のゴーレムと…
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