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第11話 キャンプ

 朝起きて朝食を食べてからギルドへ向かうと入り口前にはゼンさんが既に待っていた。


「おう、来たな」


 先輩を待たせてしまったにも関わらずゼンさんは俺たちを快く迎え入れてくれた。


「こいつが噂の新人か」


 ゼンさんの隣にいた槍を持った男性が俺のことをジロジロと見てきた。

 その後ろにいる2人の男性も俺たちのことを観察するように見ている。


「新人冒険者のソーゴです」

「ショウです」

「ハルナです」

「レイと言います。本日はよろしくお願いします……」


 こちらから挨拶をすると俺たちのことをジロジロと見ていた男性も姿勢を正していた。


「俺はフリックだ」

「僕の名前はクルト」

「……ヴァン」


 槍を持った男性がフリックさんで、後ろの方で動きやすい服を着た男性の方がクルトさん。魔法使いっぽいローブを着た寡黙な男性がヴァンさん。

 うん、覚えた。


「行き先はデリストル火山だ」

「デリストル火山?」

「ああ、ここから南東に1日ほど行った場所にある」


 俺たちが最初に行った丘はメテカルの北にある。

 次に行った鉱山はそこから東に行った場所にあるので、南東の方には行ったことがない。

 というかこの辺は山が多いな。


「この近くに山が多いのはメテカルが元々は天然の要塞として利用される為に造られた都市だからだ。魔物と言えども山越えをすれば体力を消耗するし、接近を逸早く気付くことができる」


 天然要塞にする為に地形を優先して場所を考えていたのか。

 街の近くに山があるのではなく、山の近くに街を造っただけの話だ。


「朝の内に出掛ければ徒歩でも夕方前には着く。夜の山は危険だから山の麓で野営をして探索は明日行う予定だ。が、問題が何もなければ明日には帰って来られるはずだ」

「はい」


 討伐依頼も初めてのことだが、日数の掛かる依頼も初めてのことだ。

 4人の近くには荷物の詰め込まれたリュックが置かれていた。中には簡易式のテントまである。冒険者として活動するなら野営の装備も必要になるな。



 ☆ ☆ ☆



 道中、ゼンさんたちに冒険者として心構えなどを聞きながらデリストル火山へと向かう。

 その話によるとメテカルからデリストル火山へと向かう時には立ち寄らないが、南の方には温泉街があるとのことだ。日本人としては温泉街と聞いて興味が湧かないはずがない。


「……今度、その温泉に行きましょう」


 レイが遠慮がちに俺に提案してくる。

 その理由は温泉に行くための資金を俺が出すことになるからだ。

 冒険者ギルドで依頼を受けて報酬を受け取っているとはいえ、最低ランクの依頼では日々の生活費を稼ぐので精一杯。そのため温泉に行けるような余裕はない。というわけで俺が王城の宝物庫から盗……もらってきたお金を使う必要がある。


「まあ、偶の休みに贅沢をするぐらいはいいんじゃないかな」

「やった」


 俺から許可を貰うと嬉しそうに離れて後ろの方へと移動する。

 やっぱり見ず知らずの人たちと一緒に行動するというのは彼女にとっては遠慮してしまうもので一歩引いた場所から着いて来ていた。


「よし、着いたぞ」


 目の前には高く聳え立つ岩肌の山。

 今日は、ここで野営をすることになった。


「それにしてもお前の収納魔法は便利だな」

「そう、なんですか?」


 収納から野営に必要なテントや火を熾す為の薪なんかを取り出しているとゼンさんが笑いながら俺の収納魔法を評価した。

 俺としては他の収納魔法を直接目にしたことがなく、話に聞いたのも倉庫の管理人が使える収納魔法だけだから評価のしようがない。


「普通の収納魔法ならテントを2つぐらい持っていければ優秀な方なんだよ。それがお前の収納魔法は何だ?」


 既にテントを2つに大量の薪、8人分の食料を取り出している。

 収納から取り出した物だけでもゼンさんにとっては規格外の力らしい。これでも一部しか取り出していないんだけどな。


「どうにも基準が分からないので自分が凄いっていう自覚が持てないんですよね」

「そういうもんか」


 それに俺にできるのは道具を出すところまでだ。

 日本にいた頃はキャンプなんて小学校の頃の学校行事でしか参加したことがなく、その時はキャンプ場の人たちが組み立ててくれたテントで寝泊まりしたため自分たちでテントを組み立てた経験はない。

 1つをフリックさんとヴァンさんが組み立ててゼンさんとクルトさんの指示の下2つ目のテントを俺たちが組み立てて行く。


 メテカルを出発する前にゼンさんに頼み込んで野営に必要な道具について聞き、それらを購入していた。


「お前さんたち依頼を数回しか受けたことがない冒険者じゃなかったのか?」

「そうですよ」

「その割には野営に必要な道具を購入したり、装備も一流品を持っていたりしているじゃねぇか。その資金はどこから用意したんだよ」


 そういうことか。

 その辺の言い訳は既に考えてある。


「装備に関しては冒険者だったらしい俺たちの親から譲り受けた物です。テントとかを買った資金については、実家から持ち出した物だっていうだけですよ」

「そういうことか」


 どうやらゼンさんも納得してくれたらしい。


 冒険者は過去のことを無暗に詮索したりしない。冒険者の中には人には言えない後ろ暗い事情を抱えていたりする者がいるためだ。

 そのため冒険者を守る為のルールとして『冒険者になる前の過去は詮索しない』というルールが作られた。

 俺たちのことも冒険者になる前のことは詮索されない。


「それよりもこんな感じでいいんですか?」


 4人で寝泊まりするということで少し大きめのテントが出来上がっていた。


「ああ、初めてにしては上出来じゃないか?」


 ゼンさんから了承を得られたなら問題ないだろう。


「この後は夕食の準備ですか?」

「普通は野営となると最低限の食糧だけ持ち込んで焚火の前で寒くないように食べることになるんだが……」


 ゼンさんの視線の先には大きなテーブルの上に置かれた調理器具一式と様々な食材があった。

 テーブルや食材もテントを購入する際にキャンプ感覚で買ってしまったものだ。


 買った時には、「こんな物を買ってどうやって持ち運ぶんだ」と怒られてしまったが収納魔法が問題を解決してしまった。戦闘には直接役に立たない魔法かもしれないけど、俺の収納魔法は万能すぎる。


「もういい。俺たちは自分で持ってきたメシを食うから自分たちの食事は自分たちで用意しろよ」

『はい』


 後は指導の必要はないだろうと自分たちのテントへと戻って行くゼンさん。

 しかし、ここで最大の問題が発生していることに気付いた。


「誰か食事の作れる人」

「「「……」」」


 俺の質問に誰も答えてくれない。

 そして、俺もまともな食事なんて作ったことはない。


 とりあえずテントを買った道具屋の近くにあった青果店や肉屋でジャガイモやニンジンっぽい野菜に鶏肉を買ってみた。キャンプと言ったらカレーという安易な発想からだった。

 食材を買うことはできた。

 しかし、肝心なルーがないことに気付いてしまった。


「もう1度聞くけど、『ルーを使わないカレーを作れる人』は?」

「ルーが使えるなら家でお母さんの手伝いをしていたのでカレーぐらいは作れると思うんですけど、ルーを使わないカレーなんて作ったことがないです……」

「同じく」

「僕はそもそも料理の経験すら乏しい」

「俺も……」


 買った材料で何が作れるかと考えた結果、鶏肉と野菜炒めを作ることになった。さらに男2人が料理には役に立たないという事実が判明してしまい、ハルナとレイが作った夕食を食べてその日は眠ることになった。


 ただし、野営中ということで魔物に襲われたりしない為に見張りが必要になる。

 女子2人には先に見張りをしてもらい、俺とショウが焚火の前で明け方の見張りをすることになった。



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