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第30話 集まった戦力

今回も第三者視点です。

 結局、あれからも召喚された仲間たちに声を掛けて回ったが、色好い返事をもらえた者はいなかった。


 そして、色好い返事を貰えたはずのパーティメンバーも……


「ごめん」


 翌朝になって頭を下げてきた。


「どうして!?」


 これまで一生懸命一緒になって戦ってきた。

 それが、裏切られてしまった。


「あいつから聞いた。これからの戦いに参加すればミカがいなくなる可能性が高いらしい。だから、俺は戦えない。王都にいる人々じゃなくてミカを助ける為に戦わないといけないからだ」


 それがシュースケの出した答えだった。


「もう、いい!」


 ジュンイチには協力してくれない理由が分からなかった。

 いや、理由は分かる。けれども、人々から助けを求められて喚ばれた者として、これから起こる戦いから逃げる訳にはいかないはず。

 そして、それはこれから会う人たちも同じはず。


 王城から離れ、さらに王都の南側にある門から外へ出る。

 これから何が起こるのか具体的な事は教えてもらえなかったが、最初にどこで対処すればいいのかだけは聞き出すことができていた。


「これだけ?」


 目の前にいるのは兵士。

 昨日の内に宰相へお願いして集められるだけの戦力を用意してもらった。どんな敵が攻め込んでくるのか情報を教えてもらえなかったため自分たちだけの力で……結局、自分一人しか戦わないため自分の力だけで対処できるのか判断することができなかったからだ。


 もしも、自分の力が及ばず……勝つつもりではいるが、王都に何らかの被害が出てしまった場合には対処する人が必要になる。敵と戦っている間は自分では対処することができない。

 これまでも強力な魔物を討伐した際に近隣の村に被害が出てしまうことがあった。その時には、村の兵士が一丸となって避難誘導にあたり、燃えている建物への対処に勤しんでいた。

 その為の人員。


 だが――集められた人員は数十人だった。

 王都に住まう数十万人のことを思えば少なすぎるくらいだ。


「どういうことだ? 王都には、もっとたくさんの兵士や騎士がいるはずだろ!?」


 そもそも兵士の姿しか見当たらない。

 兵士よりも強い騎士が見当たらない。


「そりゃ、そうだ」

「お前……」


 聞き覚えのある声に振り返る。

 そこにはソーゴを始めとした4人が集まっていた。


「あんたは、最初に頼んで戦力を集めたけど、今の宰相には権力なんて無いに等しいんだから、集められる戦力なんてこの程度だ」

「どういうことだ……?」


 勇者からの反感を買った罪で窮地に追い遣られた宰相。

 本来ならば罪人のように裁かれ、とっくに宰相の地位から落とされていてもおかしくなかった。


 が、宰相という地位に就く人物は必要だった。

 そのため罰として宰相を継続してもらうことになった。


「これまで勇者召喚に関して不正を働いていた連中は全員が資産を失うという罰に見舞われている」


 現代の勇者召喚で罪を犯した者はもちろん。

 そして、過去の勇者召喚において罪を犯した者も罰せられている。

 彼らにも子孫はいる。というよりも貴族家として繁栄を続けており、何かしらの役職に就いている者たちだった。


「あいつらの繁栄は、勇者召喚の際に不正な方法で得た膨大な資産が大きく影響している。子孫には何の罪はないかもしれないけど、家には責任を取ってもらうことにした」


 不正を働いた分は既に徴収済みだ。

 当時よりも少しばかり没落していたせいで家を維持できなくなった貴族までいる始末だ。


「この国は本当に酷いな。今は、地方を治める領主になった貴族もいるけど、王都にいるほとんどの貴族が不正な方法で繁栄していたぞ」


 そして、ほとんどの者がそんな事を知らない者ばかりだった。

 彼らの怒りは、いきなり徴収していった俺へ向けられたが、俺の怒りを買うことになった現代で不正を働いた宰相たちへも向けられた。


「騎士は貴族連中の影響が強い。中には貴族出身の騎士がいるぐらいなんだから当然だ。そんな連中が、恨みを買っている宰相を相手に力を貸すと本気で思うか?」


 何よりも宰相の言葉を最初から信じていない。

 そのため戦力の供出を渋ったのだ。


「集められたのは新米の兵士たちのみ、っていう訳だ」


 まだ戦力として見做されていないため貴族たちも関心を持っていない。

 宰相が集められたのは、そんな戦力だけだった。


「後は頑張ってください」

「ほ、本当に助けてくれないのか!?」


 集められた戦力を見て今さら怖気付いていた。

 ソーゴの考えは最初から変わらない。


「俺の答えは変わらない。それよりも不安そうにしている兵士を前に勇者としてやることがあるんじゃないですか?」

「もちろん!」


 ジュンイチは兵士たちの前に立つ。


 魔王の復活によって急遽徴兵された兵士。彼らには、これから何が起こるのか説明されていなかった。

 今にも不安で押し潰されそうになる。

 それでも、この場に立っていることができたのは、目の前に世界を救う存在である勇者がいたからだ。


 勇者の伝説について知らない者はいない。

 誰もが憧れる存在。


 その視線こそジュンイチの戦う目的だった。


「聞いてほしい。これから『魔王軍四天王』がここへ攻め込んでくるらしい」


 魔王軍四天王――その言葉を聞いた瞬間、兵士たちは体を震わせてしまった。

 勇者と同等に語られる存在である四天王。まさか、自分たちがそんな存在と相対するとは思っていなかったためだ。


「だけど、安心してほしい。四天王は、俺が必ず倒す。あなたたちには俺が四天王と戦っている間、王都へ被害が出ないよう避難誘導で対処してほしい。決して無茶な要求をするつもりはない」


 避難誘導ぐらいなら既に訓練でしっかりと学んでいる。

 兵士たちの空気が少しだけ軽くなる。


「そうはいかないんだけどな」

「どういうことだ?」


 ソーゴの呟きが聞こえたジュンイチが詰め寄る。


「これから何が起こる!?」

「本番まで、もう少し時間があるけど、そろそろ始まるぞ」


 腕時計で時間を確認したソーゴが南東側を見る。

 そこには、5キロほど先に広大な森があり、自然豊かなこともあって木の実などが豊富で、獣も多くいるため王都に住む人々の食糧事情を支えていた。


 森から一頭の狼が出てくる。


「なんだ、灰狼(グレイウルフ)か」


 兵士たちから安堵に似た声が零れる。

 灰色の毛をした狼。野生動物なので襲われれば非常に危険だが、温厚な性格なので人を襲うことは滅多にない。この場にいる兵士たちなら出身が田舎ということもあって森の中に入って狩ったこともある。


 兵士になってから鍛えられたこともあって安心していた。

 今の自分たちなら灰狼程度は簡単に狩ることができる。


「……おい、あの灰狼変じゃないか?」


 兵士の一人が気付いた。

 森から出てきた灰狼は、温厚な普段の姿とはかけ離れて「グルルッ」と低く唸って自分たちを警戒していた。さらに牙の生えた口を歪に広げ、涎を垂らしていた。まるで獲物を定めたような姿だ。

 そのせいか兵士たちが狼狽えてしまっている。


「あの狼が魔王軍四天王なのか?」

「そんな訳ないだろ」


 ジュンイチがバカみたいな質問をしているが、ソーゴが一蹴する。

 そうしている間にも森から異変が次々と出てくる。涎を垂らしながら牙の生えた口を広げた灰狼がワラワラと出てくる。


 ――合計で100頭。


「あれが第一波だ」

「第一波って……」

「お前は、さっき自分が四天王の相手をするって言ったけど、四天王に辿り着くまでに対処しないといけない軍勢がいるんだよ。あれも、お前が一人で対処するつもりか?」


 100頭の灰狼が王都へ向かって駆け出す。

 王都を守らなければならない立場にいるジュンイチとしては対処するしかなかった。


「……やってやる!」


 剣を携えたジュンイチが駆け出す。


「俺が灰狼を斬っていく! みなさんは、俺が討ち漏らした狼を対処して下さい!」

「了解です!」


 兵士たちもジュンイチの後に続く。

 ステータスの差から全く追い付いていないが、彼らの役割を考えれば問題ない。


「あの、本当にこのまま放置するんですか?」


 レイが不安そうに尋ねる。

 事前にこれから起こることは聞かされていたが、実際に起こった光景を見て不安になってしまっていた。


「もちろん。狼の群れ程度なら勇者と数十人の新兵でも対処は可能だ」


 向かって来ているのは普通の灰狼ではないので、簡単ではない。それでも不可能という訳ではない。


 その時、王都を囲む城壁の向こう側で「カンカンカンカン」と鐘の音が鳴らされる。

 城壁にいる人たちも王都へ灰狼が迫っていることに気付いたため警戒を促す鐘を鳴らしていた。通常、いくら数が多いとはいえ灰狼が迫った程度では鐘が鳴らされることはない。

 ということは、彼らはジュンイチたちが気付かなかった脅威にも気付いた。


「こっちも動くぞ」


 灰狼はジュンイチたちに任せてソーゴたちも動き出す。

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