第29話 仲間集め
前半は第三者視点です。
後半はソーゴ視点です。
ソーゴと別れた工藤淳一が真っ先に行ったことは仲間に事情を説明することだった。
困っている人々を助ける為にも力を貸してほしい。
どれだけの人が賛同してくれるのか分からない。
先ほどの説明を受けて召喚された人々の多くが異世界に対して見限っていた。それでも自分と志を同じくして戦ってくれる者はいるはず。
そう信じて仲のいいパーティのリーダーの元へと向かう。
「いや、もう止めておくよ」
「え……」
告げられた返事は予想していないものだった。
これまで困っている人がいれば率先して危険な魔物にも立ち向かっていた。
そんな相手だからこそ手を貸してくれると思っていた。
「どうして、これ以上危険なことに首を突っ込まないといけないんだ?」
「だって……このまま放置すると何の罪もない人が犠牲になるかもしれないんだぞ」
「大丈夫だって! きっと騎士とか兵士さんが守ってくれるから」
そう言って離れていってしまった。
「え、もう魔王を倒す必要はないんですよね」
「これ以上危ない目に遭うのはちょっと……」
その後も何人かを誘ってみたが、誰も助けようとはしてくれなかった。
無理もない。ソーゴにも言われてしまったが、大多数の人が戦っていた理由は元の世界に帰る為に必要だと言われていたからだ。
それが、魔王を倒したところで元の世界へ帰れる訳ではない。
しかも、これまでの勇者たちは使い捨てられるように戦いの中で死んでいった。
そんな状況を聞かされて自分から戦いたいと言い出す者はいなかった。
「くっ……」
思わず歯を噛みしめて拳を握りしめてしまう。
最後に残った仲間を頼ることにする。
他のパーティはダメだったが、召喚された時からずっと一緒にいてくれた本当の意味での仲間なら賛同してくれる。
特別なスキル【神聖剣】と【絆の力】を授かった勇者。
そんな特別な勇者と肩を並べて戦う勇者も特別なスキルを持っていなければならなかった。幸いにして一緒に召喚された者の中に特別、と呼べるスキルを持った者はいたため宰相の勧めに従ってパーティを組んだ。
同じ学校に通っていた相手とはいえ、顔と名前をギリギリ知るレベルの相手。
最初は上手く連携することもできなかったが、今となっては信頼できる仲間なうえ、愛情だって芽生えていた。
だからこそ――
『……』
話を持ち掛けた3人が沈黙してしまうのが信じられなかった。
迷っている。
これまでリーダーとしてパーティの行動方針を提示すれば細かな調整として意見を言われることはあったが、大きく反対するようなことはなかった。
だが、今は答えを出せずにいた。
「どうして? このままだと多くの人が犠牲になることになるんだぞ」
「たしかに、その通りなんだけど……」
元の世界ではクラスメイトで聖職者の仲間が目を伏せながら言う。
「正直言って恐いの」
うんうん、と他の二人も頷いている。
「恐い、ってそんな……」
「だって、これから行われるのはゲームじゃないのよ! 万が一にも大怪我を負うようなことがあれば死ぬかもしれない!」
「そんなの、これまでと同じじゃないか!」
「同じじゃない! だって、これまでは元の世界へ帰る為には嫌々でも戦い続けないといけないと思っていたから! こんな世界の人たちの為に命を懸けなきゃいけない理由なんてないの!」
「そんな……」
「もう、帰りたい……」
帰る方法が見つかった。
その結果、これまで張り詰めていた糸が切れてしまった。
少女は泣き崩れて、それをパーティメンバーである魔法使いの少女と格闘家の少年が慰めている。
「工藤君は戦いたいの?」
「困っている人がいるなら助けてあげるべきだろ」
「だったら、まずは俺たちを助けてくれよ」
格闘家の少年が立ち上がる。
相手の方が工藤よりも背が高く、見上げるような姿になってしまった。
「召喚されたばかりの頃を思い出せ。いつも『帰りたい』って言っていた女子だっているんだぞ。お前も、召喚された人間の一人なら同じように召喚された仲間を優先して考えるべきなんじゃないか?」
「それは……」
「俺はこっちの世界に来てからお前に助けられたからな。だから、力は貸してやる。もしも、帰りたいって言っている連中を帰すことに成功した後で、お前がこの世界の為に力を尽くしたいっていうなら協力してやる」
それでは遅い、という言葉を言えなかった。
ソーゴの計画が完遂された際には手の施しようがなくなってしまう。
そんな状況ではチヤホヤされるなどあり得ない。
「どこまで信用できるのか分からない。けど、明日、魔王軍の四天王がここへやって来るらしい」
「ここへ!?」
四天王という言葉を聞いて仲間が驚いている。
これまでに強力な魔物を討伐してきたし、時には盗賊に堕ちた人間をその手で殺めたことだってある。
だから、人を――人の姿をした魔物に堕ちた人間を相手にする覚悟はできている。
だが、これまでに魔族と遭遇した経験はない。
それなのに、いきなり四天王を相手にしなければならない。
しかし、避けては通れない相手。
「もしも、そんな奴が王都で暴れたら王都はどうなる? たくさんの人が犠牲になる。そんな状況を見過ごしていいのか?」
「……分かった」
「シュースケ!?」
「俺だって戦う力があるのに暴れる奴を黙って見過ごすのは間違っていると思う。こんな世界へ召喚した連中を許す気にはなれないけど、一般人には何の罪もないんだから」
「ありがとう。俺は、他にも協力してくれる人がいないか探してくることにするよ」
これまでに声を掛けた人たちは全く協力してくれなかった。
ところが、ずっと一緒に行動してきた仲間に声を掛けたところ好意的な返事をもらうことができた。
だからこそ、工藤は仲間の様子に気付くことなく協力者を集いに走り去ってしまった。
☆ ☆ ☆
「で、俺に相談しに来たと」
暇そうにしていたショウ、ハルナ、レイを連れて王城の食堂でのんびりと過ごしていると工藤先輩のパーティメンバーが近付いて来た。
この食堂は城に勤める騎士や使用人向けの施設なのだが、召喚された勇者たちは自由に利用することができていた。
死んだことにされていた俺たちは利用することができないはずなのだが、食堂で働いている人たちに異世界人を見分けるような力はない。他の勇者たちと同様に利用させてもらった。
「工藤から魔王軍の四天王が来ると聞いたんだが本当か?」
「本当ですよ」
「そうか。やっぱり情報源はお前だったか」
パーティメンバーの……高原先輩は納得したようだ。
「こんな情報を信じるんですか?」
「嘘なのか?」
「嘘ではないです。確実に来ます」
襲来する未来を回避していないので、このままだと襲撃は確実に起こる。
「何もしなければ多くの人が犠牲になると思うか?」
「なりました」
騎士や兵士は王都へ入れないよう王都の外で奮闘していたが、力が足りなかったせいで王都へ踏み入れられてしまった。
その先に待っていたのは蹂躙だ。
「お前は、罪のない人たちが襲われるのを見過ごしたのか?」
高原先輩から真剣な目で質問される。
たしかに彼が言うように俺は罪のない人たちが犠牲になるのを見過ごした。
「ええ、そうですね。俺なら全員を助けることができました。助けることができる力があったのに助けなかった。それは、見過ごしたのと同義ですね」
「どうして……」
「簡単ですよ。一般人に罪はない。けど、同時に俺たちには彼らを助ける責務はありません。彼らを助ける責務があるのは王都を守る騎士や兵士ですよ」
世界を救う為に召喚されたが、そんな責務を押し付けられても困るだけだ。
力のない一般人を救うのは騎士や兵士の仕事だ。
彼らの仕事を奪う訳にはいかない。
「まあ、納得いかないんでしょう。俺は、俺で助けなければいけない人たちがいます。少なくとも優先順位を間違う訳にはいかないんです」
「お前の気持ちは分かった」
俺の協力は得られないと理解したのか去っていく。
ああ、一言ぐらいはアドバイスしてあげよう。
「四天王を相手にするのは結構ですけど、その時には死んでしまうかもしれない可能性を覚悟しておいて下さい。力の弱い連中なら簡単に死んでしまいますよ……というよりも死にましたよ」
魔法使いの少女を見ながら教えてあげた。




