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第10話 同行要請

 鉱石採掘に出掛けた翌日。

 朝からギルドに顔を出すとギルドの職員が俺に荷物配達の依頼を引き受けて欲しいとお願いしてきた。どうやら式典の準備で色々と荷物が運び込まれてくるせいで整理が進んでいないらしい。

 で、暇になったみんなも雑用依頼を引き受けた。

 依頼そのものは短時間で済むものだったので、昼過ぎには全員がギルドに集合することができた。


「疲れた~」


 ハルナが依頼で山や鉱山に行った時には出さなかった声を出して酒場のテーブルに突っ伏していた。


 まあ、採取依頼と接客では疲れる理由が違う。


 俺も知らない場所をあちこち駆け回っていたせいで疲れた。

 そのため、こうしてギルドで依頼完了の報告をした後は、ギルドに併設された酒場で注文して飲み物を飲んでいた。ただし、飲んでいるのはお酒ではなくジュースだ。


「で、明日はどうする?」

「そうだな……依頼を受けることには変わりないんだけど……」


 俺たちの目標は依頼を受けて生活費を稼ぐことではなく、冒険者としてのランクを上げることで信用を得ることにある。

 FランクからEランクへの昇格の為には一定の実力があると認められてFランクの依頼を確実にこなすことで認められる必要がある。まだ2つしか依頼を引き受けていないので、今後も依頼を受けてランクを上げることになる。


 問題なのは、どの依頼を受けたらいいのか迷ってしまうことにある。

 Fランクの依頼は、危険度が低く魔物と遭遇しても弱い魔物ばかりな場所での採取依頼がほとんどだった。

 おかげで採取してくる物や場所が違うだけで似たり寄ったりな感じになっていたので迷っていた。


「経験値を稼ぐ意味でも採取依頼は必要なんだけど、似たようなことをするのも退屈なんだよな」


 ジュースを飲みながらそんなことを考えていると、


「おう、お前が『運び屋』か?」


 1人の男が話し掛けてきた。


 男は身の丈ほどある大剣を背負った冒険者で服や鎧に隠れていない体は筋肉で膨れ上がっていた。俺たちみたいな素人からでも明らかに強いと思わせるだけの風格があった。

 だが、だからと言って物怖じしてはいけない。

 ここは冒険者ギルド。実力が物を言う場所である。


「あなたは?」

「俺はCランク冒険者のゼンだ。お前の『運び屋』としての噂を聞いて依頼を手伝って欲しいと頼みに来た」

「まず、『運び屋』って何ですか?」


 ゼンさんは明らかに俺たちに対して話し掛けている。

 そして、俺たち4人の中で誰が『運び屋』として呼ばれることになるのかは少し考えれば分かる。


「お前さんのことだろ。どれだけ重い荷物でも収納してしまって大量にあった荷物を目的地まであっさりと運ぶ驚異の新人。そんな噂が流れているぞ」

「え!?」


 まさか、自分が冒険者の間で噂になっているとは知らず思わず驚いてしまった。

 しかも変な異名まで付けられて……


「改めてお前さんの実力を確認したいんだが、どの程度までなら収納できるんだ?」

「どの程度?」

「収納限界のことだ」


 ちょっと困った事態になった。


 冒険者にとって自分の実力やスキルに関しては伏せておきたいものだ。

 自分の切り札が知られれば相手は当然のように対抗策を用意してくる。そうなれば待っているのは敗北だ。


 本来なら俺も同じように収納魔法の限界を教えるべきではないのだろうが、生憎と教えたところで対抗策など取りようがないので教えることにした。


「そうですね。1度に収納できる大きさに限界を感じたことがないので重量だけで言うならこれ(・・)ぐらいは簡単に収納することができると思いますよ」

「これ?」


 そう言って人差し指で下を指差す。


「……テーブル?」

「ああ、違いますよ」


 テーブルの前に座っていたせいで下を指差すとテーブルを示していた。

 なので、テーブルから逸れた場所へと指を移動させて床を示せるようにした。


「酒場、か……それが本当なら驚異的――」

「いえ、もっと広く見て下さい」

「まさか……!」


 ゼンさんも気付いたみたいだ。


「その気になればギルドをそのまま収納することも可能なんじゃないですかね」

「なに!?」


 先日、レベルが3に上がっていた影響かさらに収納できるスペースが広がった。おかげで倉庫の1つが一杯になるほどの荷物を収納しても余裕があった。その時の感覚からギルドを全て収納するぐらいは可能になった。


 ただし、本当にできるわけではない。

 俺の収納の中には既に多くの武器や道具が詰め込まれているため、ギルドを収納するには収納されている物を全て取り出してからという条件が付く。


 もっともレベルアップすればその限りではないが。


「分かった。ただでさえ運び屋としての噂が本当なら明日の仕事を頼もうと思っていたんだ。それだけの自信があるなら噂は本当なんだろう」


 さっきから聞いていると仕事を頼むつもりでいるみたいだ。


「どんな仕事なんですか?」


 特に明日以降の予定も決まっていなかったので、とりあえずゼンさんが頼もうとしていた依頼内容について聞いてみることにした。


「ああ、式典で色々と物が必要になったせいで燃料なんかの物資が足りなくなってきたんだ。それで俺たちのパーティがフレイムリザードという名前の魔物を狩って素材の調達に行くことになったんだが、頼まれた素材の量が量なんで何度も往復する必要があるんだ。そんな時にお前さんの噂を聞いて同行してもらえないかと思ったわけだ」


 つまり、俺に自分たちの倒した魔物の荷物持ちをしてほしい。

 依頼の内容は分かった。


「ちょっと相談してもいいですか?」


 同じテーブルを囲んでいた3人と依頼をどうするのか相談する。

 依頼内容は一緒に聞いていたので分かっている。


「どうする?」

「向こうが欲しいのって規格外の収納魔法を使えるソーゴだけなんだから、あたしたちは必要ないんじゃない?」

「だけど、僕たちはパーティだ。雑用依頼みたいな1人でできる依頼ならともかく街の外に出掛けるような危険が伴う依頼の時には全員で受けようって決めただろ」

「……でも必要なのはソーゴさんだけなんですよね」


 みんなの言いたいことは分かった。


「すみません。今回の依頼なんですけど、パーティ全員で受けて報酬の方もそれなりに弾んでもらえるなら受けたいと思います」

「ちょっと……!」


 さすがに先輩相手にこの要求は失礼だと止めようとするが、もう決めたことだ。


「いいだろう。ただし、荷物が持てないからといって依頼を途中で放り出すことは許さない。俺たちが討伐した素材をきちんと持って帰ってくれるなら全員に報酬を出そう」

「ありがとうございます」

「明日の朝、ギルドの前で集合だ。これが依頼票になるから受付で手続きを済ませて来てくれ」


 そう言ってゼンさんが離れて行く。

 今回の雑用依頼も立派なFランクの依頼になる。荷物持ちや数日かかる依頼の場合には野営時に人手が必要になる。そう言った時に新人冒険者が先輩冒険者から雑用を依頼されることもある。


「さて、シャーリィさんの所に行って手続きをしたら帰ることにするか」


 明日は朝早くから先輩冒険者に同行しての討伐依頼になる。

 自分たちが自主的に行う討伐依頼ではないが、初めての討伐依頼に今から少しだけワクワクしていた。


 それが、あんな悲惨な状況になるなんて思いもしなかった。


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