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第24話 天空の城―⑤―

 フリューゲルにある『玉座の間』。

 広い部屋の奥に玉座があり、絨毯が敷かれている。本来なら城で一番偉い人間が来訪者を迎える為の部屋なのだが、魔王から逃れていたため誰にも使用されることがなかった部屋。


「こんなところへ案内してどうするつもりなんだ?」

「たしか『制御室』へ案内してくれるはずですよね」


 一応、主だと認めてくれた自動人形。

 彼女に頼んでフリューゲルの航行を操作することが可能な部屋へと連れて行ってもらうことになった。

 だが、連れて来られたのは玉座の間。

 部屋の窓からは光が差し込み、天井が高い。何もない部屋なので制御するような装置があるようには見えない。


「こちらになります」


 玉座の後ろで屈むと玉座の背面をキーボードのように叩く。


 タタタッ……

 何らかの言葉を入力すると床が開いて階段が現れた。


 何も言わず自動人形が階段を下りて行く。

 俺たちも黙ってついて行くと地下3階に相当する場所まで潜ったところで扉が開き、灯りが溢れた。


「う……」


 扉の向こう側に広がっていたのは幾何模様の浮かんだ壁。

 それに十数個の椅子が並んでいる。

 宇宙船の艦橋みたいな場所だ。


「ここでフリューゲルを制御しているのか?」

「その通りです」


 そう言って壁の一部に地図が表示される。


「これは世界地図?」


 俺たちも何度か異世界ポラリスの世界地図を見たことがある。さすがに一般市民では購入することができないが、王城や軍事基地には作戦を考える為に用意されている。

 だが、その世界地図とは大きく違う。

 俺たちが見たことのある世界地図は、壁に表示された世界地図の中心部分に該当する。


「そうか。海の外にも大陸があったんだな」


 俺たちがずっといたのは一つの大陸。

 大陸の外側は海に囲まれていた。

 地球と同じように海の向こう側には別の大陸があり、世界全体で見た場合は俺たちの行ける場所は本当に狭い。


「現在はこのような航路を取っています」


 ノジュールのある場所の近くから矢印が引かれ、蛇行しながら惑星を一周する航路を辿っていた。

 風や重力、磁場といった影響のせいで蛇行しながらでなければ進み続けることができない。そして、そういった影響は常に変化している。


「この航路を変えるのは可能か?」

「はい。あくまでもフリューゲルへの影響が少ない場所を通っているため、このような航路になっていますが、フリューゲルに蓄えられたエネルギーを消費すれば航路の変更は可能です」

「だったら、ここへ向かってほしい」


 地図の一点を指し示す。


「そこは……」


 自動人形にもそこがどこなのか分かった。


「ああ、魔王城のある場所だ」


 今いる大陸の北部。

 その中心にある魔王城を目指してもらうことにする。


「この城はバリアで常に守られているんだよな」

「はい。魔王の攻撃にも耐えられるよう計算されて設計されております。ですが、軍のような大規模な攻撃になると耐えられません。それが、どうしましたか?」

「なら、これにも耐えられるはずだ」


 収納から取り出してそれを見せる。


「それは……」

「非常に強力だけど、危険な代物だ。運用には細心の注意が必要になる。だから、これの運用を君に任せたい」


 ゆっくりとスーツケースに入ったソレを渡す。

 まだ起動状態でないのだから起爆するようなことはないのだが、万が一の場合を考えると慎重にならざるを得ない代物だ。


「そんなに危ないの?」


 ハルカが横からヒョコッと覗き込んで来た。

 せっかくなので俺が何をするつもりなのか教える。


「げっ、これを使うつもりなの?」

「ダメ……?」

「ダメっていうか……いいの?」


 魔王ほど強力な存在に対抗するのだから、これぐらい凶悪な物は必要になる。


「本当にこれで魔王を倒すことが可能なのでしょうか?」

「間違いなく倒せる」


 言い切ると安心したような表情になる。


「では、これは私が預かりましょう」


 自分のアイテムボックスを持っていたらしく、俺が渡した物を受け取る自動人形。


「じゃあ、今後の予定の確認だ」


 自動人形に魔王城までフリューゲルを移動させた場合の時間を予測させる。

 正確な時間を求めるまで時間が掛かるらしいので、その間に昼食を済ませる。


「おお、これは美味い!」


 若返ったような笑顔でハンバーガーとポテトを頬張る司書長。喉が詰まったらコーラを飲んでいる。

 ポラリスにもハンバーガーやポテトはあるが、日本の物には遠く及ばない昔に食べた味を懐かしんで再現しただけの物。やはり、日本から持って来た物の方が美味しい。あと、さすがにコーラはない。


「皆さんの世界にはこのように美味しい食べ物がたくさんあるのですか?」

「そうですね。これぐらいなら簡単に食べられますよ」

「ほう。それは素晴らしい」


 感心した様子の司書長。

 劣化品とはいえ再現することには成功しているのだから、どれだけの年月が掛かるのか分からないが、食べることは可能なはずだ。


「これは、ガムリーですね」

「知っているのか?」

「はい。以前の主たちが好んで食べられておりました」


 もう既にどこにも残っていないが、彼女の記憶にだけは彼らの好きだった物などの記録が残されている。


 移動時間の計算を一時中断して彼女の記録に残されていたガムリーの映像を壁に映し出されて見せてくれた。

 2枚のバンズに挟まれた肉。映像だけではどんな肉を使っているのか分からないが、見た目は完全にハンバーガーだ。それにポテトは思いっ切りそのままだ。


 他にも見させてもらう。

 お好み焼きにたこ焼き、お寿司といった食品が映し出されて行く。


「これらは全て異世界から流れて来た品々です」

「異世界から?」

「はい。このような物が過去にはありました」


 次に映し出してくれたのはマンホールのような物。

 そこに手を添えている男がいる。男が手から魔力を注ぎ込むとマンホールのような物から光が放たれてハンバーガーが出てくる。


「おい、これって……」

「はい。異世界から色々な物を召喚する為の魔法道具です」


 自動人形によればマンホールのような物よりも小さな物を異世界から呼び寄せることが可能になる魔法道具らしい。

 ただし、条件が必要になる。

 満月の晴れた日でなければならない。

 大量の魔力が必要になる。

 呼び寄せられるのは1つだけ。


 そうした条件から彼らは呼び寄せた物を再現することに注力した。


「これもそういった物の一つです」

「これ?」

「はい」


 そう言って下を指差す自動人形。


「ああ、なるほど」


 フリューゲルを最初に見た時、中世ヨーロッパにある城みたいな感じだと思ったが、決して間違いではなかった。


「他にもあるなら見せてくれないか? できれば実物があれば見せてほしいんだけど」

「残念ながら実物は既に朽ちております。ここは上空なせいか状態保存の魔法も上手く機能しなかったためです」


 残っているのは映像と情報のみ。

 それでも全く残っていない訳ではない。


「よし、時間が来たら確認してみよう」

「かしこまりました」


 再度、移動時間の計算に移る自動人形。


「何があったんですか?」


 みんな、俺の異変が気になるみたいでこっちを見ていた。


「さっきの映像」

「ハンバーガー」

「包装紙が微妙に知っている物と違うだろ」

「言われてみればそうですね」


 似ているけど、全く違う物だ。

 みんなは懐かしいハンバーガーの映像が気になって包装紙まで気にしていなかった。

 パチモンと言ってしまえばそれまでだけど、俺には別の可能性が頭に浮かんだ。


「あの魔法道具は異世界から呼び寄せる物だけど、俺たちの居た世界だけから呼び寄せる訳じゃない。似ているけど、全く違う世界だってあるはずだ。そういう世界から呼び寄せたんだろ」


 その辺の情報を解析することができれば【収納魔法】をさらに強くすることができる。

 それに探していた物をようやく見つけることができた。


「さあ、これで全ての準備は整った。最後の仕上げといこうか」


物集めはこれで終了。

次回から、3人目の四天王戦になります。

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