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第23話 天空の城―④―

「テスト?」


 予想していなかった言葉に聞き返してしまった。


「はい。ここには万が一に魔王から襲撃を受けた際に備えて様々な兵器が眠っております。それらは非常に危険な代物で、全ての力を振るえば魔王のいない時代なら世界を征服する事が可能なレベルです」


 それだけの力を持っていても魔王をどうにかすることはできなく、魔王から逃れるだけで精一杯だった。

 それでも強力な兵器であることには違いない。

 そんな兵器が眠っている。


「防衛の為に用意された兵器。世界を征服する為などに使われたくありません」


 自動人形でありながら明確な自分の意思を示した。

 次の瞬間、庭の一角から音が響いて来る。


「1000年振りに使用しましたが、格納庫は今でも正常に稼働しているみたいですね」

「格納庫?」

「はい。フリューゲルの地下には魔導鎧を格納しておく為の倉庫があります」


 ゆっくりと左右に割れる地面。

 次第に開いた地面の下から姿を現す人がいた。


 いや、それは人の形をしているが、人ではない。大きさは5メートルあり、全身鎧のような形をしている。

 鋼のような金属によって体を構成されたゴーレムだ。

 これまでにも何度かゴーレムを見ているため一目で分かった。


 ただし、これまでに見て来たゴーレムとは完成度が違う。


「起動」


 自動人形言った直後、鎧ゴーレムの体に光が灯り動き出した。

 1歩ずつ自分の状態を確かめる為に前へ歩み出す。


「……どうやら魔導鎧の方も問題ないようですね」

「どうして、こんな物が?」

「本来想定されていたフリューゲルへの侵入方法は、手懐けたワイバーンに乗って空を飛ぶ、というものでした。そのため空を自在に飛べる存在に対する迎撃が必要だったのです」


 そうして用意されたのが現れたゴーレム。

 背面にはバックパックのような物も取り付けられているし、今の言葉からして空を飛ぶこともできるのだろう。


「この魔導鎧と戦って力を証明して下さい」

「それで、主だと認めてくれるのか?」

「はい。いくら私が思考したところで人の善悪など判断のしようがありません。ですから貴方の力量からマスターに相応しいか判断させていただきます。世界を征服できるだけの力。それ以上の力を持っていれば、簡単に世界征服の為に使用しないだろうと信じることができます」


 ようはゴーレムなどなくても自分の力だけで世界征服ができるところを見せてみろと言いたいらしい。

 実際、その気になれば【収納魔法】だけで世界征服は簡単だ。

 とはいえ、この世界そのものに対して全く興味がないため征服する気が全く起きない。

 なので、世界征服をするつもりなど微塵もない。


「壊してもいいのか?」

「できれば遠慮して欲しいところですが、ゴーレムを停止させるには完全に破壊するか動力源となっているコアを破壊する必要があります。魔導鎧にはアダマンタイトが惜しみなく使用され完全破砕は難しいです。また、アダマンタイトを使用しているため外からコアの位置を特定するのは不可能です」


 ゴーレムはコアとなっている魔石が動力を生み出して動かされている。

 魔法使いのように魔力に対する探知能力に優れた者がゴーレムの内部を探知すればコアの位置を特定することができ、一点に狙いを絞って攻撃してコアを破壊するなり、コアの放つ魔力波形に干渉することで停止させることもできる。


 だが、残念なことに魔導鎧にはコアの破壊はできない。

 魔導鎧の外装に使用されているアダマンタイトには抗魔力の特性が備わっている。防具に使用することで魔法に対する耐性を高められる。今回は、その特性を利用し魔導鎧内にあるコアの位置を特定できないようにしていた。魔力探知はソナーに似た方法で感じているため鎧に触れた瞬間に弾かれてしまっている。


「ゴーレムを破壊できるほどの威力を持つ攻撃なら魔法が必要になる。けど、アダマンタイトを使用することで破壊を防ぐ。さらに探知もできないようにされている訳だから一点突破も通用しない」

「はい。このゴーレムが100体おります」

「100体!?」

「たった1体では押し寄せる魔王軍に対抗することはできません。量産する必要がありました。あまり好ましくはありませんが、1体程度なら破損しても影響はありません。存分に力を示して下さい」


 さすがは魔王対策に造られたゴーレム。

 アダマンタイトは産出量が少ない金属であるため非常に高価だ。本来なら量産など不可能だが、魔王を恐れた為政者たちは惜しみなく量産してしまった。


 そんな貴重な物を壊してもいい?

 いくら許可が出ていたとしても庶民感覚で生きている俺にはできない。


「……俺がやっていい?」

「たぶん自動人形はソーゴの事を主だと認めているみたいで、あたしたちの事はおまけ程度にしか考えていないからソーゴが実力を示した方がいいんじゃない?」

「それも、そうだな」


 俺以外の者が魔導鎧を破壊してしまうと自動人形が納得しないかもしれない。

 決意を固めると魔導鎧の方へと歩いて行く。


「武器は使用されないのですか?」

「アダマンタイトを外装に使用しているような奴を相手に並の武器じゃあ傷を付けることすらできないだろ」


 実際、その通りだ。

 普通の剣で斬り付ければ逆に砕かれてしまう。

 頼れるのは【収納魔法】ぐらいしかない。

 まあ、方法がない訳ではない。


「では、行きますよ」


 魔導鎧の体が唸りを上げる。

 瞬間、地面を滑るように……実際に地面を足に取り付けられたタイヤで滑りながら移動すると一気に接近し、いつの間にかどこかから取り出して戦槌を叩き付けてくる。


 振り下ろされた瞬間、横へ動いて回避すると立っていた場所に大きな穴が開いている。


「いいのか? ここを守る為の防衛システムの一部が土地を破壊しているけど」

「問題ありません。フリューゲルには自動修復する機能があります。この程度の損傷なら資材さえあれば修復できます」


 その口振りからして資材についても問題ないのだろう。

 だが、それでも美しい景観が損なわれるのは嫌だ。


 再び振り下ろしてきた戦槌を手で受け止める。


「え……」


 魔導鎧の繰り出す戦槌による攻撃は人間が簡単に受け止められるようなものではない。

 にも関わらず平然とした様子で受け止めている、という事実が受け止め切れないらしい。


「たしかに強い。けど、精々がドラゴン程度の強さしかない。それじゃあ俺には勝てない」


 ギシギシ、と音が鳴りそうなほど力を込める魔導鎧。

 それでも俺の体を動かすことすら叶わない。


「悪いな」


 戦槌ごと魔導鎧の体をヒョイと持ち上げると地面に叩き付ける。

 人間なら背中を強打して立ち上がれないような衝撃。しかし、ゴーレムである魔導鎧はすぐさま立ち上がろうとする。


「これで俺の実力は分かったんじゃないか?」

「……まだです。魔導鎧よりも強い力を持っている事は分かりましたが、アダマンタイトの体を破壊できるほどではありません」

「そうか」


 収納にある聖剣やら魔法道具の力を使えば魔導鎧を破壊することは可能だ。

 だが、せっかく自分の物になるのに自ら破壊してしまうのは勿体ない。


 納得してくれるかどうかは微妙なところだが、ステータスの高さを見せても納得しないのだから仕方ない。


「さあ、来いよ」


 手を動かして魔導鎧を挑発する。

 魔導鎧に感情などないが、操作する相手には伝わる。


「全力で行かせてもらいます」


 魔導鎧の内部で魔力が今まで以上にうねりを上げる。

 おそらく出力を上げることによりパワーを向上させたのだろう。先ほどのままでは勝てないと分かっているのだから向上させるしかない。


 戦槌を持った魔導鎧が駆ける。


「――収納(ストレージ)


 攻撃するべく振りかぶったところで魔導鎧が姿を消してしまった。


「え、え……?」


 自動人形が感情を持たないにも関わらず困惑している。


「どこへ……は、反応消失(ロスト)……!?


 指示を出していた自動人形には魔導鎧の反応を追うことができるらしい。

 尤も、その探知能力も俺の収納までは及んでいない。


「ここにあるよ」


 安心させてあげる為に魔導鎧を収納から出す。


「何をしたのですか? それに私の命令を全く受け付けません!」


 姿を現した時点で戦闘を再開しようとしたのだが、自動人形からの命令を一切受け付けず微動だにしていない。

 理由は俺が魔導鎧の制御権を奪ってしまったからだ。


 物体なら、どんな物でも収納することができる【収納魔法】。

 魔導鎧も物体である事には変わりないので収納し、制御権もついでに奪わせてもらった。

 もう、自動人形の言葉は届かない。


「魔導鎧の支配権を奪わせてもらった。これで勝ったと見做してくれないかな?」

「……」

「それに君なら分かっているはずだ。俺がその気になれば魔導鎧を破壊するぐらいは簡単なはずだって事ぐらい」


 そう言って収納からパイルバンカーを取り出す。

 フリューゲルを覆っている結界を貫いたパイルバンカーだ。


「俺はさっきフリューゲルの結界を貫いた。魔導鎧はたしかに強力だけど、結界の方が強力なはずだ」


 あくまでも魔導鎧は魔王軍との戦闘を想定した物。防御力だけでなく、攻撃力や敏捷性にも重点を置いている。

 対して結界は襲撃があった際に備えられたもので、防御力にのみ重点を置いている。

 当然、防御力だけを比べれば結界の方が強い。


 つまり、結界を貫いて侵入を果たせた時点で自動人形には俺が魔導鎧よりも強いことは分かっていたはずだ。


「本当は新しい主を認めたくないんじゃないか?」


 いつの間にか顔を俯かせていた自動人形。

 俺の言葉にゆっくりと顔を上げる。


「私は魔王から逃れた人々をお世話する為だけに造られました。ですが、魔王とは関係ないところで人々は死を選んでしまいました。全ては私の責任です」


 自分がストレスを感じさせないような世話をできていれば主たちはしななくても済んだかもしれない。

 自動人形であるにも関わらず、そんな後悔を抱き続けていた。


 いつしか自分も地上へ身投げしてしまいたいと思うようになった。

 それでも、1000年以上もの間、新たな主を待ち続けていたのは最後の主からの命令があったから。


「私は役目を終えました。これより機能を……」

「はい、ストップ」


 機能を停止させようとした自動人形を止める。


「何でしょうか?」


 頭ではどう思っているか知らないが、侵入を果たしたおかげで主だと認めざるを得なかかったため俺の命令を聞いてくれた。


「俺は、フリューゲルを使いたいんだけど、使い方がまるで分からないんだ」

「魔導鎧のようにすればいいのでは?」


 残念ながらフリューゲルは大地が一緒になっているせいなのか物体として見做すことができずにいた。

 誰かが俺の命令を聞いて動かす必要がある。


「君たちは魔王なんて存在が現れたせいで逃げざるを得なかった。だったら、魔王を恨んでいたりしないかい?」

「それは……」

「俺たちは、この世界とは違う世界から来たんだけど、元の世界に帰る為には魔王が邪魔なんだ。ちょっと協力してくれない?」


収納できないので自動人形の助けが必要でした。

まあ、自動人形を収納して完全な制御下に置くとかフリューゲルを収納する方法がない訳でもないんですけどね……

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