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第22話 天空の城―③―

 緑の生い茂る庭が広がり、中央には大きな洋風の城が聳え立っている。

 高度を考えれば人間が普通に生活するのは不可能に思えるのだが、今のところ息が苦しくなるようなことはない。ステータスのおかげかと思ったが、城のある大地を覆うように結界が展開されている。それらが気圧などから中にいる人を守ってくれているのだろう。


 一人でこんな事を考えていても何も始まらない。

 仲間を呼び寄せるべく『転移の宝珠』を取り出す。


 対になった方は向こうに置いて来ている。

 すぐに足元に置いた『転移の宝珠』が光を放って何人もの人間を連れて来る。

 パーティメンバー、そして司書長のマグルスさん。


「って、なんであなたがいるんですか!?」


 当初の予定ではパーティメンバーだけが転移してくるはずだった。

 というよりも、あの場にマグルスさんがいる事を想定していなかった。


「せっかく『天空の城』内部へと入れる機会なのですからワタシも見ておきたかったのです」

「ごめんなさい……」


 謝って来るレイ。

 最初はマグルスさんを置いて転移をするつもりだったが、転移する直前になってマグルスさんがショウの服を掴んで一緒に転移してしまった。

 つまり、勝手について来てしまった。


 これはレイたちを責める訳にもいかない。

 マグルスさんに対して強く言い含めていなかった俺にも責任がある。


「ついて来てしまったものは仕方ないです」

「ありがとうございます!」

「その代わり、どんな危険があるのか分からないんですから自分の身は自分で守って下さい。俺たちはあなたを守るような事まではしないのでご注意してください」

「もちろんです。これでも貴族の端くれですから教育を受けています。最低限の攻撃魔法ぐらいはできますよ」


 とはいえ、本当に最低限の攻撃魔法だけらしく、冒険者で言えばEランクと同じくらいと言ったところだろう。


「……まあ、いいです」


 マグルスさんの戦闘力には期待せず改めて『天空の城』の様子を見る。


「これが『天空の城』……」

「ラピュ〇みたいなのを想像していたんだけど、ちょっと違うわね」


 マコトとアンの弟姉が呟いた。

 アンが言うように『天空の城』という言葉を聞いて全員が真っ先にロボットの待ち構えている城を思い浮かべていた。

 だが、実際に下り立った『天空の城』はしっかりとした大地が浮かび、中央に大きな城のある場所。庭では城にいる人たちが生活する為に必要な食物を生産する畑のような場所があった。


「ですけど、庭の方は荒れていますから数年の間に農業をした形跡はありません」


 庭は荒れており、草が生え放題だった。

 中央にある城以外には見るべき場所もないので探索するとしたら……


「中央にある城か」


 城の入口を見る。

 5メートルほどの大きな木製の扉がある。

 他にも入口があるのかもしれないが、正面から見える範囲では他の入口は見当たらない。


 ギ、ギィ……!


 重たい音を響かせながら扉がゆっくりと開いて行く。

 俺たちは誰も扉に触れていない。

 そうなると内側にいる誰かが触れたことになる。


 マグルスさん以外の全員が城の中から出て来る者を警戒して武器を構える。


「……『天空の城』に誰かがいたという話は?」

「聞いたことがありません。そもそも内部がどのようになっているのか、それらは全て推論でしかありませんでした」


 つまり、ここから先については行き当たりばったりで進むしかない。

 マグルスさんの言葉を聞いて事前に策を用意するのを諦める。


「……メイド?」


 現れたのはメイド服を着た少女。

 年齢は俺たちと変わらないくらい。緑色の髪を腰の辺りまで伸ばしており、金色の瞳でこちらを見て来る。


 ただし、その表情には何の感情も浮かんでいない。

 無表情のまま、ゆっくりとした足取りでこちらまで近付いて来ると手を前に揃えてお辞儀をして来る。


「お待ちしておりました。私は、お客様の『浮遊城フリューゲル』へのご来訪を心より歓迎いたします」

「『浮遊城フリューゲル』?」

「はい。皆様がどのように呼ばれていたのかは知りませんが、この城はそのような名前で呼ばれておりました」


 それはそうだ。『天空の城』というのは、地上にいる人が勝手に付けた名前。本来の所有者がいるのなら正しい名前だってあるはずだ。


「じゃあ、フリューゲルって呼んでいた人たちは?」


 顔を俯かせてフルフルと首を横に振る。


「残念ですが、今から40万日ほど前に最後の生き残りだったマスターも亡くなられました」

「よん……!」


 思わず言葉を飲み込んでしまった。

 40万日――年換算すれば約1000年以上も前の事。

 それだけの間、彼女はたった一人でこの場に居続けた。


「あなたは、人間じゃないの?」

「はい。フリューゲルを頼りに移住されて来た人々のお世話をする為に用意された人造人間(バイオロイド)。それが私です」

「へ……?」


 人間の少女にしか見えないメイド。

 彼女の正体は人工的に造られた人間――バイオロイドだった。

 見た目は普通の人間と変わらないし、歩いている時に肌や体のある部分が揺れているのが見えていたから人間だと信じ切っていた。


「私の体には機械的なパーツはほとんど使われておりません。魔法と科学の両方の技術を結集させて造られた当時の技術では最高傑作です。肌も人間の細胞を培養して造られた物ですし、人間から人工生命体という事で嫌悪感を抱かれないよう実際にいた人物をモデルに容姿も造られています。生殖機能はありませんが、その気になれば性行為も可能です。試されますか?」

「結構です」


 女性陣からの視線が痛い。

 試すかと言われて試すような馬鹿はいない。


「それで、あなたは1000年以上もの間ここで何をしていたの?」


 視線を逸らす俺に代わってアンが尋ねた。


「何も……」

「何も?」

「はい。当施設は、魔王という脅威から逃れる為に空へと飛び立ちました。その目論見は成功し、魔王に怯える必要はなくなりました」


 たしかに空まで攻められるような戦力を魔王が持っていなければ『天空の城』を落とすのは難しい。

 こんな場所を落とすよりも地上の支配を進めた方が建設的だ。

 そして、地上の支配を進めている内に『勇者』が召喚されて魔王という脅威は一時的にだが地上から払拭された。


「魔王が消えた事を知った人々は地上へ戻る事を決意されました」


 だが、そこで問題が発生した。


「システムが暴走し、浮いたままになってしまったため地上への帰還が不可能になってしまったのです」


 空へと逃げ延びた人々は、永遠に空で生活しなければならなくなってしまった。

 元々そのつもりだったため空での生活を受け入れた。


「ですが、魔王が消えた事を知ってから数カ月もしない内に人が姿を消して行く現象が見られるようになりました」


 原因はすぐに分かった。

 人気がなくなる時間になると遥か上空にある城から身投げをしてしまう人が後を絶たなかった。


「皆様、絶望されてしまったようです」


 空での生活は想像以上に窮屈なものだった。

 おまけに空へと逃げたのは数人の貴族と数十人の従者のみ。

 いつしか空での生活に嫌気が差して地上へ帰りたいと願うようになる。地上から魔王の脅威が去ったことによって尚更強くなった。


 結果、帰れないにも関わらず地上へと帰る人が増えてしまった。


「最後の一人となったマスターは私にある使命を与えられました」


 最後の一人となった人物も孤独に耐えられなくなり、地上へ帰る事を決意する。


 だが、一つだけ心配な事があった。

 それは空に浮かんだままの『天空の城』だった。


 いつか、誰かがフリューゲルを訪れるかもしれない。

 その人物にフリューゲルの全権限を委ねて欲しい。


「私は誰も訪れることのない上空で新たなマスターが現れてくれるのをずっと待ち続けておりました」


 再びお辞儀をするバイオロイド。

 だが、事情を聞いたせいで先ほどとは違った感情が見えてしまう。


「ですが、いくらマスターからの命令とはいえ私も簡単に主を変える訳にはいきません。試験(テスト)をさせていただきます」

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