第21話 天空の城―②―
23時20分後半部分の訂正しました。
到着した、事は変わらないのでスルーしても問題ありません。
ノジュールから10キロほど離れた地点。
この世界の人に見える場所、というだけで少し離れた場所になる。周囲には何もないおかげで『天空の城』を見ることができる。
城の土が降って来るような距離ではない。
それでもノジュールの街は朝から大騒ぎだった。
自分たちの頭の上に降って来るのではないか?
少しでも逃れようと反対側へ逃げる人が続出した。
どれだけ迷惑がられているのかが分かる光景だ。
「……それで、本当に攻略、と言うよりも乗り込むことが可能なのでしょうか?」
心配そうな目でこちらを見て来る司書長のマグルス。
領主の方からは全く期待されていない。と言うか何かをするつもりがないみたいで、近くを通過する『天空の城』に対して兵士を派遣することなく、距離から都市に被害が出るのは稀なので対処はしない。
「ちょっと聞いていたよりも高度が高いな」
話を聞いてから今日までの3日の間に何もしなかった訳ではない。
せっかく大図書館のある都市にいるのだから、と様々な書物を読んで勉強していた。
その中に『天空の城』に関する記述もあったのだが、異世界では具体的な高度を計る術がなかったため『天高く』とか『遥か頭上』といった曖昧な表現しか使われていなかったため実際に見るまで分からなかった。
あれは高度10000メートルはありそうだ。
とても垂直離着陸機で行ける高度ではない。
「ま、ラピュ〇ならそうだろうな」
「ラピュ〇?」
「こっちの話です」
マグルスさんの疑問をサクッと無視して『天空の城』がある高度まで行ける代物を用意する。
「あの、本当にあの方法で行くんですか?」
「心配か?」
不安そうな目で見て来るレイ。
実際に飛んで行くのは俺一人だけで残ったメンバーは海神を相手にした時と同様に『転移の宝珠』で移動することになっている。
いくら俺でも危険だと思っているのだろう。
「飛行機などを用意することができればよかったのですが……」
「残念だけど、飛び立つ為に必要な滑走路を用意することができない」
俺の収納魔法は物体なら取り込むことができる。
とはいえ、さすがに土地までは持って来ることができなかった。
物体の境界線は非常に曖昧なもので俺のイメージ次第なのだが、固定概念というものは簡単に変えられるものではない。
そして、残念なことに『滑走路』は土地として認識されてしまっている。
だからこそ移動手段に垂直離着陸機を選んだ。
同じように『滑走路』を必要としない物なら空へ飛び立つことも可能になる。
「はぁ、後で治療だけはしてあげますので絶対に死なないで下さい」
「再生能力を持っている俺なら死なないけど、あの高度から落ちるのは嫌だな……」
いくら再生しても痛いものは痛い。
負傷は可能な限り避けなくてはならない。
「ま、行ってみるさ」
収納から車を荷台に乗せて運ぶキャリアカーを10メートルサイズにまで大きくした物を取り出す。
これは、某国の軍事組織が開発した装置で斜めになる荷台部分が射出機になっており、カタパルトに乗せた物を遠くへ飛ばすことができる。本来は人が到達するのが難しい遠距離にある場所へコンテナなどを運ぶ為の装置。
軍事作戦ともなれば危険な場所へ赴いた兵士の為に物資を届けなくてはならない。
その為の装置であり、決して人を飛ばす為の装置ではない。
「準備よし」
カタパルトの角度を『天空の城』へ向けて調整。
後はタイミングを合わせて射出するだけで近くまで行ける。
「これは……」
「異世界の乗り物、とはちょっと違いますけど遠くへ飛ばす為の装置です」
出力を上げる。
するとカタパルトからバチバチと電撃が爆ぜ始めた。
「あちゃあ……やっぱり未完成だったかな」
「未完成!? もしかして完成していなかったの?」
「試作段階だった物を頂戴して来たんだよ」
残念ながら現代科学でも微妙に完成していなかった。
なぜなら、射出時には凄まじく加速させる必要があるので特殊な方法を採用していた。
電磁力を利用した加速射出機。
反発力を利用することにより短いながらも滑走路を再現することに成功した。
問題はエネルギーが安定しないことにある。
「ま、失敗したらやり直すことにするよ」
タンッ、とカタパルトの上に乗せた金属の板に乗る。
「行って来る」
タイミングを合わせてカタパルトを起動させる。
金属の板が一瞬にして10メートルを移動し、乗せられていた物を遠くへと飛ばす。
「……ッ!?」
乗せられていた物――俺の体が空高く飛び上がる。
同時に体がバラバラになってしまったような衝撃が全身に襲い掛かる……いや、なってしまったようなではなく、実際にバラバラになっている。だが、パラードから奪った【再生】がそれを許さない。バラバラになってしまうよりも早く、体を治療する。
言葉にすれば数秒の移動。
だが、耐えながらの移動は辛い。
「み、見え……た!」
既に遥か上空。
飛行機が飛んでいるような高度。人間が無事でいられるような場所ではなく、【再生】があるからこそ耐えられているが、呼吸は既に不完全になっており声を出せるような状態でもない。
それでも意識だけはハッキリとさせる。
そして、目的地を見定める。
――あれが『天空の城』……!」
空の上に浮かんだ大きな大地の上に洋風の城が聳え立っている。
……その上を通り過ぎる。
――アッ!
タイミングは合っていた。しかし、少し角度を上げ過ぎてしまったようで城を飛び越えてしまった。
このままでは通り過ぎてしまう。
地面に落ちてしまえば死は……【再生】があるから免れられるけど、凄まじく痛いのは予想できる。
――落ちろ!
咄嗟に収納からダンプカーを取り出す。
重さに引かれてダンプカーが真下に落ち、ダンプカーを掴んでいる俺も真下へと落ちて行く。
このまま真下へ行き続ければ城のどこかに着地することができる。
バチィ!!
――は?
真下に落ちていたダンプカーが何かに弾かれ、粉々に砕けてしまった。
何が起こったのか詳細は分からない。けれども、このままだと俺にも災難が降り掛かることだけは分かる。
咄嗟に身を丸めて衝撃に備える。
「ガッ、ア゛ァ……!」
体に激痛が走る。
見れば体中の至る所から血が噴き出て引き裂かれていた。
――原因は、こいつだ。
そのまま真下へ落ちて行くかと思われた体は半透明の膜の上に立っていた。
触ってみた感触からして丸いことが分かる。どうやら『天空の城』を覆うように球形の巨大な結界が備わっていたようだ。
誰も到達できないような高高度にありながら侵入を防ぐ手段をきちんと用意していた。
厄介なのは結界に備わった機能だ。
上から落ちて来たダンプカーは、結界に触れただけで粉々に砕けてしまった。ただ単純に高い場所から叩き付けられただけにしては壊れ方が異常だ。
結界を軽く叩いてみる。
すると、叩いた手から血が噴き出した。
――間違いない!
結界には受けた衝撃をそのまま相手に返す機能がある。
下手な攻撃は自分にダメージが返って来て逆に危険だ。
必要とされているのは圧倒的な一点突破の攻撃。結界の全てを壊す必要はない。俺が通れるだけの穴を開けられればいい。
――俺たちの進む道を阻むものは、なんであろうと吹き飛ばす!
収納からパイルバンカーを取り出し、左腕に装着させる。
結界に触れないようギリギリの位置に添え、パイルバンカーに魔力を漲らせる。魔法道具であるパイルバンカーは魔力が充填されることによって筒の中で回転し破壊力を増して行く。
「突貫!」
射出された杭が結界を貫通し、下にあった城の庭に穴を開ける。
「やった!」
結界はすぐさま開けられた部分を修復しようと外側から閉じて行く。
だが、俺が通り抜ける方が速い。
「ここは……」
地面に着地すると周囲を見渡す。
飛び降りた先には地面があり、草を踏み締める感触がある。
どうやら城の庭へ無事に着地することができたみたいだ。




