表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/236

第17話 海神の剣―③―

平成最後の更新になります。

 ゆっくりとクルーザーの船首へと歩いて行くユウカ。

 数十メートル先には凶悪な表情をした巨大な蛇がいるというのに平然としていた。


「私たちの目的は、この先の洞窟にある『海神の剣』。もしも道を譲ってくれるのなら戦うつもりはないわ」


 まずは交渉から入る。

 尤も、こんな事は相手がこちらの言葉を理解できるだけの能力を有していた場合の話だ。


 ――GUAAAAA!


「やっぱりダメだったか」


 怒った海神が口を開けて襲い掛かって来る。

 最初から知能がないのか、それとも怒っているせいで冷静さがなくて交渉できるような状況ではないのか。

 理由までは分からない。


「交渉決裂。ここからは討伐に目的を変更させてもらうわ」


 大義名分はできた。

 世界を救う存在であるはずの勇者に対して牙を向けた。


「命を奪われても恨まないでね」


 左手に『叡智の書』を持ち、何も持っていなかった右手に鉄球が出現する。


「吹き飛びなさい!」


 大きな口を開けて襲い掛かって来た海神の口の中に鉄球を放り込む。

 船すら噛み砕いてしまう海神は投げられた物が何であるのか気にすることもなく噛み砕く。


「その自信が命取りになるわ」


 ――ドォン!


 海神の口の中で爆発が生じる。

 先ほどの鉄球の中にはユウカが魔法で生み出した火薬と火を熾す為の魔力が込められていた。衝撃を受けただけでも強力な爆発を起こすようになっていたが、ユウカの意思一つで爆発を起こせるようにしていた。


 口の中で起きた爆発に海神が仰け反る。


「悪いけど、まだまだ終わらせるつもりはないの」


 ユウカの周囲にバチバチと爆ぜる球体が出現する。


 数は――30。

 一般的な魔法使いが初期の頃に身に付ける(ボール)系の魔法。魔法の力を球体状にした物を叩き付けることによってダメージを与える魔法。


 ユウカが選択したのは『電撃』の魔法――電撃球(ライトニングボール)

 ただし、使用したのは初歩の魔法でも展開させた数が異常だ。

 通常は二つを同時に操れるようになって一人前。一流クラスの魔法使いでも8~10が限界だと聞いていた。


 ユウカが展開させたのは、その3倍。

 異常な数だが、全てがユウカの支配下に置かれている。


「行け――!」


 指示に従ってボールが飛んで行く。

 海神の体に当たった瞬間、爆発と共に雄叫びを上げながらクルーザーから離れて行く。


「まずは近過ぎるからね。さっさと離れてもらうことにしましょう」


 クルーザーから離れると再び睨み付けて来た。

 ダメージを受けてしまったものの戦意まで失った訳ではないようだ。


「それは好都合」


 海上での戦闘で最も厄介なのは海中に逃げられる事。

 残念ながら海中での戦闘方法を持っている者はおらず、俺も潜水艦を今から出すのは面倒臭い。


 クルーザーの上をタッタッタッ、と駆け跳び上がる。


「ちょ……」


 完全にクルーザーから飛び出してしまっている。

 足元には海が広がっている。どんな手段を用意しているのか知らないが、海神とも呼ばれる敵を相手に海中での戦闘を挑むなど自殺行為だ。


 だが、そんな心配は杞憂だった。


「へ?」


 ユウカの姿を見たアンがキョトンとした顔をしている。

 まあ、俺も似たような物だ。


 クルーザーから飛び出したユウカは海に落ちることなく空中で浮いている。


「……魔法の中には空を飛べるものがあるって聞いたことがあるけど、難易度がかなり高いんじゃなかったか?」


 【風属性魔法:飛行(フライ)】。

 気流を自在に操り、体を浮かせることができる魔法。


「こうして空を飛んだのはクルーザーを巻き込まないため。せっかく手に入れたクルーザーなのに満喫する前に壊れたりしたら大変だからね」


 まだまだ予備があるので壊れるぐらいは問題なかったりする。


「【氷柱(アイスピラー)】」


 魔法名がユウカの口から紡がれると何十本という氷柱が周囲から発射される。

 すぐさま回避行動に入る海神だったが、巨体なせいで鋭い氷柱を回避するのが間に合っていない。


 氷柱が体に突き刺さり血を流している。一般的な魔法使いによる攻撃ならば弾き飛ばせるだけの耐久力を持った鱗だったが、ユウカの氷柱は限界まで研ぎ澄まされており、氷柱にユウカの魔力が纏われていた。氷柱の耐久力そのものが上がっている。


「そう、前にばかり気を向けていていいの?」


 背中から聞こえて来た声に目を向ける。

 いつの間にか海神の正面から移動していたユウカの姿があった。


「全ての者を這いつくばらせる楔となれ――【黒の重圧(グラヴィティプレッシャー)】」


 増加された重力によって海神が海面に叩き付けられる。

 う~ん、あれは背骨が折れていそうだな。


 どの魔法も強化されている。それは偏に『叡智の書』のおかげだった。全ての謎に対する答えを理解できるだけの知力を与えてくれる『叡智の書』。それを手にして戦っている限りユウカの魔法は強化される。

 何よりも……


「ぷっ、さっきの詠唱って……」

「笑ったらダメだよ……」


 アンとミツキが友達であるにも関わらず笑っている。

 他のメンバーも気付いていないように視線を逸らしている。


「ちょ、ちょっと……! さっきの【黒の重圧】は私が今まで使えた魔法よりも強力な分、無詠唱にすることができなかったんだから仕方ないでしょ」


 この世界の魔法には詠唱が必要になる。

 熟練度が増すことによって詠唱を短縮させる【短縮詠唱】。脳内で詠唱することによって魔法を発動させることができる【無音詠唱】。そして、詠唱を必要としなくなる【無詠唱】と必要を減らすことができる。


 海神の背骨を折った【黒の重圧】は『叡智の書』から得た魔法であるため一気に詠唱を破棄することができなかった。それでも短縮させることには成功している。

 この世界の人にとって詠唱は普通の事。

 しかし、異世界から来た俺たちにとって詠唱は酷く恥ずかしく聞こえてしまう。


「ドンマイ」


 船内から励ます。

 ただ、逆効果だったみたいでショックを受けている。


 と、海面から海神が跳び上がって来る。

 全身を鞭のように撓らせて空中にいるユウカに襲い掛かって来る。


「アンタのせいで笑われたでしょ」


 『叡智の書』が強い光を放つ。

 また、新しい魔法をインストールしている。


「全ての障碍を打ち砕く槌よ、振り下ろし大地を穿て――雷神の槌(トールハンマー)


 下から振り上げられた尻尾に対して上空の雷雲から雷撃が斧のような形になって落ちて来る。

 振り上げられた尻尾は弾き飛ばされ、海神の全身に雷撃が伝わる。


 ピクピクと痙攣しているだけの海神が海面に横たわっている。


「だから戦わない方がいいって言ったのに……」


 最初から海神では敵わない事は分かっていた。

 海をフィールドとする海神にとって電撃は致命的な弱点と言っていい。

 雷を自在に操れるユウカには勝てない。


「雷撃よ、この手に集え――!」


 落ちて来た雷がユウカの掲げた右手に集まる。

 強力なエネルギーが剣の形に形成される。ただ、その長さはユウカのイメージを反映されて刃が全長50メートルにまで長くなっている。


 それに重量はない。

 ただ、純粋なエネルギーが圧縮されている。


「落ちろ――」


 なんだか無気力になったユウカが剣……鉈を振り下ろす。

 その先には海面で痺れたまま動けなくなった海神がおり、抵抗されることなく両断された。

海神君にはもう少し頑張ってもらいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ