第9話 鉱石採掘
メテカルから2時間ほど掛けてやって来た鉱山。
レベルアップによって身体能力が強化されていることもあって楽に辿り着くことができた。
「すみません冒険者ギルドで依頼を受けてきた冒険者ですけど」
鉱山の入口近くにある小屋に向かって声を掛ける。
この小屋は鉱山で働く人々の休憩所になっていると同時に管理人室でもある。
「はいよ」
俺の呼び掛けに応えて小屋から出てきてくれたのは身長190センチはある大きな男性だった。
「初めて受けた依頼なので、どうすればいいのか分からないんです」
「初めてか。ちょっと待ってな」
人の好さそうな男性は、小屋の中へと入って行くとすぐに何かの道具を持って再び出てきた。
男性が持ってきた道具を受け取る。
「これは……?」
受け取った道具はピッケルだ。
「そいつを持って奥へと行ってくれ」
管理人が指し示した場所には山の中腹に空いた大きな穴が空いていた。
☆ ☆ ☆
教えられた坑道を通って20分ほど奥へと進むと開けた場所に出た。
そこには筋骨隆々の男たちが何人もおり、鉱石を手に取って忙しく作業に勤しんでいた。
「お、兄ちゃんたちは何だ?」
作業をしていた男性の1人が俺たちに気付いてくれた。
「冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者です」
「……あんたたち4人だけか?」
俺たちの見た目は完全に駆け出し冒険者だからな。
「依頼内容は鉱石採掘の手伝いということでしたが、詳しい内容を聞いていないので確認に来ました」
依頼書にも詳しい内容は書かれていなかった。
しかし、ギルドで依頼の難易度をFランクにしているのだからそれほど危険な依頼ではないはずだ。
ちなみにレイは作業をしている男性たちに気おされてしまったのか後ろの方に隠れてしまっている。
「そうか。最近までは俺たちの依頼を受けてくれていた冒険者がいたんだが、そいつもランクアップしたのを機にFランクの依頼をあまり受けなくなってしまったんで困っていたんだ」
男性が更に奥へと歩き出す。
そのまま大きな道へと案内される。
「お前さんたちに頼みたいことは、その道具でここの壁を削ってほしいっていうことだ」
「削れば鉱石が出てくるんですか?」
見た感じ薄暗いこともあって、ただの岩盤にしか見えない。
「ああ。どういうわけかこの山では気付いたら削った壁も元に戻っていることがある。そして壁の中では鉱石が精製されているらしくて、俺らはそれを削り取って生活しているわけよ」
さすがは魔法のある世界だ。地球の常識とは違うみたいで、資源は湧き出てくる物みたいだ。
「とりあえず見本を見せてやる」
男性が自分の持っていたピッケルで壁を削る。
すると中から削られた岩と一緒に少量の鉄鉱石が出てきた。
「金属として使う場合はこいつを加工することになる」
削られた壁はそのままだ。
しかし、数日もする頃には元に戻っており、含まれていた金属も元通りになっているとのことだ。
うん、やり方は分かった。
地球みたいにどこに金属が含まれているのか考えながら採掘する必要はなく、ひたすらに壁を削って金属を手に入れればいいみたいだ。
「お前さんたちに頼みたいことは、この箱に一杯になるぐらいの量を採掘してほしい」
男性が50センチぐらいの底が浅い箱を抱えていた。
これぐらいの大きさならそう時間を掛けずに集まりそうだ。
「あの、これなら冒険者に頼まなくてもよかったのでは?」
ショウが尋ねる。
それは、俺も疑問に思っていた。
鉱山の中には多くの人が働いており、正直言って俺たちみたいな素人の労働力が必要には思えなかった。
「この鉱山なんだが、奥へと進めば金どころかミスリルすら採掘できる場所なんだ」
ミスリル――地球にはなかった金属だな。実際にはどういう名前なのか分からないが、加護のおかげでミスリルと訳されていた。
ファンタジーでは定番の金属だ。
「だが、奥に進むほど強力な魔物が出てくるようになっている。ミスリルが採れるような場所だとAランクやBランクの冒険者が必要になる。お前さんたちには採掘に慣れてもらって実力を付けてくれた頃に奥へ進んでくれればいいさ」
「分かりました」
すごくいい人だ。
先行投資みたいな感じで俺たちみたいな全体を見れば役に立ちそうにない新人冒険者にも仕事を回してくれている。
「とりあえずやってみようか」
頷くとバラバラに分かれて壁へ向かう。
複数の人間が同じ場所を削っても効率が悪いからな。
まずは壁に向かってピッケルを打ち付けてみる。すると軽く打ち付けてみただけにも関わらず、ステータスの影響かごっそりと壁が削れた。しかし、目に付く場所に金属のような物はなく、仕方なく削り取れた大きな岩を砕いていると小さな鉄が紛れていた。
え、こんな割合?
隣のハルナを見ると同じような感じで苦笑していた。
「えいっ!」
レイが壁に向かってピッケルを打ち付ける。
すると壁が俺たち以上に大量に削られていた。
「ほう。お嬢ちゃんはなかなか使い方が分かっているな」
「ありがとうございます」
体格の大きな相手に委縮していたレイだったが、褒められたことで打ち解けていたみたいだ。
レイは普段の武器にメイスを選択して時間のある時には練習を欠かさずに行っていたからピッケルの扱いにもすぐに慣れたみたいだ。
「というかショウはさっきから何やっているの?」
ショウはピッケルを使って壁を削ることなく右手で触れながら横へ動いていた。
「ショ――」
「しっ」
話し掛けようとしていたハルナを止める。
ショウは何かをしようとしている。
やがて、足を止めると左手を壁とは反対側へ伸ばし錬金魔法を発動させる。
――ドン。
右手の先から生えてくるように出てきた大きな金属の塊が地面に落ちる。
「おい、これって鉄の塊か?」
「ああ、そうだ」
魔法を使って疲れたのか肩を回して解していた。
「おいおい、一体何をしたっていうんだよ!」
ショウの使った方法は作業員の男性も全く知らない方法らしく驚いていた。
「錬金魔法を使っただけです」
「馬鹿を言うな! 金属の形を変えるぐらいの力しかなくて鍛冶ぐらいにしか能のない錬金魔法にこんなことができるなんて……!」
「なるほど。金属の形を変えると同時に自分の手元に寄せ集めたんだな」
「今だと手の先から大体半径1メートルぐらいなら行けるようになった」
壁に手で触れながら魔法を発動させて望んだ形に圧縮させる。
しかも、どうやったのか分からないが鉄鉱石から製錬された鉄の状態になっている。
「手で触れずに錬金魔法を使う奴の話は聞いたことがあるが、こんな方法で採掘した奴の話なんて聞いたことがないぞ……」
作業員の男性は魔法で生み出した鉄を見たまま呆然としていた。
それだけ衝撃的だったということだろう。
「でも、これで依頼は達成ですよね」
「あ、ああ……」
ダメだ。立ち直ってくれない。
ショウが生み出した鉄の塊は50センチより小さかったが、高さがあったので相手の要求する量の金属を手に入れることには成功した。しかも製錬された状態のため手間も省けたはずだ。
ここからは、少量でいいので交渉をさせてもらおう。
「それで、少しでいいので鉄を譲ってもらえませんか?」
「鉄を? 何に使うつもりだ?」
「錬金魔法の練習に色々と作ってみるつもりです」
「これだけのことができるのにまだ鍛えるつもりなのか……」
いや、採掘に便利な使い方ができたけど、ショウが本当に目指しているところは錬金魔法を戦闘でも使えるようにすることだ。
その為には錬金魔法の習熟度を上げる必要がある。
そういうわけで許可を貰ってからショウに同じ方法で必要とする量の鉄を魔法で用意してもらう。
あ、よく考えれば俺たちは鉱山で大したことしてないよ。




