第1話 収納魔法
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名前:渡来颯悟
年齢:15歳
性別:男
レベル:1
体力:5
筋力:3
耐久:1
敏捷:6
魔力:5
スキル:収納魔法
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ステータスを確認しようと考えると目の前に浮かんできた数字と文字。
ステータスの基準が分からないから評価できないが、明らかに低い方なのは間違いない。
そして、スキル欄にある『収納魔法』。
収納魔法の文字に触れてみると詳しい説明が表示されてきた。
収納魔法――魔法で作り出した空間に物を収納する魔法。
最近の小説とかだと主人公なんかがデフォルトで持っているアイテムボックスのような魔法みたいだ。
間違いなく俺が勇者である可能性は消えた。
こんな低いステータスと収納魔法なんていう荷物持ちぐらいにしか役に立たなさそうな能力でどうやって魔王を倒せと?
とはいえ、収納魔法を与えられたということは普通に魔法が使える世界らしい。
自分のステータスの確認を止めると周囲を見てみる。
みんな目の前の何もない空間を呆然と見つめている。おそらくステータスを見ているのだろうが、ステータスは他人からは見ることができないらしく、隣にいる見知らぬ生徒のステータスを横から覗くこともできない。
「あの、もしかしたら僕が勇者かもしれません」
みんなが自分のステータスを確認する中、2年の先輩が手を上げていた。
「おお、そうですか!」
満面の笑みを浮かべた白い老人が先輩に近付いて行く。
「どんなスキルを授かっていたのでしょうか?」
「えっと、神聖剣というスキルをもらったみたいなんですけど……」
「ほう、神聖剣!」
まだ詳しい説明まで見ていないのか先輩は神聖剣というスキルの詳細を知らないみたいだったが、老人の方は神聖剣という名前を聞いただけでどんなスキルなのか分かったらしい。
「みなさんの中には魔法を与えられた方もいると思いますが、基本的には火・水・風・土・光・闇の属性の中から与えられた属性の魔法を使えるようになります。ですが、与えられるスキルは1つか2つが普通。多い時には3つ与えられる方もおりますが、基本的に複数の属性を使える者は限られております。ですが、神聖剣というスキルは剣を使った時に限られますが、全ての属性を扱うことができるようになります」
全ての属性を扱うことができる。
制約はあるものの、その効果はまさしく勇者が使うに相応しいスキルと言えた。
「他にはスキルがありませんか?」
「ええ、と……絆の力というスキルがあるみたいです」
「そちらは聞いたことのないスキルですが、おそらくあなたが勇者で間違いないでしょう。名前を聞いてもよろしいですかな?」
「工藤淳一です」
「クドウさまですね」
老人が朗らかに勇者になった先輩の名前を呼ぶ。
「他のみなさんもステータスの確認は終わりましたか?」
勇者が出てしまった以上、他の全員はモブ同然だ。
「おい、お前はどんなスキルをもらったんだよ」
いつの間にか安藤が俺の傍に寄って来て肩に腕を回していた。
チッ、せっかく異世界に来たっていうのにこいつも来ていたのか。
「俺は火魔法に剣術がもらえたんだけど、お前は何をもらったんだ?」
火魔法と剣術か。
組み合わせれば勇者になった工藤先輩の全属性には及ばないものの火魔法限定で同じようなことができるようになるはずだ。
「俺は剣技だったぜ」
聞いてもいないのに同じように田上が自分の手に入れたスキルを教えてきた。
というか剣術と剣技って違いがあるのか?
「で、お前は何をもらえたんだよ」
安藤が再び聞いてくる。
これは教えないといつまでも離れて行かないパターンだな。
「……収納魔法だよ」
「収納魔法? それってどんな魔法だよ」
「さっき爺さんが言っていた属性になかったぞ」
「それは、属性に囚われない魔法のことですな」
俺たちの話を聞いていたのか老人が属性魔法以外の魔法について語り出す。
「魔法は基本的な属性魔法以外にも特殊な魔法も存在します。彼が手に入れた収納魔法も特殊魔法の1つになります」
「じゃあ、こいつが手に入れた収納魔法は特別なんですか?」
「それは、どうでしょう……」
どこか歯切れ悪く老人が否定する。
「収納魔法は魔法で作り出した空間に重たい物を収納して荷物の持ち運びが簡単になる魔法ですが、そこまで珍しい魔法ではないので他のスキルと併用させて持っている者がほとんどです」
収納魔法だけでは本当に荷物持ちとして付いて行くぐらいしか魔法の使い道はないらしい。
「それに便利と言えば便利ですが、それに代わる道具は数百年以上前に開発されているのです」
それこそアイテムボックスのことだろう。
「ですので、需要があるのかと言われると……」
あまり役に立たない能力らしい。
「おいおい、お前は異世界に来てまで役立たずなのかよ」
「荷物持ちだって、やっぱパシリぐらいにしか使えないな」
安藤と田上が笑い出す。
いや、2人だけじゃなくて緒川と鈴木、山本まで笑っている。
5人とも異世界に来ていたのかよ。
「みなさんも自分の手に入れた力に関してはじっくりと確認してみて下さい。分からないことがあれば私たちの方でお教えします」
みんな再び自分のステータス画面を呼び出して自分のスキルを確認している。
俺は、もういいや。
「あの、魔王を倒してほしいって言っていましたけど、こんなスキルでは魔王を倒すどころかみんなに付いて行くことすら難しいので俺だけでも元の世界に戻していただくことはできませんか?」
「あ、私も」
「僕もお願いします」
セミロングの少女と眼鏡を掛けた男子が手を上げていた。制服の色からして2人とも1年生みたいだ。ただ、顔に覚えはないので他のクラスだろう。
2人とも俺と同じで戦いに使えるようなスキルじゃなかったんだろう。
「残念ですが、我々はみなさんを召喚しましたが、元の世界へ送還させる方法を知りません」
「な、なんだよっ、それ!?」
男子生徒の1人が声を荒げていた。
「この世界には一定周期で魔王と呼ばれる強大な力を持った者が現れます。過去に出現した際にもみなさんと同じように勇者召喚が行われました。我々は、その時に使用された勇者召喚の手順に従って勇者を呼び出したに過ぎないのです」
前回、勇者が召喚されたのは100年以上も前の話。
そのため勇者を召喚する為の方法も伝承として残されているレベルで召喚の方法もどうにか再現することができただけで、送還の為の方法はそもそも残されていなかった。
「つまり、あなたたちは呼び出した俺たちを元の世界へ戻す為の方法を知らないにも関わらず呼び出したというわけですか」
「弁解のしようもありません」
普段はしない怒りによる表情を浮かべた生徒会長が老人のことを睨み付けていた。
老人の言葉を聞いてみんなもすぐに詰め寄りたい思いだった。
「ですが、私たちには勇者に縋るしか方法がなかったのです」
既に世界は魔王の手によって追い詰められ始めており、世界全体で見ればまだ狭い範囲しか侵略されていないが、このまま続けば世界規模での危機となることは明白だった。
彼も最初は異世界からやって来た人物の自分たちの運命を託さなければいけない状況を憂いて勇者召喚に反対していたが、刻一刻と悪くなる状況に勇者召喚に踏み切らなくてはならなくなってしまった。
そんな話を聞かされると誰も詰め寄れなくなってしまった。
だが、勇者として認められた工藤先輩が頭を下げている老人に近付いて、その肩に手を置いた。
「頭を上げて下さい。召喚されてしまったものは仕方ありません。俺たちにどこまでのことができるのかは分かりませんが、困っているなら協力したいと思います。それに本当に帰還する手段はないのですか?」
「いえ、魔王復活と勇者召喚は過去に7度行われていますが、中には魔王を倒した後で元の世界へ帰ったと言われている勇者もおります。この世界に残った者の中には王家より領地を貰って幸せに暮らした者もいるとのことです」
「どうだろう? お爺さんも困っているみたいだし、できる限りのことはしてみないかい?」
勇者として選ばれた者が言うとそれだけで力があるのかみんな怒りを抑えていた。
俺もできる限りのことなら……と思わなくはないが、役に立ちそうにない収納魔法でどうやって戦えと?
同じようにハズレスキルを与えられたらしい2人と視線を交わらせると苦笑していた。