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第15話 海神の剣―①―

 閑散とした港町――ラクーン。

 本来なら朝の内に獲って来た魚が売り出され、人々の活気で賑わっているはずの午前中。


 だが、今のラクーンにはそんな様子はない。

 船は港の端にまとめて停められており、魚が売られているはずの店も全て戸が閉められている。

 魚を獲りに行く事もできない。売る魚もない状況では仕方ない。


「失礼します」


 そんな街の冒険者ギルドに入る。

 港町は海から来る魔物が多く、討伐方法を確立させた冒険者にとっては稼ぎ場所となっている。

 だから賑わっていると聞いていた。


「ここも寂れているみたいね」


 ハルナの目に留まるのは十数人の冒険者。

 それも見るからにやる気のない連中ばかりだ。

 彼らは街から出て他の街へ行く気力もなければ、街に残った海以外の依頼を片付けようという気すら起きない冒険者。海での討伐にばかり特化していたせいで陸での戦いに不安があるため出て行く事が出来ないでいた。


「……こんな連中じゃ仕方ないか」

「なんだって!?」


 アンの呟きが聞こえた一人の冒険者が怒りながら立ち上がる。

 ……いや、他の冒険者たちも怒っているのか目が据わっている。


 しかし、アンにはそんな連中の事を気にした様子がなく――


「意気地のない連中だって言っているのよ。海竜を倒すようなこともせずにギルドでダラダラと過ごして、外にいる魔物を狩りに行くとか、海竜を討伐する方法を考えるとか行動を起こせばいいのに!」

「言わせておけば……!」


 立ち上がった冒険者が飛び掛かって来る。


「止めないか!」


 ギルドの奥の方から響くような声が轟いて冒険者が動きを止める。


「ギ、ギルドマスター……」


 現れたのは冒険者ギルドのギルドマスター。

 港町にある冒険者ギルドのマスターらしく、上からベストを着ているだけで鍛えられた筋肉を隠そうともしていない。見ただけで強いことが分かる。が、それも常人を少し超えた程度。残念ながら俺たちの敵ではない。


「お前は下がれ」

「……分かったよ」


 ギルドマスターの出現にすっかり委縮してしまった冒険者はアンの発言に納得していないながらもそのまま引き下がった。


「そっちもあまり挑発するような発言は控えてもらおうか」

「はいはい」


 アンも相手を挑発したい訳ではない。

 このギルドにいる冒険者たちが不甲斐ないせいで面倒事に巻き込まれてしまっている。そのせいでちょっとイライラしているだけだ。


「で、お前たちは何者だ?」


 ギルドマスターの疑問はもっともだ。

 自分の管理するギルドに知らない冒険者が現れたのだから気にしないはずがない。


「この街にあったはずの『海神の剣』に挑戦しに来た者です」



 ☆ ☆ ☆



 海神の剣。

 それは、かつて海を支配する神が魔王復活に際して困っている人々に与えた剣、だという伝説が残っている代物だ。


 『叡智の書』と同様に初めて現れた魔王に対抗するべく『海神の剣』に選ばれた剣士は多くの魔物を屠った。


 魔王が倒されると『海神の剣』は海に面した洞窟内にある岩に突き刺さり誰にも抜けなくなってしまった。

 『海神の剣』を使っていた剣士によると「あの剣は、世界に危機が訪れた来るべき時に選ばれた人間が抜くことによって初めて手にすることができる」という言葉だけを残して彼は生涯を終えてしまった。


 その後、魔王が再び現れ、人々は来るべき時が来たと思った。

 何人もの剣士が剣を抜く為に洞窟へ挑んだ。


「が、誰も抜いて帰って来ることはできなかった」


 それが『海神の剣』にまつわる伝説。

 時は来たのかもしれない。だが、残念な事に選ばれた人間が来ることがなかったために誰も抜くことはできなかった。


「それに挑戦するつもりだった、と?」


 ギルドマスターの私室で彼と話をする。

 挑戦する為に冒険者ギルドの許可が必要になるような事はないのだが、今は緊急事態であるために別件でギルドに話を通しておく必要があった。


「剣を抜ける自信があったのか?」

「さあ? 挑戦してみない事には分かりませんね」


 最初に手にした剣士以外に誰も手にすることができなかった『海神の剣』。

 正直言って何を基準に適合者を選んでいるのか分からない。


「……分かった。挑戦する事そのものは問題ない。だが、今は挑戦することができない事を分かって言っているんだろうな」

「はい」


 そう今は誰も挑戦することができない。

 しかも、その原因はラクーンを拠点に活動していた冒険者に原因があった。


「今から1カ月前の話だ。ウチを拠点にしていたバカが禁忌に手を出してしまったのが原因だ」


 『海神の剣』へ挑戦するのは誰であっても構わない。

 だが、許可されているのは岩に突き刺さった剣の柄を握って剣を引き抜くことだけだ。決して、それ以外の事をしてはいけない決まりになっていた。


 ところが、事もあろうに問題を起こした冒険者は剣が突き刺さっていた岩を壊して岩ごと剣を持ち去ろうとしてしまった。


 ルール違反は、剣を与えた海神の逆鱗に触れる。


「どうして、そんな事を……」


 呆れてしまったユウカが思わず尋ねてしまった。


「今は魔王が復活した時期だから強力な武器とかは大金で売れるんだ」


 選ばれて抜くことができなければ使うことのできない剣。

 それでも、そんな強力な剣を持っている事は武力を必要としている貴族にとってはステータスになるため大金で買い取ってもらうことができた。

 岩さえ砕くことができれば持ち帰ることができると思った若い冒険者が馬鹿な行動に出てしまった。


「海の神様が怒り狂っているせいで、その時から普段は穏やかな様子なんだが船で海に出ようとすると荒れてしまう」


 そのせいで漁に出ることもできない。

 誰かがこっそりと出ようものなら停泊している船も巻き添えを喰らうことになるので端の方に寄せられている。


 そんな状態なので魚も手に入らない。

 新鮮な魚がウリの街にも関わらず魚が手に入らない。

 たった1カ月間だが、既に衰退一歩手前の状態にまで陥っている。


「海の神様の正体も分かっている」


 巨大な海竜だ。

 蛇のように長い体を持つ竜で、海から顔を出すと長い体を船体に巻き付けて粉々にしてしまう。それにスキルによるものなのか海神が現れた直後から荒れるようになってしまう。


「このままだと街を捨てざるを得ない。領主様に頼んで高ランクの冒険者を呼び寄せてもらって海神を討伐してもらおうとした」


 だが、海の中から襲い掛かって来る海神が相手では有効打を与えることができずに冒険者たちの乗った船は沈没してしまった。

 冒険者たちも魔法や海による攻撃を何度も浴びせていたが、海神の持つ強力な鱗に阻まれてしまっていた。


 ギルドマスターによれば、『海神の剣』を持ち去ろうとした罪で馬鹿な事をした連中も事態を解決する為に強制的に海神へ挑まされて今は腹の中にいるらしい。


「が、全員が失敗だ。洞窟へ行くためには船を使って海から回り込むか浅瀬になっている場所を歩いて向かう必要がある」


 船を使った場合は問答無用で海神が襲い掛かって来る。

 浅瀬を通った場合でも海神の逆鱗に触れてしまうのか海が荒れてしまって歩けるような状況ではなくなってしまう。


 つまり、『海神の剣』に挑戦する為には海神をどうにかする必要がある。


「何か策でもあるのか?」

「……なんとも」


 なにせまだ見た事もない魔物だ。

 倒せる自信はあるが、言い切れるほどではない。


「ま、とりあえず挑んでみますよ」

海神をボコボコにした後で剣を引き抜くか、剣を引き抜いたことで海神に認められて怒りを鎮めてもらう。

2パターン用意しているけど、どっちで行こうかな?

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