第13話 叡智の書―⑥―
両手を不死者へ向ける。
すると見慣れた【収納魔法】の魔法陣が飛び出す。
魔法陣が向かう先にはアンデッドと戦っているショウとマコトがいる。
物体を収納し、収納してある物体を取り出すしか能のない【収納魔法】。それ故に生物に触れたところで効果を発揮する訳ではない。
「あれ……?」
「何を?」
現に魔法陣が通り抜けたはずの二人には何の影響もない。
だが、影響は確実に目の前に現れていた。
「ゾンビは?」
「スケルトンがいない」
マコトの戦っていたゾンビ、ショウの潰していたスケルトンが跡形もなく消えていた。
二人とも戦っていたはずの相手が消えれば呆然としてしまうのは仕方ない。
だが、俺は予想通りの結果に笑いを堪えるので精一杯だった。
「ハハッ、やっぱりそうだ!」
さらに広場の奥へ向けて魔法陣を飛ばす。
広場を覆えるほど大きく展開された魔法陣に対してアンデッドたちは為す術も直撃を受けるしかなかった。
魔法陣の大きさは使用者のイメージに依存する。
そして、大きくすればするほど魔力を消費することになる。
他の魔法なら大きくしたことによって膨大な魔力を消費して昏倒してしまうところだが、外れスキルである【収納魔法】の魔法陣なら魔力の消費も最小限に抑えることができる。
この程度はステータスが強化された今なら問題ない。
「全員――『収納』する!」
先頭にいたゾンビが魔法陣に触れた瞬間、忽然と姿を消してしまった。
一体、どこへ行ったのか?
そんな考えが後ろの方にいたアンデッドに伝播する。
ただし、そんな事を考えている間に10体以上のアンデッドが姿を消してしまっている。
瞬間、アンデッドたちが恐怖に支配される。
既に死んでおり、恐怖とは無縁な存在になっているにも関わらず、『消えてしまう』という現象に対して恐怖を抱かずにはいられなかった。
一斉に逃げ出すアンデッドたち。
「逃げられる訳がないだろ」
アンデッドの移動速度は遅い。
次々とアンデッドたちが姿を消して行く。
そこにゾンビやグール、ゴーストといったアンデッドの種類の違いよる差はない。
やがて1分もしない内に――
「こんなものでいいだろ」
広場が静かになる。
もうアンデッドが出て来るような気配はなかった。
「……何をしたんですか?」
胡乱な目をしたショウが近付きながら訊いて来る。
他の仲間も同じように近付いて来るのだから気になっているのだろう。
「いえ、【収納魔法】を使用したのですから何をしたのかは予想できています。ただ、本当に可能だったんですか?」
「出来たものは仕方ない」
はぁ~、と溜息を吐かれてしまう。
スキルを手にした時からイメージが大切だというのは分かっていた。だから、今回もイメージ次第で可能にはなると分かっていた。
だが、実際にアンデッドを相手に無双できてしまう光景を目にしてしまうと驚愕せずにはいられない。
「一体、何をしたの?」
ハルナはよく分かっていないなので説明する。
「アンデッドって何なのか分かっているか?」
「ええと、不死者でしょ」
「もう少し具体的に言うとゾンビやグールは動いているだけの『死体』。スケルトンに至っては『骨』が動いているだけ。ゴーストは『エネルギー』が動き回っているだけ」
死体なら、これまでにいくつも収納して来た。
骨も死体の一部だと言えばたくさん収納してある。
エネルギーに至っては収納内で魔力のやり取りをするぐらいには慣れている。
「つまり、あの場にいたアンデッドたちは全部収納できるんだよ」
動いているせいで『生物』のように錯覚してしまっていたが、アンデッドは全て『物体』だ。
物体なら簡単に収納することができる。
「あいつらは全て俺の持ち物になった。もはや攻撃することはできない」
逆に支配下に置いたため自分の配下として使うことができるぐらいだ。
ただ、アンデッドを配下として使用してしまうと女性陣が嫌な顔をしそうなので自重する。
「さあ、進もう」
☆ ☆ ☆
あの広場から先は再び迷路が続いていた。
そして、隠れる場所が多くなったことでゾンビやスケルトンが陰から飛び出して襲い掛かって来るようになる。
広場と違って動き回れるほどの広さがないため苦戦される。
アンデッドの場合は少しでも攻撃されてしまうと感染してしまうため戦う場合には注意が必要になり、侵入者の足を止めることになる。
が、残念ながら……
「ほい」
飛び出してきたスケルトンに魔法陣を放つ。
襲い掛かろうとしていたところに魔法陣を放たれたため逃げ出すことも叶わずに直撃を受けてしまう。
すると何もできずに姿を消してしまう。
「……なんだか可哀想」
後ろの方でアンが呟いた。
アンデッドを嫌悪していた女性陣だったが、何もできずに消えてしまう光景を見せられると同情せずにはいられないみたいだ。
「効率的な戦い方と言ってくれ」
この世界ではゲームみたいな敵を倒したら貰える経験値はない。
純粋に戦闘経験を積むことによって強くなることができる。
アンデッドとの戦いは数が多く、再生のような能力が厄介だったため戦い難かっただけで戦い続けてもショウとマコトの糧になれるとは思えない。
唯一、可能性があるとしたら女性陣に慣れさせることだが、どうしても取り掛からなければならない問題でもない。
適当に進んでいると開けた場所に出た。
「あれは……」
マコトが前方に何かあることに気付いて懐中電灯を向ける。
そこにあったのは巨大な人型のゴーレム。柱のようなずんぐりむっくりとした体に太い手足が取り付けられている。材質は土を押し固めたレンガのような物でできている。
「なんと言うか……ドラ〇エで見た事のあるデザインだな」
侵入者の接近を感知してゴーレムが動き出す。
ゆっくりとした足取りで近付いて来る。
「アンデッドの次はゴーレムか」
これも一種の試練なのだろう。
ゴーレムは一体。アンデッドの襲撃に怯えながら進んだところでボスであるゴーレムを倒さなくてはならない。
「あのタイプだと強力な一撃が必要になるな」
天井の崩落を招くような事なく致命的な一撃をゴーレムに与える。
剣や槍といった武器での攻撃は通用し難く、貫通力のある魔法が要求されている。
「私がやるよ」
ユウカが立候補してくれる。
相手がアンデッドでなければ戦う気も起きるらしい。
ただ、もう面倒になって来た。
「いや、一撃で終わらせよう」
ゴーレムに向かって魔法陣を飛ばす。
直撃した瞬間、ゴーレムが姿を消してしまう。
「え、もしかしてゴーレムにも有効だったの」
「当然」
ゴーレムも動力があって動いているだけで『物体』でしかない。
なら収納するのは簡単だ。
「本来なら今のゴーレムとの戦いで魔法の実力を確かめて試練クリア。ようやく『叡智の書』を渡せることになったんだろうな」
奥へと進む。
ゴーレムを収納した時の【収納魔法】からゴールが近いことは分かっている。
「いた……」
迷路の最奥。
そこには椅子に腰掛けたまま力尽きてミイラ化した男性がいた。
アンデッドとゴーレムに対して最強の能力。
やりたかった事の内の一つをようやく消化できた。
ちなみに第9章のボス戦でも活躍してくれる設定です。




