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第9話 叡智の書―②―

 洞窟のある場所へと向かう。

 洞窟までは草原の中に道が出来上がっているので迷わずに行ける。この道も街の方で一種の観光にしようと整備した物らしい。

 その思惑は当たって稼げる魔物が近くにいないのに冒険者で賑わっていた。


 今も向こう側から冒険者が3人やってくる。


「4人じゃない?」


 視力を強化して視たハルナが気付いた。

 俺も注意深く見させてもらう。確かにハルナが言うようにボロボロな一人に二人が肩を貸して歩かせており、後ろの方にいる一人が全員分の荷物を抱えて移動していた。どうやら4人パーティで1人が負傷してしまったらしい。


「大丈夫ですか?」


 負傷者を見つけたレイが近付く。


「ああ、あんたたちもこの先にあるダンジョンへ挑むのか?」

「そのつもりですけど……」

「だったら気を付けた方がいい。ギルドの情報にはなかった罠があった。そいつに引っ掛かったせいで仲間の一人が毒を受けてこの様だ」


 中央にいる仲間の肩を借りた男。

 表情は既に真っ青で今にも死にそうだった。


「毒!? だったらすぐに解毒しないと!」

「いや、どうやら特殊な毒が使われていたらしくて一般的な解毒薬だと解毒できなかったんだ。すぐにでも街にいる医者に診せる必要がある」


 街からここまで30分ほど歩いて来た。

 毒を受けた仲間に肩を貸しながら歩いていたのでは、街に辿り着けるのはいつになるのか分からない。最悪の場合には街に辿り着くのが間に合わずに男が死んでいる可能性もある。


 レイがこちらを見て来る。

 その目が訴えて来ている。


 溜息を吐きながら首を縦に振る。

 これぐらいの人助けなら問題ないだろう。


「これを飲んで下さい」


 アイテムボックスからポーション――解毒薬を取り出す。


「いや、市販薬は通用しなかったんだ」

「大丈夫です。あなたが受けた毒も治せるポーションです」


 半信半疑ながらポーションを受け取る。

 苦い緑色の液体は飲み干すのに勇気がいる。


「……!」


 だが、全ての液体を飲み干した直後、冒険者に活力が戻っていた。


「これは……!」

「さすがに体力まで回復させることはできませんでしたが、きちんと解毒はされているはずです」

「神に感謝だな。偶然、君のように専用の解毒薬を持っている人に遭遇することができたんだから」


 残念ながら解毒薬を持ち合わせていた訳ではない。

 彼が言うように医者に診せてきちんと診断して貰ってから専用の薬を処方してもらう必要があった。


 その過程をすっ飛ばしたレイ。

 彼女のスキル【薬調合】も強くなっているので対象の状態を見るだけで、どんな薬を調合すればいいのか分かるようになっていた。

 そうしてスキルによって得られた知識に従って薬を調合したまで。


「なんとお礼を言ったら……」

「あまり渡せるような物はないんだが……」

「だったら罠のあった場所を教えてくれます?」


 お礼に困っているようだったのでこちら情報を知りたいことを伝える。

 罠の位置が分かるのは攻略を考えている身としては非常にありがたい。


「そんな事でいいのか?」


 冒険者たちは少々訝しみながらも教えてくれる。

 こんな事で本当にお礼になっているのか、といった感じだ。


「ありがとうございます」


 罠のあった場所を地図に記し、ダンジョンへと向かう。



 ☆ ☆ ☆



「うぅ、ちょっと怖くない?」


 ダンジョンは山の中腹に穴を開けたように入口があった。

 広い通路には等間隔で木の柱や梁が用意されている。まるで炭鉱を思わせるような場所だが、鉱石が手に入る訳ではない。

 ただ、真っ暗な通路が続いていると人間の本能が不安を訴えて来る。


「灯りを」


 ダンジョン内は灯りがない。

 そのためダンジョンに挑む冒険者たちはランプに火を灯しながら進むことになる。


 が、俺たちはそんな真似をしない。

 手に持った筒のような形をした道具から光が放たれる。


「こういう時、懐中電灯って便利よね」


 予備も含めて大量に持って来てある。

 道を照らしながらダンジョンを奥へ進む。


「ええと……地図によると10メートル先に踏んじゃいけない場所があるみたい」


 端の方へ寄って移動すれば罠は回避できる。

 だが、人間の心理として暗い場所を複数人で歩いていると固まって中央の方を歩きたくなる。

 そうしたところを上から炎を浴びせられてしまうらしい。


「……ちょっと踏んでみるか」

「ちょ! 罠があるって分かっているのにどうして踏むの!?」

「まあ、実際に起動させて罠がどういった物なのか見る必要があるだろ」


 ギルドが把握している罠は半分程度。

 奥の方へ行った後は自力で罠を見つけ、起動させてしまった後も自力で対処しなくてはならない。逆に罠が起動すると分かっている内に練習しておくのも一つの手とも言える。


「あ~なるほど」


 一箇所だけ足一歩分地面から出っ張った部分がある。

 この出っ張りを踏んでしまうと罠が起動してしまう仕掛けらしい。


「とりあえず押してみるか」


 仲間たちがサッと後ろへ下がる。

 炎を浴びせられる、という事は分かっているが、具体的にどんな事が起こるのかまで分かっていないので適切な行動ではある……適切ではあるのだが、自分の傍から離れられるとショックを受けてしまう。


 ――ガコン。


 出っ張りが沈む。

 直後、天井に魔法陣が出現して人を包み込んでしまうほどの炎が噴き出される。


「ちょ……!」


 後ろで誰かの悲鳴のような物が聞こえる。


「こんな炎を浴びたら一般人だとひとたまりもないぞ」


 炎を全て収納。

 浴びせられる炎は全て消えてしまった。


「大丈夫でしたか?」

「問題ない」


 たとえ炎を浴びせられたとしても収納できるからこそ俺が率先して罠を起動させた。


「それに罠が起動するまでに数秒のタイムラグがあった」


 起動させてしまった事に気付けば横や前へ跳べば回避することができる。

 一般的な冒険者はそうやって回避していたのだろう。

 中には先ほど遭遇した冒険者たちのように回避することができずに毒を受けてしまう者もいる。


「それにしても本当に危険な罠ですね」


 明らかに侵入者を殺そうという意図が見えた。


「あそこも危険だな」


 足元に転がっていた石を拾って20メートル先にある壁に当てる。

 壁に設置された魔法陣が物体の接近を感知してカマイタチを発生させる。地面から10センチの高さに放たれたカマイタチは何も知らずに探索していた人たちの足首を切断する。


 この場所の攻略法としては、感知できる高さが20センチまでなので場所にさえ気を付けて跳び越えるだけでいいと記されていた。

 先に起動させてもすぐに再起動する。


 石を当てて先に見させてもらったが、反対側にあった壁を深く斬り裂いている。人間の足首を切断できる、というのも誇張などではないようだ。


「気を付けながら進まないといけないのか。これはけっこう精神力を使いそうね」


 アンが呟いた。

 たしかに罠の位置を気にしながら進むのは神経を使う。


「本当は罠に気を付けながら進む練習をした方がいいんだろうけど、後々の事を考えると一気に無力化した方がいいのかもしれないな」

「そんな事ができるの?」


 地図を確認。

 罠の位置は確認できたのでスキルを迷宮全体に向けて発動。


「さあ、進むぞ」

「一体、何をしたの!?」


 横からスキルを使う姿を見ていただけのアンには分からなかった。


 戸惑いながらもついて来るので前へ進む。


「あ……」


 地図を確認しながら歩いていたレイが気付いた。

 ここは、本来なら右側の壁から土の弾丸が何十発と撃ち出される場所になっていたはずだ。ところが、弾丸が撃ち出される様子はない。

 罠は全て無力化させてもらった。


「罠を起動させる為には何らかの事前動作が必要になる」


 地面にある出っ張りを踏む。

 感知範囲内に足を踏み入れる。


 そういった仕組みがなくなってしまえば罠は発動しない。


「まさか……」


 ショウが俺のやった事に気付いた。


「そう。起動スイッチは全部収納させてもらったさ」


 スイッチそのものがなければ起動させる事も不可能だ。


罠が怖い?

全部、回収しちゃえばいいじゃない!

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