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第7話 黄金の果実―後―

 人目に付き難い森の手前まで移動する。

 ここならスキルを使っても注目を浴びるような事はないだろう。


「【解放(リリース)】ハウス」


 収納に入れておいた物が出て来る。

 それは、8人が暮らしても平気な広さがある大きなログハウスだ。持ち運びができるよう水道もガスも引いていないが、建物内だけで全てが完結するよう造られた家だ。

 ここ最近は宿に泊まれない場合はここで寝泊まりしている。


 これからの用事は人に見られる訳にはいかないため仮の拠点を利用する。


「で、回収した『黄金の果実』をどうするつもりなんだ?」

「手っ取り早くポーションにしてしまいましょう」


 キッチンに立ったレイが『黄金の果実』をアイテムボックスから取り出す。

 そう言えばレイがポーションを作るところを見たことがなかった。


「見学させてもらってもいいか?」

「いいですけど、あまり面白い物じゃないですよ」

「なになにポーションを作るところを見せてくれるの?」


 思い思いに寛いでいた仲間たちも集まって来る。

 みんなレイのポーションがどうやって作られていたのか興味があるみたいだ。


「まずは『黄金の果実』を切ります」


 林檎と同じように4等分にする。

 中身の方も白ではなく黄金に輝いている。

 果たして味はどうなっているのか気になるところだが、これはレイの所有物だ。勝手に食べる訳にはいかない。


「なるほど。黄金には輝いていますが、普通の林檎と変わらないみたいですね」


 指先サイズだけ切って口の中に運ぶ。


「……味は普通の林檎と変わりありません」

「いきなり食べるなんて……!」


 何かしらの害でもあったらどうするつもりだったのか?


「問題ありません。成分についてはスキルのおかげで分かっていましたから無害である事を承知のうえで食べています」

「なら、いいけど」


 次にキッチンの棚からミキサーを取り出した。


 ミキサー!?


「ミキサーなんて何に使うんだ?」

「ミキサーの用途なんて一つしかないじゃないですか」


 もちろん分かっている。


「細かくするんですよ」


 採って来たばかりの貴重な『黄金の果実』を全てミキサーの中へ入れる。

 そのままスイッチを入れると内部が高速で回転し、『黄金の果実』が細かく刻まれて行く。


「あ、ああ……」


 無残な姿になって行くのを見ていると勿体ない気がして来る。


 あのミキサーはレイから頼まれて彼女の自宅にあった物を拝借させてもらった。一応、本人から許可は得ているので持って来ても問題ないはずだ。

 電気は使えないが、電池で動くミキサーなためログハウスで使っても問題ない。


 ただ、気になるのは……


「ファンタジー世界でポーションを作っているのにミキサーを使うとは思っていなかったよ」

「だって……こっちの方が楽じゃないですか」


 ミキサーを持って来る前は素材をすり潰す必要があった。

 だが、女子の力ではどうしても限界があったため生産量が限られていた。何よりも疲れてしまう、との事。

 その時に比べて今はミキサーが手元にあるおかげでかなり楽ができている。


「それにファンタジー要素ならこれから追加しますよ」


 ミキサーの蓋を開けて中にピンク色の液体を投入する。

 しかもドロッとしている!?


「うわ、なにそれ……」

「まさか今までのポーションにも……!」


 ポーション作成の過程を見ていたハルナとユウカが顔を顰めている。

 ピンク色のドロッとした液体。見ているだけで生理的な嫌悪感を相手に与えている。


「はい。わたしが作った強力な溶液です。素材の効果を受け止めるのに十分な効果を発揮してくれます。効果が弱い物には使っていませんけど、強い物には基本的に使っていますよ」

「え……」


 その言葉を聞いた瞬間ハルナの表情が凍り付いた。

 俺たちのパーティには僧侶が使うような回復魔法を使える人材が決定的に不足している。そのため基本的に負傷者が出てしまった場合にはレイの薬に頼らざるを得ない。

 今まではポーションだと思っていたから何も思わなかった。

 けど、そのポーションにピンク色の液体が使われていると思うと……


「はは、大丈夫ですよ」


 レイはピンク色の溶液を少量入れたところで止めた。


「これだけで作る訳ではないですから」


 ミネラルウォーターのように澄んだ水を半分ほど入れた。


「これは霊水と言って特殊な山で採れた湧き水みたいです」


 この世界の人々にとっては神聖な物として扱われる。

 そのため教会が管理し、いくら金を積んでも制限された量までしか手に入らないようになっている。もっともレイの場合、最初は上限を守っていたが、最近では勇者特権を利用して必要な分を持って来ているらしい。


「いいじゃないか、それでも」


 それもまた必要経費の一つだ。


「後はここに……」


 刻んだ薬草と小さな木の実をミキサーに入れる。

 そのままスイッチを押せば再び回転が始まり攪拌される。


「うわぁ……」


 全ての素材が混ざり合い強力なポーションが作成される。

 ただし、そこにファンタジーらしい光景はなかった。

 作っているのはファンタジーの権化であるポーションなんだけどな。


「できました!」


 レイが高々とミキサーを掲げる。

 他の人に見られながら作ったせいでテンションが上がっているみたいだ。


「どんな効果があるんだ?」

「一言で言えば飲ませると死人でも蘇生させることができる」


 何だ、そのデタラメな効果は?


「もちろん死体の状態が悪いと蘇生させることはできないし、これだけの量しか作成することができなかったから蘇生させることができるのは10人までですね」


 しかも一度飲んでしまうと耐性が付いて蘇生させることができなくなるらしい。

 とはいえ、多少のデメリットがあるものの強力なポーションが手に入ったことには違いない。


「せっかくなので確認してもらえますか?」


 レイはスキルのおかげで薬の効果まで見るだけで分かるようになっている。

 ただし、スキルの力も万能という訳ではない。

 そこで俺の【収納魔法】でも確認してくるように言って来る。


「どれどれ……」


 ミキサーに触れて収納する。

 俺の【収納魔法】には地味な効果だが、収納した物の名前や効果が分かるという力もある。

 その力を用いれば二方向から確認することができる。


 その結果――


黄金回復薬(ゴールデンポーション)――死者の蘇生を可能にしたポーション。蘇生させる為には肉体の状態が最低限保全されている必要がある』


 ふむ……どうやら効果が間違いないらしい。

 さすがに死者蘇生の薬まで作ってしまうのは予想外だった。


「どうして、こんな強力な薬を?」

「これから魔王軍との最終決戦になります。その時に全員が生きて帰られる保証はありません。だから少しでも生存率を上げておきたいんです」


 レイの言葉はもっともだ。

 万が一の場合には『聖典』で時間を巻き戻してしまえばいいが、『聖典』の使用が不可能になった場合の事も想定しておかなければならない。

 そうすると蘇生手段は別に必要となる。


 最後に空いていたペットボトルに『黄金回復薬(ゴールデンポーション)』を入れて終わりになる。


 このペットボトルも元の世界から持ち込んだ代物でコーラなどの炭酸飲料が欲しくなった時に購入して来た物の空きペットボトルだ。

 やっぱり飲み物を飲むならペットボトルが便利だ。

 飲み易くはあるんだけど、異世界要素が皆無な容器だな。


 仲間へ1本ずつ手渡し、作成者であるレイが倒れた仲間に使えるよう3本持つ。

 持つ、と言ってもアイテムボックスに収納するだけだ。


「これで死亡状態からでも生き返られるようになりました。でも、勘違いしないで下さい。この薬があるからと言って簡単に死んでいい訳ではありません。こんな薬は使わずに終える方がいい。その事を絶対に忘れないで下さい」


過去改変に続き死者蘇生が可能になりました。

次は不老不死でも叶えてみるかな?


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