第2話 王招集―中―
「提案、だと……?」
メグレーズ国王が訝しんでいる。
いや、彼だけでなく他の王たちも訳が分からないと言った顔をしている。
「貴様の提案を受け入れる必要性がどこにある?」
「提案とは言ったが、この提案は絶対に受け入れないといけない類のものだ」
「ええい! 貴様のような者は今すぐにでも捕らえてやる」
王からの指示を受けて後ろにいた二人の護衛が剣を抜く。
俺の左右から挟み込む護衛。
対して剣を向けられている俺は溜息を吐いてしまった。
「あまりに悪手だな」
呟いた直後、二人の護衛が斬り掛かって来る。
電撃のような物が俺の手の中で爆ぜる。
次の瞬間、俺の姿がその場から消えて斬り掛かって来た二人の護衛の剣が空振る。
同時に別の場所で発光。
「はい、チェックメイト」
「……!」
その場所は、王の背後2メートル。
そこから剣を抜いて王の首に突き付ける。この世界の人間にとっては、何も知らない銃よりも剣の方が脅威を伝え易い。
冷たい金属の鋭い感触がメグレーズ国王に伝わる。
「陛下!」
「待て!」
すぐにでも動こうとしていた護衛を止める。
賢明な判断だ。
「そうだ。生きていたいなら下手な行動はしない方がいい。俺にはあんたを殺さない理由はない。それでもあんたが生きていられるのは、国王であるあんたに利用価値があるからだ。あまり自分の利用価値を下げるような真似はしない方がいい」
「くぅ……」
それきり何も言えなくなってしまう。
手招きして二人の護衛を王の傍へ呼ぶ。
他の王に付き従う護衛もいるのだから不必要な動きは控えて欲しいところだ。
再び、転移して元の位置であるメグレーズ国王の対面へと移動する。
「『転移の宝珠』による移動か?」
「正解」
フェクダレム皇帝の推論を肯定する。
「しかし、あの魔法道具にそこまでの自由さはなかったはずだ」
別の場所に置いた対となる宝珠の元へ移動できる魔法道具。
そのため長距離を移動できるよう中継地点に置くのがこれまでの一般的な使い方だ。
しかし、俺はどこにでも出現させることのできる【収納魔法】の魔法陣を用いることによって『転移の宝珠』をあちこちに出して移動先を自由に設定することができる。
先ほどメグレーズ国王の背後まで移動したのも収納しておいた宝珠を王の背後に出現させて転移しただけの話。そもそも、この部屋に現れたのも遠く離れた場所にいながら『転移の宝珠』をこの場で取り出しただけの話。
「そんな事よりも本題です」
忌々しそうにこちらを睨み付けて来る視線を平然と受け止める。
こいつに関してはオマケ程度にしか考えていないので無視しても問題ない。
「さて、メグレーズ王国はともかくとして他の国々の王も俺が何者か知っているから今さら自己紹介の必要もないだろう」
懐から一枚の封筒を取り出す。
それは、彼らの招待状と全く同じ物だ。
「予想していたとは思うけど、この手紙を出したのは俺です。まあ、これまでの事を報告する必要があったんですけど、バラバラに説明するよりも全員を1箇所に集めてしまった方が手っ取り早いと思ったんですよ」
4人の王が自国であった出来事を思い返す。
デュームル聖国で先代魔王軍最強の男を倒す。
フェクダレム帝国で対魔王兵器を狙っていた魔王軍四天王を倒す。
クウェイン王国で魔王軍四天王の一人が復活させた魔王を倒す。
フォレスタニア王国では獣人たちの反乱を鎮圧。
「報告、というのはフォレスタニア王国での騒動を片付けてからの3カ月間の出来事に関してかな?」
フォレスタニア王。
騒動を集結させた後、戦争を無事に締結させたことを祝して国王自ら報酬を与えてくれた。
会っていた時間はすごく短いけど、他の王たちと比べると凄く親しみやすい人だ。
他の王たちにもフォレスタニア王国までの出来事は密偵を通じて知らされているはずだ。途中、何度も気付いたけど面倒事を避ける為に放置していた者もいる。
彼らが持ち帰った情報を見ていたなら何をしてきたかは知っているはずだ。
「それもあります」
獣人たちとの対立から3カ月。
その間、『世界樹』から強力な杖を貰えたことから強力な装備を得る為に色々な所を奔走させてもらった。
結果、全員の装備を強化することに成功。
今後も続けて行くつもりだが、王たちには関係のない話だ。
「あなたたちに知らせたいのは元の世界へ帰る為の方法が分かった事です」
既に魔王を倒したところで元の世界へ帰れない事は全員に伝えてある。
そのうえで元の世界へ帰る方法を見つけた。
「そんな方法があるのか?」
「ええ、ありましたよ」
世界を渡る為に必要な魔法道具――楽園への門。
さらに『楽園への門』がどこにあるのか場所について教える。
王たちが申し訳なさそうな顔を向けて来る。
「申し訳ない……」
「私たちは王として元の世界へ帰還する方法を知っておかなければならなかった。しかし、『勇者召喚』はメグレーズ王国の秘儀と言われては情報を強く開示させることができなかった。そのせいで帰還方法を教えることができなかった」
4人の王は共通して申し訳なさそうにしている。
ただ一人、視線を逸らしている者がいた。
「あんたは知っていたんだな」
「……もちろん知っていたとも! だが、魔王を倒した存在を易々と手放せる訳がなかろう! 彼らには十分役立ってもらったさ」
魔王を倒した勇者の存在は大きい。
そんな存在がメグレーズ王国に協力してくれている、というだけで他国に対して強い力を誇れる。
なんとも可哀想な話だ。
「俺たちは準備が整い次第、『楽園への門』を使用する為に魔王城へ強襲を仕掛けます」
「ほう。魔王を倒すのか」
メグレーズ国王が阿呆な事を言い出した。
魔王城の地下にある『楽園への門』を使用する為には地上にいる魔王軍が邪魔になる。
だから、魔王を倒してから『楽園への門』を使用すると勘違いしているのだろう。
実際、地下に『楽園への門』があることを知らない勇者たちも地上に展開していた魔王軍を殲滅しながら奥へと進み、玉座の間にいる魔王を倒した。
「どうして俺たちがそんな事をしないといけないんだ?」
「なっ……!」
「俺たちが魔王を倒さなければならない理由なんてどこにもないだろ」
目的は地下にある『楽園への門』。
たしかに安全に使うことを考えるなら地上にいる敵は殲滅してしまうのがいいのだろうが、そこまでの余裕は求めていない。何より最も厄介な相手である魔王を倒さなければならない理由などない。
「俺たちは真っ直ぐに魔王城へ向かいます。もちろん立ちはだかる相手は全て薙ぎ倒して行きます。その時、戦力を失った魔王をどうするのかはあなたたちで決めればいい」
俺たちの襲撃に合わせて魔王を倒そうとする分には問題はない。
便乗するか否かを尋ねに来た。
こんな提案断れるはずがない。
「ふん。貴様の提案などに乗れるはずがない!」
馬鹿が一人いた。
提案の内容
魔王城へカチコチを仕掛けるから便乗しねぇか?