第1話 王招集―前―
蒐集編スタート
異世界ポラリス。
その中でも三大国と呼ばれる国家がある。
メグレーズ王国。
フェクダレム帝国。
クウェイン王国。
世界の中心にあるメグレーズ王国。広大な土地を持ち、世界に危機が訪れた時に行う勇者召喚の方法を世界で唯一保有しているからこそ昔から大国とされていた。
南方にあるフェクダレム帝国。豊富な鉱物資源を有し、それらを加工する技術もあるおかげで武器に困らず、国民も日々強くなることを目指してきたからこそ軍事大国として名乗り出ることができる。
西方のクウェイン王国。西方にある小規模国家とメグレーズ王国の間にあるおかげで商業を中心に発展し、立地的な理由から重要人物が集まるなど欠かせない場所として注目されていた。
そんな三大国に加えて二国の王がメグレーズ王国に集っていた。
一人目は、デュームル聖国の国王。
二人目は、フォレスタニア王国の国王。
5人の王がメグレーズ王国の王城にある部屋に集まっていた。
公平性を持たせる為に円卓の前に座っている。全員が首を少し動かすだけで全員の姿を見ることがでいるよう等間隔で座っている。王の後ろにはそれぞれ護衛が二人ずつ立っている。こういった会議でのルールであり、最低限の護衛を必要としている人物たちなため決められた人数を置くようにしている。
と言っても部屋の主と言ってもいいメグレーズ王は姿を現していない。
彼らも姿を現していない理由については察している。だからメグレーズ王が不在でも会議を始める。
4人もの王が集まった理由は――
「で、改めて確認させてもらうが、全員の所にこの手紙が届いたんだな」
フォレスタニア王が招待状の入った封筒を見せる。
その言葉に他の王も頷く。
「いきなり、こんな物が届いた時には驚いたものだ」
デュームル王も同じ物を円卓の上に置く。
手紙は王の私室に置かれていた。
王城内は警備が万全。たとえ、魔法道具を使用して近付いたとしても侵入を禁止する結界があるため簡単に侵入することはできない。たとえ侵入できたとしても結界が侵入を感知し、教えるはずだった。
ところが、結界は全く反応しなかった。
手紙を置いた人物は、人だけではなく結界に気付かれることなく手紙を置くだけで帰って行ったことになる。
「そして、書かれていた内容も意味不明と来ている」
フェクダレム帝国の皇帝も同じ物を受け取っていた。
手紙に書かれていたのは――『20日後の10時ちょうどにメグレーズ王国で集合』という言葉のみ。
何かを脅迫されている訳でもない。
命令書ではあるものの集まったところで何をするのか?
そして、集合という事は誰を呼んでいるのか?
一切の事が書かれていなかったが、彼らは正体不明の呼び出しに応じざるを得なかった。
「おそらく、この手紙を出したのは例の勇者でしょう」
例の勇者。
数カ月前に異世界から勇者が召喚された。
今までの勇者ならば、いくら勇者と言えども召喚されてからの数カ月は強大なスキルは授かっても子供であるため強くなる為に大人しくしているしかなかった。
だが、今回の勇者の中には召還されてから早々に大きく動く者がいた。
「彼らが本当にこのような手紙を出したとして儂たちをこの場に集めて何をさせるつもりなのか?」
クウェイン王国の国王も困惑していた。
4カ月前――クウェイン王国では、王国内の誰もが気付くことなく魔王軍による侵略が侵攻していた。しかも、侵攻の主犯は国王の息子である王子。王子は弱い力しか持たない自分を恥じ、嫉妬から強大な力――前魔王の力を得ようと画策した。
だが、計画は失敗に終わった。
異世界から召喚された勇者が魔王となった王子を倒してくれたためだ。
国にとっての大恥であるため一般人に知らせることはできなかったが、この場にいる王たちならば密偵から知らされていてもおかしくない。
王国を飛び出した後は、フォレスタニア王国へ行くと言っていたが、今現在はどうしているのか知らない。
ただ、フォレスタニア王国でも同じような騒動に巻き込まれたのは間違いないと報告を受けている。
「どうやら、最後の一人が現れたらしい」
部屋の扉が開いて一人の男性が現れる。
現れるべきは最後の会議参加者であるメグレーズ王国の国王。
『……』
だが、国王の姿を目にした瞬間、4人の王は言葉をなくしてしまった。
立場上、何度か国王の姿を目にしたことがある。
美しい金髪を後ろに流し、スラッとした長身は男性の誰もが憧れを抱いてしまう長身。腰には煌びやかな装飾の施された剣を差し姿勢を正して歩く。
けれども、今のメグレーズ国王は金髪がくすんでボサボサに荒れており、スラッとした長身は猫背になってしまったせいで縮んだように見え、腰にはあるべき王剣がない。
一瞬、本当に同一人物なのかと疑ってしまった。
しかし、間違いなくメグレーズ国王その人だ。
「随分と痩せ衰えましたな」
デュームル聖王が憐れんだ視線を向ける。
デュームル聖国は、世界が魔王復活を迎えてしまった危機だというにも関わらず自国の利益を優先させたメグレーズ王国に騒動を起こされるという事態に直面してしまった。
その事を知ったデュームル聖国は怒った。
しかし、メグレーズ王国のように今の状況で争いを起こすことは勇者が作った国に住む者として許せなかった。
だから渋々ながら承諾することにした。
そんな彼だからこそ国民に被害が及ぶようなことはなく、国王だけが衰弱していく姿を見るのは楽しかった。
「う、うるさい……!」
「人間、最低限の食事しか与えられないとそんな風になるんだな」
「ど、どうして……?」
「城にメイドや使用人を招き入れるならもっと用心をした方がいいぞ」
つまり、誰かスパイがいて国王がどのような生活を送っているのか報告をしている。
しかも、フェクダレム皇帝だけでなく全員が頷いている。
自分も他国に忍び込ませるぐらいのことはしていた。
だから自国に忍び込んでいる者がいたとしても不思議ではないが、実際に堂々とやられてしまうと怒りが沸々と湧き上がって来る。
「奴らからの罰。ちょうどいいな」
メグレーズ国王は、異界の勇者との約束を反故にしたため罰を与えられていた。
国王が自由に使えるお金は子供のお小遣い程度にまで減額され、食事や睡眠など普段の生活で使用する物も必要最低限のレベルにまで落とされていた。
死なない程度に困らないレベル。
実務は臣下たちがやってくれるから国政に支障を来たすようなことはないが、本当に国王が倒れるような事態になれば混乱は避けられない。
そんな事は、自分で魔王を倒すつもりのない者としては許容できない。
だから国王だけが困る罰を与えた。
それが必要最低限の生活。
生まれた時から王族として生きて来た国王には耐えられない生活だった。
「『ちょうどいい』だと!? 俺がどんな生活を送って来たと思っているんだ!」
誰も反応を示さない。
全員がどんな仕打ちを異界の勇者が受けさせられたのか聞いて知っているため何も思わない。
それよりも気にしなければならない事がある。
「で、場所を提供しているアンタは集められた理由を知っているのか?」
「そんなものは私の方が教えて欲しいぐらいだ!」
今すぐにでも殺してやりたい。
しかし、相手はどこにいるのかも分からない異界の勇者。一体、誰ならば止めることができるのかも分からない。
怒りに身を任せて円卓を叩く。
と、次の瞬間、空いていた円卓の席の前で光が弾ける。
光が収まると球体が円卓の上に浮かんでいた。
「あれは……!」
フェクダレム皇帝が驚く。
浮かんでいる球体は、元々がフェクダレム帝国の城にあった物だからこそ知っていた。
そして、魔法道具の効果。
さらに、今誰が持っているのかも思い出した。
……全員、揃ったことだしそろそろいいな。
球体を持つようにしてシュッと俺が姿を現す。
「王様たち、久しぶりですね。今日は、こちらの提案を聞いてもらう為に集まってもらいました」
もはや制限を掛ける必要がなくなったためありとあらゆる物を奪って行きます。