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第21話 ガトリングガン

「こっちは任せた」


 豚の獣人目掛けて一気に駆け抜ける。

 あいつが何らかの影響を与えているのだとしたら、あいつを倒せば兵士たちに与えている正体不明の影響も消えるはずだ。


 目前まで迫ると剣を振り上げる。


「ほぅ……」


 剣が豚の獣人を斬る直前。

 豚の獣人が背中にあった大盾を手にして剣を防いだ。


「へぇ、いい盾を持っているじゃないか」

「オレの自慢の一品だ」


 盾で押し込まれて後ろへ吹き飛ばされる。

 どうにか威力を殺しながら着地すると獣人の兵士が二人襲い掛かって来る。


 斧と鉈。どちらも斬られれば無事では済まない。

 だから、手にしていた剣を収納すると両手で掴み取る。


「まったく……本物の武器を使いやがって」


 ステータス差があるおかげで無傷でいられるが普通に掴んでいれば血が出るどころか両断されていた。


 斧と鉈を持ち上げて男たちを放り投げる。

 木に叩き付けられた時に体を痛めているはずなのだが、すぐに起き上がって来る。


「エイブ将軍に指揮された兵士は死兵と化す」

「なんです、それ?」


 後ろの方でミラベルさんが呟いたのが聞こえた。


「獣人軍の三将軍の中でも最も有名なのが豚の獣人である――エイブ。彼の指揮する兵士は狂ったように敵を殺し、仲間がどれだけ死のうとも必ず成果を挙げる、そんな話を聞いたことがあるのよ」

「でも、あれは指揮によるものとは思えませんよ」


 まるで洗脳でもされているかのようだ。


「ええ、アタシも実際に見て納得したわ。アレは、【狂宴】によるものよ」


 色々な場所を旅して様々な人と出会った事のあるミラベルさんはスキルについても詳しかった。


 スキル【狂宴】。

 自分の主催したイベントに参加した者の正気を狂わせる。イベントの範囲、正気を失った結果どのようになるのかは使用者によって違う。

 エイブの場合は、自らの指揮下にある兵士を狂ったように敵と戦わせるようにすることができるスキル。

 しかも、武器を受け止めた時の感覚から普段よりも強化されていることは間違いない。


「強くなっているうえに死を恐れずに突っ込んで来る」

「おまけに本人は大盾を装備していて防御が得意と来ています」


 ショウの言う大盾。

 しかし、貫通するのは難しい訳ではない。


 ただ――


「スキルの効果範囲は人間側には一切通用していない事から受ける側も何らかの方法でスキルの対象下になる事を容認する必要がある」


 洗脳のように無理矢理操られた訳ではない。

 本人たちも望んで今の状態になっている。


「そんな奴らにまで慮る必要は何だ?」

「……」


 答えは返ってこない。

 少なくとも彼らは自分たちの意思で俺たちと敵対することを選んだ。


「自分たちの選択を嘆け。そして、後悔しながら死んで行け」


 収納から新たな武器を取り出す。

 取り出したのは『ガトリングガン』。発射時の反動が強く、本来は戦闘機のような機体に取り付けることを前提に造られた凶悪な兵器。


「発射」


 毎分3000発の発射が可能なガトリングガンから銃弾が発射される。

 銃弾についてはいつもの如く軍事施設からパクらせてもらったし、エネルギーも収納の中と繋げたままにしてあるので問題ない。


「ぎゃっ!」

「ぐぴっ!」


 何人もの兵士がまともな悲鳴を上げることすら叶わずにミンチになって行く。

 弾丸の嵐……壁の前ではどんな屈強な肉体を持つ獣人でも無力と化す。


「死にたくない奴はさっさと避難しな!」

「ひっ……!」


 まだ無事だった獣人が地面に伏せる。

 頭の上を過ぎ去る死神の弾丸に恐れながら壁が通り過ぎるのを待つ。


「こんなものかな」


 3000発吐き出すと停止させる。

 弾丸を撃った先には穴だらけになった木。元がどのぐらいの大きさがあったのか分かるほど形が残っていればいい方で、大抵の木が吹き飛ばされて跡形もなくなっていた。

 もはや森が原形を留めていない。


「まだ、やるか?」


 尋ねると獣人軍の兵士が一斉に首を横に振っていた。

 いや、獣人軍だけでなく人間側も拒絶していた。

 どうやら恐怖を与えすぎてしまったらしい。


 ただ、効果はあった。興奮状態にあった兵士たちも拒絶していたことから興奮状態から元の状態に戻っているのだろう。

 それだけのインパクトがガトリングガンにはあった。


「なんだ、この威力は……がはっ!」


 エイブが口から血の塊を吐き出す。

 自分に向かって来る銃弾の壁に対してエイブは持っていた大盾で防ごうとしてしまった。結果、全ての銃弾が体を貫通してしまい致命的なダメージを負っている。

 それでも元来の頑強な肉体で倒れず必死に耐えている。


「まだだ……まだオレは諦めていない!」


 膝を突きそうになる体を抑えてスキルを使用する。

 興奮作用のある力が部下たちへと伝わり、死を恐れずに敵へと襲い掛かる兵士へと変える……はずだった。


「なぜだ!?」


 スキルの影響下にあるのは間違いない。

 だが、兵士たちが敵に向かって行く事はなかった。


「あんた自身が一番怯えているからだろう」

「……!!」


 エイブの体はガタガタ震えている。

 最初はガトリングガンによるダメージだろうと思っていたが、よくよく見てみると俺が近付く度に震えが強くなっている。

 獣人であるエイブは本能で俺に勝てないと悟ってしまった。


 しかし、恨みから絶対に人間に勝たなければならないという想いがある。


 結局は本能の方が勝ってしまった。

 本能が悟った怯えがスキルによって伝わってしまい、興奮と相殺されてしまっているせいで部下たちを興奮状態にすることができずにいる。


「オレが恐怖、しているだと……?」

「その通りだ。その証拠を見せてやる」


 森の奥へと進む。

 この先には集落があり、獣人たちの信仰する『世界樹』がある。

 特別な事情でもない限り、絶対に人間たちを入れてはいけない。


「……」


 だが、エイブは何も行動を起こせない。

 地面に膝を突いて俺が横を通り過ぎるのを待つだけだ。


「あんた。それだけの傷を負っても生きているんだ。きちんとした治療を受ければ生き残ることができるかもしれないぞ」

「たしかに人としては生き残ることができるかもしれない。だが、戦場に立つ者としては――」


 失格も同然だ。

 恐怖で足が竦んでしまう者など足手纏い以外の何物でもない。


「行かせてもらうぞ」


 そのままエイブの横を通り過ぎる。

 仲間たちも付いて来てくれるので危険な場所へ足を踏み入れても怖くない。


「か、確保だ!」


 戦意を喪失した獣人軍。

 慌てたフォーラントの兵士が次々と捕縛して行く。

 獣人たちもすっかり抵抗する気力を失ってしまったみたいで大人しく捕虜になっていた。

 今後、人間と獣人の間でどのようなやり取りをされるのか分からないが、少なくとも死ぬような目に遭うことはないだろう。


「真っ直ぐ集落へ向かうぞ」


 空を飛んで行くのは真っ暗なので危険だ。


 収納から新たな乗り物を取り出す。

 人員を輸送する為の大型装甲車。10人ぐらいなら軽々と乗れる。それに装甲車なら森の中から隠れて矢を射られたとしても傷が付くことすらない。


「こんなのまで持って来ていたの?」

「基本的に役立ちそうな物は全部持って来たからな」


 運転席に乗り込むとエンジンを掛ける。

 初めての運転だけど、ゲーセンでレースゲームをやっていたおかげでどうにかなりそうだ。


「ところで、免許は?」

「そんな物を持っているはずがないだろ」


 これまでだって異世界で乗り物は何度も無免許で動かしてきた。

 やる事はその時と変わらない。


「え、ちょ……」

「問題ない。ここは異世界であって公道なんて存在しない。それに交通規則そのものが異世界には存在しない。だから無免許で運転したところで怒られる訳じゃないから大丈夫だ」


 後ろの方からハルナの抗議が聞こえてきたが無視して装甲車を走らせる。

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