第7話 採取依頼
「みなさん、もう冒険者の仕事には慣れましたか?」
依頼を終えて冒険者ギルドに顔を出すと俺たちの担当みたいな感じになったシャーリィさんが笑顔で語り掛けてくる。
「まあ、そうですね……」
疲れているため曖昧に答える。
初日に依頼を2つもした俺は余裕があると思われたのか2日目からは重い荷物の配達を頼まれた。重量を感じて大変になることはなかったのだが、都市の中をあちこち走り回されたため疲れていた。
同じように疲れたショウたちともギルドの前で偶然にも遭遇したため一緒に依頼完了の報告に訪れていた。
「さすがに3日じゃ装備とかは揃わないですよね」
「装備が揃っているとどうなるんですか?」
「ランクアップですね」
「……え?」
さらっと言われた言葉が信じられなかった。
「ソーゴ君たちは、レベルが低い割にステータスが高い方だったから装備さえ整っていればFランクぐらいにならしてあげようと思っていたんですけど……」
ギルドに冒険者登録の為に来た冒険者。
おまけにレベルが低く受付嬢からは強そうには見えない。
そんな人物が装備まで揃えているとは思っていなかったらしい。
「実は、装備なら最初から持っていた物があるんです」
「もしかして収納の中に?」
頷くと頑丈そうな剣と盾を取り出す。後は、初日に購入したコートも着れば、それなりの防具も持っていることも見せられる。
「ごめんなさい。装備があるならランクアップしても大丈夫そうですね」
依頼完了の報告の為に渡しておいた冒険者カードを受け取るとギルドの奥へと消えて行く。
数分待っているとランクの書き替えられた冒険者カードを持って戻って来た。
「どうぞ」
受け取った冒険者カードを見てみるが大きく変わったところはない。
カードの右下に書かれていたGという文字がFに変わっていた。
「Fランクになれば簡単な依頼なら外に出ることもできますので、掲示板を確認してみるといいですよ」
4人で掲示板の方へと移動してみると薬草採取の依頼が目に留まった。他には既に倒したことのあるスライムなど弱いとされる魔物の討伐だ。
とりあえず1番上にあった薬草採取の依頼票を持ってシャーリィさんの下へ行く。
「あの、こういうのばっかりだったんですけど……」
「それはそうですよ。Fランクの冒険者には本当に簡単な依頼しか回されませんよ」
街での雑用依頼よりは冒険者らしい依頼にはなったが、魔物と激しく戦うわけではないらしい。
それでも魔物が出現する危険な街の外へと行くわけになるのだから危険が全くないというわけでもない。
「まあ、Fランクの依頼なら何度かこなせば実力が信用されてすぐにEランクに上がることができますよ。ただ、少しすると雑用系の依頼が舞い込むことになると思うのでそっちも手伝ってくれると嬉しいですね」
「そうなんですか?」
横で話を聞いていたハルナが尋ねる。
俺は配達依頼の傍ら依頼主と話をして事情を聞いている。
「実は、4日後の予定だった勇者のお披露目を兼ねた式典なんですけど、城の方でトラブルがあったらしくて3日ほど延期されることになったんです」
「……トラブル、ですか?」
「どうにも城に賊が侵入したらしくて式典で使われるはずだった物が盗まれたみたいです」
身に覚えのある話だけに最初に聞いた時は冷や汗が流れた。
「城に侵入者なんて大変ですね」
「ええ、おかげで商人たちは対応にゴタゴタしている最中なんです。そういうわけで配達依頼なんかは普段よりも報酬が割り増しになると思いますよ」
ギルドの印象は今後の為にも良くしておいた方がいい。
一応、覚えておこう。
「で、どうする?」
掲示板にあった依頼は街の外に出る依頼だが、簡単な物ばかりだった。
街の外に行って薬草採取してから戻って来る。
報酬のことだけを考えると雑用依頼をしていた方が儲かる。
「たまには違うことをやりましょう。もう、ウェイトレスは疲れたの」
日本のアルバイトと違って長期間で雇われているわけではなく、日雇いで依頼を受けているようなものなため依頼を受けなければ自由に別の仕事をすることができる。
しかし、レストランの店長に気に入られてしまったようでハルナは3日間ウェイトレスの依頼を受けていた。
「もっと冒険者みたいな仕事がしたい……」
そんなことを言われてしまってはショウもレイも頷くしかない。
一応、初めてのFランク依頼というわけでパーティ全員で向かうことにする。
「今回採取してきてほしい薬草はフェルト草です。場所はこちらですね」
別に用意してくれていた地図をもらって翌日は薬草の生えている山へと向かうことになった。
☆ ☆ ☆
「お昼にこんなゆっくりできるなんて久しぶり」
この3日間はウェイトレスとして忙しく働いていたハルナが腕を伸ばしていた。
「で、どこへ向かえばいいんだ?」
離れた場所にいるハルナはそのままにしてショウとレイが横から俺の持っている地図を覗き込んでくる。
「どこって言ってもこの辺りみたいなんだけど」
地図に従って歩いて来た場所は小高い山……というよりは丘みたいな場所だ。
周囲には木々が生い茂っており、草はたくさん生えている。
「必要な薬草はこれなんだけど……」
カラーで描かれた薬草の辞典を取り出すとハルナも仕事を思い出して近付いて来たので全員にフェルト草を見せる。
色は緑色で一般的な草なのだが、形が長方形で葉がとにかく薄いらしい。
「こんな草が薬草なの?」
「日本で言うところの湿布みたいな薬になるみたいだぞ」
形が特徴的だから別の薬草と間違える可能性も低いだろう。
「とりあえずバラバラに探してみることにするか」
1時間も経過する頃には全員が色々な薬草を腕の中に抱えていた。
「依頼はフェルト草だけでいいんだけどな」
そう言いながら俺の腕の中にもフェルト草以外の薬草があった。
山の中を散策しているとフェルト草とは違う薬草をいくつか見つけてついつい採取してしまった。
みんなも似たようなものらしい。
「……わたしの場合は調合魔法で使うので薬草は必要なんです」
「そうか。依頼で採取する以外にも自分たちで使うってこともできるんだよな」
もっとも薬草はそのままでは使い物にならない。
適切な方法で処理された薬草だけが薬として使用することができる。
そういった薬にする為の手順を全て無視してくれるのがレイの調合魔法だ。
「じゃあ、フェルト草以外は持って帰るか」
フェルト草だけはギルドに提出するとして全ての薬草を俺が収納する。
「ホント便利な魔法よね」
4人で採取した薬草は大きなリュックでも満杯にしてしまいそうだった。
それが手ぶらで帰れるのだから楽な方だろう。
「さて、こんな景色のいい場所にいるんだからここで昼食にするか」
「賛成」
収納からシートを取り出して地面の上に敷くと街で買ったサンドイッチの入ったバスケットと紅茶の入ったポッドを取り出す。
4人でのんびりと遠くの景色を眺めながら昼食を食べる。
「平和だ……」
こうしてのんびりとしていると異世界にいるという事実を忘れそうになる。