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第18話 獣人軍の奇襲

 夜、寝ていると外の騒がしい声に起こされる。


「なんだ……?」


 同じ部屋で寝ていたショウとマコトも目を覚まして起き出している。

 打ち上げの後、宿に戻るとすぐに眠ってしまった。


 外を見てみると未だに真っ暗だった。

 宿の前にある大通りでは何人もの兵士が走り回っていた。騒動があったのは間違いない。ただし、街の住人まで走り回っている訳ではないので未だそこまでの騒動ではないのだろう。


 着替えを済ませて部屋の外に出ると寝間着姿のレイとタイミングを合わせて遭遇してしまった。レイも同じように起こされたはずなのにしっかりと意識を覚醒させているようだ。


「口を開けて下さい」

「こうか?」


 言われるまま口を開けると飴玉のような物を投げ入れられた。

 見た目は完全に飴玉。しかし、舐めても甘い訳ではなく舌の上で転がしているとすぐに溶けてなくなってしまった。


「……っ!」


 それよりも強烈な刺激が気になる。

 貫くような刺激に頭が襲われる。ただし、殴られたような痛みではなく、カキ氷を一気に食べた時のような痛みに襲われる。


「わたしが開発した意識覚醒剤です。目は覚めましたか?」

「ああ……」


 嫌というほど覚めてしまった。

 同時に眠りかけていた意識を覚まさせる為だけに劇薬を与えて来たレイを恨んでしまった。


「たしかに手段は酷かったかもしれないですけど、騒ぎが起こっている状態で最も頼りになる人が眠っていたせいで手遅れになってしまったなんて事態にする訳にはいかなかったんです」

「分かっているよ……」


 レイが自分や仲間を思って行動に出たことは分かっている。

 ただし、自分だけがこんな目に遭っているなんて納得いかない。


「何があったんですか……?」


 部屋の中から出て来ようとしていたマコトを捕まえる。

 そのままレイから一粒貰って飲ませるとあまりの刺激に床をのたうち回っていた。


「僕は今のを見ていただけで目を覚ましました」

「つまらないな」


 覚醒薬を拒否するショウ。


「で、何が起こったのか分かっている人?」


 ふるふると全員が首を横に振る。

 こうなると分かっている人から話を聞くしかない。


「俺たちは冒険者ギルドへ行ってくる。何があってもいいようにお前らも着替えておいた方がいいぞ」

「はい。すぐに行きます」


 男はすぐに着替えが終わったので冒険者ギルドへ向かう。

 ギルドに用事、と言うよりもギルドには打ち上げの後も報告や打ち合わせの為にミラベルさんが残っているのを覚えていたため向かっている。


 だが、冒険者ギルドへ向かう必要は宿を出てすぐになくなった。


 ギルドのある方向からミラベルさんが走って来た。

 彼女の後ろには冒険者ギルドの制服を着た職員もいる。


「どうしました?」

「……協力を仰ぎたいの」


 走って来たミラベルさんはよほど急いでいたのか息を切らせていた。


「何があったんですか? それが分からないと協力もできませんよ」

「東と西にある都市と戦闘状態にあったはずの獣人の軍隊が同時に北の都市であるフォーラントへ攻めて来たわ」

「へ……?」


 東の都市――ワンダーデール。

 西の都市――トゥーリア。


 宣戦布告が行われたばかりで小規模な衝突があるばかりでお互いに軍隊を睨み合わせたままだと聞いていた。

 現に軍を3つに分けて防衛に1つだけを残した少ない戦力だからこそ集落ではあそこまで派手に暴れることができたとも言える。前線力が揃っていた場合にはもう少し面倒な状況になっていたのは間違いない。


「北へ来た理由は?」

「……分からないわ」


 おそらく、俺たちが原因だ。

 本来なら昼には集落へ来ているはずの俺たちが来ない。しかも、向こうは占い婆のおかげで北から来ることが分かっている。

 本来の歴史とは違う未来を歩み始めたことで大胆な行動に出させてしまった。


「で、俺たちに何をして欲しいんですか?」

「フォーラントにも軍隊はいるわ。けど、今は急な襲撃で準備ができていないわ。おまけに今が夜だというのも問題。獣人たちは基本的に森で戦闘を行うんだけど、夜の森で戦闘を行うのは人間側にとって自殺行為と言っていいわ」


 獣の特性を得ている獣人。

 中には夜目を持つ獣の特性を持っている者もいるため夜は圧倒的に獣人側が有利になる。


「こんな事を『勇者』であるあなたたちに頼むのは間違っているのかもしれないけど、アタシたちを救ってくれないかしら」

「……」


 『勇者』は世界を救う存在。

 救う対象は人間も獣人も関係なく等しく救わなければならない。

 だから人間と獣人が争っている状況でどちらかに肩入れするようなことがあってはならない。


 そういう不文律のルールが存在する。

 そのルールは初めて『勇者』が召喚された時から変わらない。


「いいですよ」

「本当に?」


 だが、そんなルールは俺たちには関係ない。

 あくまでも、この世界の人間が勝手に定めたルールだ。


「世界が一致団結して魔王という脅威に対抗しなければならない状況なのに自分たちの利益を追求して宣戦布告。そんな事をするような奴は助ける価値もないし、俺たちがいる状況で襲ってきたのなら自分の身に降りかかる火の粉を振り払う意味でも迎撃して構いませんよね」

「え、ええ……」


 あくまでも滞在中に襲われたため迎撃した、というスタンスで行く。


「獣人たちは街の南側で一旦合流した後で街へ攻め入るつもりなのか本格的に攻めて来るつもりはないみたいよ」


 なら、南へ真っ直ぐ突っ切るのがいいだろう。

 こちらから攻め入る前に報酬について決めなければならない。


「報酬なんですけど」

「金貨で用意すればいいかしら? 正直言って危険な事をさせている自覚はあるし、異世界から来たあなたたちをこんな事に巻き込んでしまっている罪悪感はある。だから、いくら払えばいいのか分からないんだけど……」

「お金ではありませんよ」


 集落にはおそらく強力な魔法道具がある。

 過去へ跳ぶ前に回収しなかったことが本気で悔やまれる。


「森の中心にある集落まで行ったら略奪します。もちろん食糧や人命を奪うような真似はしませんよ。ただ、世界を救う為に役立ちそうな物があったら、その許可をフォーラントの領主として出して下さい」

「……さすがにその判断は私の一存では下せないわ」


 略奪行為は許されることではない。

 たとえ相手に非のある戦争で相手を打ち負かしたとしても略奪のような行為を働けば非難されることになる。


 領主の許可を得る。

 つまり、略奪行為による非難もアナスタシアさんに背負ってもらう。


「……分かった。お婆様はアタシが必ず説得するわ」

「ミラベルさん!?」

「これが最もフォーラントを救える手段よ」


 声を荒げたギルド職員を一喝する。

 どれだけの戦力が最終的に集められるのか分からないが、2つの都市が苦戦させられていた戦力を相手に1つの都市の戦力だけで長期間耐え続けるのは難しい。

 ここは少数戦力によって電撃的に事を片付けてしまった方がいい。


「ただし、アタシも同行させてもらうわ」


 俺たちの戦いを全く見ていないことになったミラベルさんにとっては俺たちの実力を確かめられる貴重な機会。

 せっかくなので同行しようという腹積もりらしい。


「その代わり、自分の身は自分で守って下さいね」

「もちろんよ」


 ミラベルさんは高ランク冒険者。それに魔族には敵わないものの武闘大会で上位陣に食い込めるほどの実力者。

 自分の身ぐらいは守れるだろう。


「じゃあ、他の皆が来たら集落へ向かいますね」

「ええ、頼むわ」


 レイたち女性陣も着替えを終えて外に出て来た。

 これで、こちらの準備は万端。


「さあ、大義名分は得られたんだ。大手を振って利用されかけた時の恨みを晴らしてやるよ」


色々と理由を付けていますが報復が最大の目的です。

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