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第17話 打ち上げ

「おっと……」


 思わずよろめいてしまった体。

 何度も体験した過去への跳躍だが、未だに完全に慣れるようなことはなかった。


 ――バタッ!


 音がする。見ればレイが頭を抑えながら床に座り込んでいた。

 レイだけでなく、他の者も座り込んでいたり、辛そうにしていたりする。


「な、何?」


 唯一、平気なのはミラベルさんだけだ。

 彼女だけは、俺たちが過去へ戻れる事を教える訳にはいかなかったので過去へ連れて来るようなことはしなかった。


「全員、無事だな」

「はい。少し気分が悪いですけど大丈夫です」

「あんた……いつも、こんな眩暈に耐えていたの?」


 たしかに辛い。

 けど、何度も体験したおかげで慣れた。


「ここは、垂直離着陸機に乗り込んだ直後ぐらいでしょうか?」

「そう。目的地を変更するなら今が最適だろ」


 森の前にある平野に収納から出した垂直離着陸機に乗り込んだ直後。

 つまり、森へ向かう前。


「約束通り、全てをなかったことにさせてもらった」

「でも、コレって約束を破ったことにならない?」

「問題ないだろ。ちゃんと元通りにしてやったんだから」


 約束は守ったことには違いない。


 とにかく森へ行く必要はなくなったのだから移動用の乗り物に乗っている必要もない。


 垂直離着陸機を収納してフォーラントへ戻る。

 フォーラントは獣人との戦闘が迫っているはずにも関わらず賑わっていた。北側は俺たちが来ることが分かっている為に敢えて戦力を配備させていない。そのため戦争の気配が他の都市と比べて小さいのが原因だ。


 レストランへと入るとメニューを見る。

 肉体的には朝食を済ませてから時間がそれほど経っていないはずなのだが、森の中を全力疾走したり、『世界樹』と戦闘をしたりしたせいで精神的には空腹感を覚えていた。


 午前中なのだが、こってりとした肉を注文する。

 仲間も似たような感じだ。

 ミラベルさんだけは一緒にレストランまで付いて来たのだが、何も注文する気がないようだ。


「ここ、フォーラントでも高価な店よ」

「金なら贅沢をしても使い切れないほど持っているので会計の心配はしなくても大丈夫ですよ。これからの事を考えれば大変なはずですから、普段は食べられないって言うなら奢りますよ」


 ミラベルさんの任務は俺に同行して強さの理由を探ること。

 ところが、過去へ跳んでしまったので何も見られずに終わってしまった。

 これからミラベルさんに命令を下した人――領主のアナスタシアさんからネチネチと言われてしまうことになることが予想できるので多少は優しくしようと思う。


 料理が運ばれて来るのを待っているとシェフがワインの入ったグラスを持って来た。


「ええと、注文していないんですけど……」

「何かいい事があったんだろ。そういう時は酒を飲んで騒ぐのがいいよ」


 シェフに対して何かを言った訳ではない。

 しかし、具体的な事を言っていた訳ではないにも関わらず、俺たちの間に流れる雰囲気からめでたい事があったと察してくれた。


 グラスを持つ。

 年齢を考えれば酒を飲む訳にはいかないが、ここは異世界。飲酒に関して具体的な年齢規定がある訳ではないが、ポラリスにおいては15歳になると成人と見做されるようになる。つまり、高校生も成人扱いされている。


「ま、今日ぐらいは飲んでもいいだろ」

『賛成』


 誰も反対しなかったので朝から酒を飲む。

 ようやく帰る為の明確な目的地が決まったのだから嬉しくなってしまうのも仕方ない。


『乾杯』


 グイグイとワインを呑み込む。

 初めての酒は辛さに似た味がしており、あまり美味しいとは思えなかった。

 すぐにワインを離れた場所に置いてしまう。


「美味しいですね」


 レイが笑顔になって流し込むようにワインを口へ運んでいる。

 顔を見れば酔っているのは間違いない。しかし、酒が美味しいせいか飲むのを止められずにいる。


「これで帰る為の方法は決まった訳だ」

「魔王城へ行って魔王を倒す。そして、地下にある『楽園への門』を使わせてもらう。それで、元の世界へ帰れるのね」

「一つ訂正するなら俺たちが魔王まで倒す必要はないだろ」


 ハルナの言葉を訂正する。

 魔王との戦闘は避けて真っ直ぐに地下まで向かえばいい。

 とはいえ、魔王も自分の城に侵入してきた相手をすんなりと通してくれるとは限らない。


「魔王城の侵入は1回限りになる。万が一、魔王と戦闘になった場合に備えて戦力は整えておいた方がいいだろ。魔王城へ忍び込むんだとしたら準備を万端に整えてからだ」

「そうよね。いくら強くなったとはいえ、魔王を相手に犠牲を出さずに勝てるとは限らないし」


 ステーキが運ばれて来た。

 熱せられた鉄板の上に何かの肉が乗せられており、肉汁が溢れ出している。

 パクッと口の中へ運んでみる。現代の地球で使われているのと遜色ないぐらいの調味料が使われており、味に関しては考え抜かれているのが分かる。


「魔王の実力は正直言って未知数だ。だから可能な限り強くなってから挑んだ方がいいだろう」

「それと――」


 遠慮しながらユウカが手を上げる。


「できれば、メグレーズ国に残っている皆も連れて行ってあげたい」


 たしかに『楽園への扉』について知らなければ異世界に取り残されることになる。

 そんな結末は可哀想なので多少の手助けはしてあげてもいい。


「魔王城へ挑む直前になったら話をしに行く事にしよう」


 あまりに大人数で行動すると動きが鈍くなってしまう。

 多くても今ぐらいのパーティメンバーの方がいいので足手纏いについて来られるのは後回しにしよう。


「今後の方針だけど、魔王を犠牲なしに倒せるぐらい力を付けて魔王城へ乗り込む。それで、いいな?」

「特に反対はないわよ」


 後続パーティのリーダーだったアンから問題なしと言われたので今後の目標は魔王以上に強くなる、でいいだろう。


「ええと、あなたたちはこの国へ来た目的を達成した、っていうことでいいのかしら?」

「そういう認識で問題ありませんよ」


 肉料理とパスタのような麺を食べる。

 やはり、俺には酒よりも食事の方がいいみたいだ。


「あ、ミラベルさんに聞いてみたかったんですけど、この国には何か強い魔法道具があったりしませんか?」

「そうね……やっぱり、『世界樹の杖』かしら?」

「『世界樹の杖』?」

「そう。その杖を持つだけで魔法の威力を何倍にも高めてくれると言われている杖よ」


 そんな物があるとは初耳だ。


「聞いたことがないのは無理ないかもしれないわね。これは、かつて『世界樹』が人間に苦しめられている獣人を不憫に思って獣人たちの中で優秀だった者に渡したと言い伝えられている物よ」

「それは凄そうですね」

「他にも獣人たちには『世界樹』から特殊な装備が与えられているわ」


 なるほど。森全体を支配することができるような力を持っていた『世界樹』なら特殊な装備を生み出すことができるかもしれない。

 それらは総じて特殊な力を持っているものだ。


 ただ、もう獣人たちと関わり合いになるつもりはない。

 既にデメリットになるような事はないだろう。それでも一度はいいように利用されようとしていたために関わり合いになる気すら起きない。


 酒を飲んでの騒ぎは昼過ぎまで続く。

 みんな、酔っていたこともあるが、それ以上に帰る方法が明確になったことで喜び羽目を外してしまった。

 ぐっすりと眠っている者ばかりなのでショウと協力して二軒隣の宿屋にある部屋へと運ぶ。


 今日はもう移動できそうにない。

獣人編はもう少し続きます。

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