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第16話 門の在り処

 長老に詰め寄る。

 燃え盛る森、炎に包まれて朽ちて行く『世界樹』。何よりも傷付いて行く人々を見ながら長老の瞳には後悔の念が宿っていた。


 ――こんなはずではなかった。


 自分たちの輝かしい未来が訪れるはずだった。

 しかし、結果は全てを失ってしまった。


「これはどういう状況ですか?」

「あの馬鹿デカい『世界樹』が燃えている事には遠くからでも気付いていたけど、もう全部終わっていたみたいね」


 ようやくガヴァロと戦っていたマコトとユウカも合流した。

 マコトの視線の先には倒れたガヴァロがいる。将軍という地位にいた彼だが、今は誰もが助けているような場合ではないのでそのまま放置されていた。


「結構苦労したはずなんですけど片手間で倒しましたね」


 焼け焦げた跡から高圧電流を使った事を見破った。


「さて、教えてもらおうか」


 マコトとユウカも来たのならちょうどいい。

 全員で『楽園への門』の在り処を聞くべきだ。


「本当に……」

「ん?」

「本当に全てを元通りにする事ができるのか?」

「俺はお前と違って約束を守る。だから、元通りにできる事を約束しよう」


 今の状況を見れば長老には不確かでも俺の言葉に縋るしかない。

 近くに転がっていた丸太に腰掛ける。老体にはきつ過ぎる出来事が起こり続けていたので仕方ない。


「お前たちが知りたいのは『楽園への門』の在り処じゃな」

「ああ」

「あれは――魔王城の地下にある」

「……!?」


 魔王城の地下。

 そもそも異世界から勇者の力を必要としたのは魔王を討伐する為だ。

 順当に勇者として活躍した場合の最終目的地は魔王城。

 まさか、魔王城にあるとは思わなかった。


 なぜなら……


「嘘を言っている訳じゃないよな。だったら、どうして歴代の勇者たちは魔王を倒した後で『楽園への門』を使わなかった!?」


 あるかもしれない、という情報を得られただけで実際に使える事はなかった。


「ワシは『地下』にあると言った」

「地下……」

「地下と言っても魔王城のある場所から百メートル以上も下りた場所にある、と先祖から聞いている」


 百メートル以上もの地下。

 目的でもなければ行く事はないだろう。何よりも当初からの悲願だった目的を達成した直後――とても、さらに地下へ行く余裕などなかった。


「そもそも、お主たちは魔王がどのような存在なのか知っているのか?」

「知らないさ。知らないのにこの世界の奴らが勝手に巻き込んだんだろ」

「そうじゃったな」


 溜息を吐く長老。

 召喚した事に対して文句を言う資格はない。長老も自分たちの目的の為に無関係な俺たちを巻き込んだ人間。彼らの事をとやかく言えるような資格はない。


「『楽園への門』を使うつもりなら魔王について知っておく必要がある」


 自らの知っている魔王に関する情報を全て語ってくれる長老。


「この世界で魔法やスキルによって魔力を消費するときちんと使われた魔力は問題ないのじゃが、使いきれなかった魔力は瘴気へと変換されて世界へと還る。その後、大地を巡っている内に魔力へと還元されて大気へと放出されていくのじゃ」


 一箇所に瘴気が集まり過ぎると魔物が生み出される。

 人々に被害を齎す魔物だが、魔物が生まれることによって瘴気発生による災害を防いでくれている。

 その仕組みについては最初に王城で聞いた。


「じゃが、それでも間に合っていないのが現実じゃ」


 生み出し続けられた瘴気は、魔物を生み出しているだけでは消費し続けることができない。


「じゃあ、その瘴気はどこへ行ったの?」

「世界は自らの許容限界を超えると瘴気を1箇所に集めて強大な魔物――魔王を生み出す性質があるんじゃ。その周期がだいたい200年」


 ハルナの疑問に答える長老。

 王城で説明を受けた時には「世界に混沌を齎す為に定期的に現れる存在」とだけ聞いていた。

 しかし、実際には魔法やスキルの使い過ぎによる負のエネルギーの結集体。


 それが――魔王。


「一体、その事が『楽園への門』とどういう風に関係しているんだ?」

「世界中に散らばっている瘴気を集めている為に使われているのが『楽園への門』なのじゃよ」


 と言うよりも『楽園への門』へ瘴気が集められている。


「あの門は、自らの望む世界と繋げてくれる。遥かな大昔――以前に誰が使ったのか知らんが、『楽園への門』はその人物が使った時のままになっておる。そのせいで、この世界には他の世界との間に穴が空いたような状態になっているせいで漏れ出しているのじゃよ」


 穴の開いている場所へと吸い込まれて行く瘴気。

 しかし、穴の大きさは集められた瘴気が全て通れるほど大きくない。そのせいで『楽園への門』の前で固まることになる。


「そうして生まれたのが魔王なんじゃ」


 膨大な力を持った魔王は、生まれた場所から離れることなく世界各地にいる魔物を強化し、邪な欲望を持った人間に瘴気を与えて干渉することによって配下を増やして行っている。

 『楽園への門』を使いたい俺たちにとっては、まるで門番みたいな存在だ。


「なるほど。魔王城の地下にある『楽園への門』を使用する為には、それを守るつもりがないけど、真上にいる魔王の存在が邪魔」

「そういう事じゃな。お主たちは『楽園の門』を使用したいのなら召喚者たちの意向に関係なく魔王を倒す必要がある」


 長老が言うように魔王をどうにかしなければならない。

 だが、無関係の俺たちを巻き込んだ連中の思惑を達成させるのも不快だ。


「魔王をどうするのかはこれから考えればいい事ではないですか」

「そうですよ。目的地が決まっただけでもよかったじゃないですか」

「まあ、そう言うなら……」


 ショウとレイから言われて考えるのを諦める。

 どちらにしろ目的地は決まったのだから辿り着くまでに決めればいいだけの話だ。


「ワシが知っているのは先祖からこのお伽噺だけじゃ」

「ええ、情報提供には感謝します」

「ならば、お主が言ったように全てを元に戻せ!」


 燃える森や『世界樹』。

 炎に包まれた『世界樹』の枝が落ちて来る。今も兵士たちが消火活動に勤しんでいるが、魔法を使ったとしても人の手で完全に消火するのは不可能だ。


「ええ、俺はそっちと違って約束は守る人間です。きちんと元通りにしてあげますよ」

「はい」


 マコトから『聖典』を受け取る。

 魔王について語るのに夢中だった長老の目を盗んで近くにいたショウに投げ渡して全員に準備をさせておいた。


 俺のレベルが魔王を倒せるほどに上昇したおかげで持っていた『聖典』の力も上昇していた。まず、過去への跳躍対象を『自分だけ』でなく『複数』に設定することができるようになった。


 過去へ記憶を飛ばす。

 その時に他の者も一緒に行けるようになった。


「その本で何ができるんじゃ?」


 さすがに聖国の宝物である『聖典』については知らなかった。

 そして、未だに俺が真面目に消火活動すると思い込んでいる。


「こいつは過去へ跳ぶことができるようになる魔法道具だ」

「それは……まさか……」


 どうやら『聖典』の存在については知っていたらしい。ただし、実物を見たことがない者には普通の本にしか見えないため、『聖典』だとは思えなかった。


「あんたが望んだように『全て』をなかったことにしてやるよ。具体的に言うと俺たちがこの森へ来たという事実を失くしてやる」

「ま、待て……そのような事をしたら!」

「『守護聖獣』は暴れたまま。『世界樹』の怒りを買った獣人たちは滅びるまで喰われ続けることになる」


 俺たちの怒りを買ったことによって凄まじい被害を受けた。しかし、それと同時に『守護聖獣』をどうにかしてもらえたのも事実。

 それがなくなる。

 また解決されたはずの問題に直面しなくてはならない。


「自分たちが抱えることになった問題くらい自分たちで解決するんだな」

という訳で最終目的地は魔王城の地下です。

結局は、魔王と戦わなければならない。

でも、魔王と戦うつもりはありません。

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