第15話 燃える世界樹
収納から次々に瓦礫を取り出して足場にしながら上空へと向かう。
50メートルほど上がったところで高層ビルを地面に突き刺して屋上に立つ。
「こうして改めてみると『世界樹』はデカいな」
「そうですね」
空を飛べるショウが隣に立つ。
雲を貫くかと思えるほど大きい『世界樹』は天頂が見えない。
未だに俺たちへ向けて『怒り』を向けて来る『世界樹』。
「その、あなたの守護者だった魔物を討伐してしまったのは申し訳ないと思う。けど、こっちは森へ来たばかりで事情なんて知らなかったんだ。その辺の事情を少しぐらいは考慮してくれてもいいんじゃないか?」
尋ねるも返って来たのは攻撃。
太い枝が鞭のように振るわれる。
「考慮する余地はなし、か」
背後に出現させた魔法陣からミサイルを発射させる。
ミサイルが枝を吹き飛ばし爆風が襲い掛かって来るものの全てが収納へと取り込まれて行く。ショウも空を飛びながら受け流している。
「どうしますか? 完全に敵対してしまっていますが、対抗策はあるんですか?」
「ない事もない……」
ただし、この武装を使った場合には今度こそ本当に森が燃え尽きる事に成り兼ねない。
考えていると5本の枝が貫こうと同時に正面から襲い掛かって来る。
ショウの方にも3本の枝が襲い掛かっている。本数から言って俺の方を脅威と見做したようだ。
「そっちの方が俺もやり易いな」
ショウなら俺が守る必要もないだろう。現に飛びながら槍を使って伸ばされた枝を斬っている。
収納から円形の刃を取り出す。
魔力を流し、手から放すと空中に浮く。
「行け――」
円形の刃――『円月輪』が回転しながら飛んで行く。
飛び回る円月輪が枝に触れると有無を言わさずに切断する。
この『円月輪』は帝国の宝物庫から頂いた魔法道具で、魔力を流すことによって刃を回転させ切断力を増し、操作も可能になっている。事前に流していた魔力の量によって回転速度と操作時間が変わる。
切断された枝が地面に落ちて行く。
「そう来たか」
落ちていた枝だったが、すぐに落下を止めて矢のようにこちらへ飛んで来る。
「悪いが、俺に遠距離攻撃は通用しない」
魔法陣を盾のように出現させる。
鋭く飛んで来た枝だったが、魔法陣と触れた瞬間に消えてしまった。どれだけ速く飛ぶ矢であろうとも『物』である内は無力だ。
「俺を傷付けるつもりなら直接ボコボコにするしかないんだよ」
こちらの声が聞こえて訳ではないのだろうが、枝が一箇所に集まるとハンマーのような形状になって太くなる。
『円月輪』の大きさは腕をよりも少し大きいぐらい。
いくら鋭くても切断する為には何往復させる必要がある。
その間に『世界樹』は攻撃をするつもりだ。
巨大になった枝が振り下ろされる。
「たしかに強力だ。当たればの話だけどな」
後ろへ大きく跳ぶ。
ここは収納から取り出した高層ビルの屋上であり、そんな場所で後ろへ跳べば自由落下が始まる。
高層ビルが『世界樹』の一撃を受け止めて盾となる。
後ろへ跳んだおかげでそのまま高層ビルを押し退けて地面を叩く。
叩かれた衝撃で集落にあった家が吹き飛んだ。家だけでなく人までもが吹き飛ばされている。ただ、幸運な事に集落を燃やす炎も一緒に吹き飛ばされている。
「獣人たちが傷付くのもおかまいなし、か」
先ほどまでは俺たち以外は傷付けないようにしていた。
しかし、今は怒りが強くなり過ぎたのか俺たちを排除することを優先させている。
「――貫け、螺旋突撃槍」
先端が回転する突撃槍を取り出す。
足元に出した瓦礫を蹴って槍を『世界樹』へ向ければ、槍が空気を斬り裂いて俺の体ごと運んでくれる。
「――突貫!」
『世界樹』の中心に大きな穴を開けて通り抜ける。
巨大な体を持つ『世界樹』にとって人が通れるほどの大きさしかない穴はほんの小さな傷でしかない。
それでも傷付けられた事には変わりがなく殺意が向けられる。
「悔しいか? けど、俺も長老の知識は必要だからこんな所で負ける訳にはいかないんだよ」
収納から新たなミサイルを取り出す。
これだけは森の中で絶対に使ってはいけない。
そんな恐怖を抱かせる物である事が『世界樹』にも直感で分かったのか枝を振り回してくる。
二つ目の魔法陣を出現させてミサイルを発射する。
爆発が枝を吹き飛ばす。
「……!?」
しかし、爆煙の向こうから何十本にも別れた枝が襲い掛かって来る。
重たい一撃を与えるよりも何本もの枝で同時に攻撃することによって確実にダメージを与えた方がいいと判断されてしまった。
その考えは正しく魔法陣は平面なので一度に展開できる数に限界がある。『世界樹』本体ほど太い枝を吹き飛ばすならミサイルぐらい破壊力のある攻撃が必要になるのだが何を出せばいいのか咄嗟に選べない。
色々と収納した弊害がここに来て出てしまった。
――ヒュルヒュル!
分かれた全ての枝を銀色の鞭が絡め取っていた。
「遅くなりました。僕の槍では枝を切断するのに時間が掛かってしまいました」
「いや、ナイスタイミングだ」
枝はショウが押さえてくれている。
その間に魔法陣から出現させた特殊なミサイル――ナパーム弾を発射する。
「燃やし尽くせ!」
狙いは俺が螺旋回転槍で開けた穴。
その内部にナパーム弾をぶち込む。
燃焼し易く、広範囲を長時間に亘って燃やすことができるナパーム弾は本当に危険だ。ベトナム戦争時には、多くの森林や村を燃やし尽くしている。ナパーム弾を回収した時、一緒に回収した資料から映像で見させてもらった。
いくら敵対したとはいえ、あんな光景をここでする訳にもいかない。
『世界樹』の中心に到達したところで爆発させる。
燃焼の速いナパーム弾による炎は『世界樹』を上下に伝って燃やし尽くす。
「お前の背が高くて助かったよ」
前後が何もない空。
そのうえで上下には高い木だったからこそ炎は横ではなく縦へと伝って行く。
これで森への被害は最小に抑えられたはずだ。
決して森を慮った訳ではなく、長老から答えが聞くことができなくなってしまうと困るからだ。
地面に着地する。
「お、おおっ……」
長老は『世界樹』が燃える光景を前にして涙を流していた。
長老だけじゃない。占い婆や他の獣人たちも似たような状態だ。
この森に住む獣人たちにとって『世界樹』は信仰の対象そのもの。それが燃えているとなれば涙を流してしまうのも仕方ない。
「これがあんたの選択の結果だ」
突き付けると長老は項垂れてしまった。
「こんなつもりではなかったんじゃ。『世界樹』の枝は膨大な魔力を秘めており、人間と戦争をするにあたって強力な武具を造ることができるようになる。どうしても必要な物だったんじゃ」
しかし、『世界樹』にとっては枝とはいえ自分の体の一部がそのように扱われるのが我慢ならなかった。
だから『守護聖獣』で脅すことにした。
けれども、戦争を考えている獣人たちは考えを改めなかった。
「そんな時、ハクの占いで『勇者』のお前さんたちが来る事を知った。『世界樹』も『勇者』ほどの供物を捧げれば怒りを鎮めてくれると判断した」
結果は、さらに怒らせることになってしまった。
「長老、あんたは『楽園への門』がどこにあるのか知っているんだろ」
「あ、ああ――」
「もしも本当に教えてくれたんなら全てを元通りにしてやってもいい」
「そんな事が……」
「不可能だと思うか? それぐらいの術は規格外の『勇者』である俺なら持っている」
目の前で広がり続ける炎を見る。
そして、俺の姿を見ると意を決した。
「分かった。『楽園への門』がある場所について教えよう」
ようやく最終目的地の判明です。
この場所については最初から決めていました。