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第13話 燃える森

 集落の中心に向かって走る。


「ええい、そいつを集落に入れるな」


 少し偉そうな獣人が十数人の兵士に指示を出していた。ガヴァロほどではないがそれなりの地位にいる者らしい。


 兵士たちが前に立ち塞がる。


「邪魔」


 羽のような形をした短剣を取り出す。

 魔力を流されたことによって短剣から風が巻き起こる。


「吹き飛ばされたくなかったら俺に近付かない事だな」

『うわぁぁぁぁ!』


 忠告はしたが使命を果たそうと槍を持って立ち塞がった兵士。

 しかし、俺が5メートルまで近付いたところで風に吹き飛ばされてしまった。


 風霊の短剣――刃の周囲に風を纏うことによって実際の刃よりも広い範囲を斬り裂くことができる短剣。その延長範囲は通常なら数センチ程度が限界。ところが、限界を超えた魔力量を持つ俺が使用すれば嵐のような風を巻き起こすことができる。

それこそ人を吹き飛ばすことだってできる。


 吹き飛ばされた人々が地面に落ちる。一応、手加減はしていたから体を強く打ち付けているけど、生きてはいられるはずだ。

 彼らは状況が分からず命令に従っているだけなので手加減をした。


「ひっ!」


 残ったのは隊長らしき人物のみ。

 隊長が剣を振り上げながら斬り掛かって来る。


「眠ってな」


 風に吹き飛ばされて家に叩き付けられると隊長も地面に倒れて気絶する。


「怒っていますね」

「当り前だ」


 静かにレイの言葉に頷く。

 長老からの依頼を終えて戻って来てみれば将軍が待ち構えていただけでなく、村の中では完全防衛体制で兵士が待ち構えていた。

 明らかに最初から準備がされていた。


「明確な裏切り行為だ。事と次第によっては……」

「どうすると言うんじゃ?」


 再度展開して立ち塞がった兵士。

 その向こうから長老と占い婆が姿を現した。

 いくら数を揃えて兵士たちに相手をさせたところで意味がないと分かったのだろう。俺を止める為には自分が出て行くしかないとも。


「こちらの要求は一つだ。約束通り『楽園への門』の在り処を教えて貰おう」

「ほほっ、断る」

「約束を破るのか?」

「約束……? はて、何の事やら」

「なっ……!」


 長老の惚けた言葉にアンが言葉を失っている。

 あの時、長老の屋敷に居た者ならば誰もが約束をした事を覚えている。しかし、あの場に居たのは俺たちと長老、そして占い婆しかいない。

 つまり――第三者がいない。


「そうか。俺たちを働かせるだけのつもりだったのか」

「ふむ。何をしたのか知らないが『世界樹』が非常に怒っておる。大方、魔物と勘違いして『守護聖獣』を傷付けてしまったのじゃろう。こうして無事なところを見ると倒せたのじゃろう。『守護聖獣』を倒せるほどの力を持っておるとは予想外じゃった。そんなお主たちに自由行動を許したワシの失態じゃ」


 長老としては俺たちが『守護聖獣』に負けることや『世界樹』に対処ができなくては倒される事を期待していた。


 『守護聖獣』に負ければ勇者の魔力を喰らったことで満足して獣人たちの生息域から離れて行く。


 『世界樹』に対処できなかった場合でも勇者の魔力を喰らったことによって更なる力を手に入れることができるようになる。

 獣人たちは『世界樹』を使って何かをしていた。『世界樹』の成長は何らかの利点があるのだろう。


「そうなんですよ。今も誰かの頼みで魔物を倒してしまったせいで『世界樹』から狙われて困っているんです」


 人垣を縫うようにして枝が襲い掛かって来る。

 あくまでも狙いは俺たちだけで獣人たちに襲い掛かる気はない。『世界樹』としては自分を傷付けた存在に攻撃しているだけなのだろうが、何も事情を知らなかった身としてはたまったものではない。


 枝へ銃に似た筒を向ける。


「だから自衛させてもらいますね」


 引き金を引く。


 ――ゴオオォォォォ!


 筒から発射された炎が枝を焼き尽くす。

 左からも枝が襲い掛かって来た。


「しつけぇな」


 筒を左へ向ける。

 炎を浴びて枝が逃げるように下がって行く。


 次の瞬間、獣人たちの叫び声が聞こえて来た。


「大変だ! 家に燃え移ったぞ」

「誰か、火を消すのを手伝ってくれ!」

「水魔法が得意な奴はどこへ行った!?」


 瞬く間に家が燃えていた。

 森の中に造られた建物は基本的に木造で、周囲には燃えやすい葉が大量にある。


「悪いな。この筒は火炎放射器と繋がっていて口から火を放つことができるんだ」


 こんな森の中で火炎放射器など使えば無事では済まされない。

 あっという間に燃え広がってしまう。


「む……」


 こちらを警戒している枝を発見。


「まだ諦めていないみたいだな」


 引き金を引いて炎を発射。

 枝はすぐに逃げて行く。


『ぎゃあああぁぁぁぁぁ!』


 次々と上がる悲鳴。

 30メートル先にいる枝を焼き払う為に炎を噴射した。

 家の壁に隠れるようにしていたため周囲にあった建物に火が移ってしまっている。


「や、止めろ……!」

「止めろ? こっちは襲われているから自衛しているだけなんだよ」


 襲わなければ返り討ちにするような事もない。

 そして、巻き込まれて集落が消滅するような事態にもならない。


「これ以上、攻撃してくるようなら……『世界樹』も破壊してしまうか」

「……ッ!? このままにはしておけん! 全員、なんとしてでも奴らを止めるんじゃ!」


 怯えながらも武器を向けて来る兵士たち。

 兵士の中の一人が槍を構えながら突進してくる。


「そっちを選ぶのか」


 今からでも『楽園への門』の在り処について言うのなら何もせずに帰るという選択肢もあった。

 だが、彼らが選んだのは“敵対”。


 左手にグローブを嵌めて突進して来た兵士に向ける。


「ぐっ……」


 兵士が小さく呻く。

 そのまま持ち上げられたように徐々に体が浮かんで行く。

 持ち上げられた、というのは間違っていない。俺が嵌めたグローブは『不可視の魔手』という名前の魔法道具で手の先から見えない腕を1本生やして自在に伸ばすことができるようになる。


 今は、左手を伸ばして兵士の首を掴むと持ち上げていた。


「こいつの命が大事なら全員近付くな」

「……」


 獣人たちはこれまで協力して生きていた。

 特に魔物と戦わなければならない兵士たちは協調性が強くて窮地に立たされている仲間を見捨てるような真似ができるはずがなかった。


「ええい、何をしておる!?」


 しかし、長老はそうではなかったらしく拘束されている兵士を無視してでも襲い掛かるように指示を出していた。

 人数がいたところで俺たちが不利になるような事はない。


「埒が明かないな」


 長老から『楽園への門』の在り処を聞き出す為には心を折る必要がある。


「お前ら、少し息を止めていろ」

「何をするつもり?」

「大丈夫。ちょっと臭いがキツくて、酸素が薄くなる物を取り出すだから」

「え……」


 【収納魔法】の魔法陣を前後と左右に4つ出現させる。

 出現場所は100メートル先。ある程度は離れた場所でなければこちらまで巻き込まれる可能性がある為だ。


「ドバドバ♪」


 魔法陣から真っ黒な液体が洪水のように流れ出してくる。

 黒い液体は瞬く間に集落を呑み込んでしまう。


「何だ、この臭いは……!?」


 鼻を突くような臭いに長老が鼻を押さえながら顔を顰める。

 これまでには嗅いだことのない臭い。

 しかし、レイたちには慣れ親しんだ臭いだった。


「まさか……!」

「そ、ガソリン」


 右手の中にレッドドラゴンから奪った火をボッと灯す。

 それを黒い液体の中に放り込めば瞬く間に火が燃え広がって行った。


本気で森林火災など気にせず戦います。

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