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第10話 枝の襲撃

 何本もの枝が触手のように迫って来る。


「全員、固まれ」

「え、何……?」


 8人でミラベルさんを中心に円陣を組む。

 何かしらの脅威によって危機的状況に追い込まれた場合には彼女を守る為に円陣を組む事を事前に決めていた。


「どうするの?」

「明らかに『世界樹』が敵に回っています」


 ハルナとレイからの疑問。


「そうだよな……」


 森がこのようになる前に聞いた不気味な悲鳴。

 あの悲鳴は森の中心から聞こえて来たような気がする。

 気がする、というのは実際に音として伝わって来たのではなく、頭の中に直接響いて来たからだ。


 悲しみの後は怒り。

 強い憎しみがこちらへ向けられているのが分かる。


 枝が先端を鋭くして槍のように攻撃してくる。

 ユウカの魔法で作り出した岩が枝を弾く。


「そう言えば言い伝えで聞いた事があるわ」

「何を……?」


 ミツキがショットガンで枝を吹き飛ばす。

 跡形もなく消滅する枝だったが、森にとっては枝の1本や2本の消滅は大した損失にはならない。


「森の中心にある『世界樹』は絶対に傷付けてはならない」


 過去、何度も森を開拓しようと考えた事があった。

 ところが、森の入口付近を開拓するのはいいのだが、奥の方を開拓しようとすると必ず魔物の襲撃に遭ってしまう。

 そのため、森の開拓はできずにいた。


「でも、獣人たちは森の中で生活していますよ」


 2丁拳銃から瓦礫を次々と出して壁にしながら枝の襲撃を防ぐ。


「獣人たちは森を利用する形で生活しているわ。だから、魔物に襲われるような事もない」


 木を伐採する訳にはいかないから偶然にも開けていた場所を利用して集落を作り農業を営むようになった。木が必要になった場合には、フォレスタニア王国以外の場所と比べて大きな木から落ちた枝を利用して生活すればいい。

 そうやって『世界樹』の怒りを避けていた。


 ――怒りを避ける?


 そもそも、どうして俺たちは『世界樹』から怒りを向けられているんだ?


「アレか!」


 先ほど倒した魔物。

 魔物は頻りに自分は「守護聖獣だ」と言っていた。


 『何』を『守護』する聖獣なのか?


 この森にいるのならば決まっている。

 『世界樹』を『守護』する魔物が『守護聖獣』だ。


「チッ、嵌められた」


 あの魔物は何に対して怒っていた?


 ――はっはっはっ、あいつらは自分たちが何をしたのか理解していないらしい。多少の反省をすれば考慮してやったものを……


 おそらく獣人が『世界樹』を傷付けたから制裁のつもりで『守護聖獣』は獣人を襲っていたのだろう。

 そして、自らの代行者として動いていた『守護聖獣』を倒してしまった。


「それは『世界樹』が怒るのも仕方ないか」


 獣人たちは守護聖獣の事情を知らなかったのかもしれない。

 だが、こんな状況になっては対処する必要がある。


「違うな。そもそも『世界樹』の事情に俺たちが付き合う必要はないんだよな」


 収納から真っ赤な金属製の筒――消火器を取り出す。


 ――プシュ~~~~~


 消火器を振り回しながら中身の消火剤を振り撒く。

 振り撒かれた消火剤を受けた枝が白い煙から逃れるように無秩序に暴れ回りながら離れて行く。


 50メートルほど離れた場所でこちらを警戒したまま動きを止める。


「なるほど。枝の1本や2本を吹き飛ばされる程度なら気にしないけど、消火剤みたいな毒物には近付きたくないのか」


 まるで生きているのかのよう……いや、植物なのだから生きているという表現は間違っていない。けれども、枝を動物の腕のように振り回しているせいか思考までもが生物寄りになっている。


 未知を恐れる。

 消火剤そのものには植物を枯らせるような力はないが、白い煙は恐怖を抱かせるには十分な効果があった。


「そういう事ならわたしの出番ですね」


 レイが収納から取り出した薬液の入った試験管を何本も森の奥に向かって投げ付ける。


 試験管を投げられた『世界樹』が物理的な攻撃だと判断して試験管を叩き落とす。

 枝に叩かれた瞬間、試験管が粉々に砕ける。枝に叩かれてもギリギリ無事だった試験管も地面に落ちた瞬間に割れてしまう。


 それでいい。

 試験管が割れたことによって中の液体が漏れ、空気と触れた瞬間に拡散される仕組みになっている。


 中に入っているのは劇薬。

 ただし、植物にとっては……という注釈が付く。


 ――ギィヤアアアァァ!


 直後、『世界樹』の悲鳴が森の中に響き渡る。

 劇薬となった空気に触れた瞬間、枝があっという間にボロボロになって崩れ去ってしまった。

 一瞬にして枯れた。


「特製の除草剤です」


 植物にとって枯らされることは何よりも苦痛な事だ。

 『世界樹』の悲鳴からは恐怖や怯え、そして怒りが感じられる。


「怒ったんですか? ですが、事情を知らなかったとはいえ敵意を向け続けているのはそちらですよ」


 除草剤を次々とミサイルのように森の奥へと投げる。

 試験管を割ってはいけない。

 学習した『世界樹』は枝を使って試験を叩き落とすのではなく、試験管を優しく受け止めて包み込むようにすると割らないようにキャッチする。


「残念です」


 安心していたのも束の間掴まれていた試験管が一斉に破裂する。

 試験管の中から漏れ出した除草剤を受けて枝が一気に崩壊する。


「学習するのはこちらも同じです」


 今のようにせっかく強力な毒物を生成しても相手に浴びせることができなければ意味がない。

 そういう時に備えてレイが考えた方法が自分の手から離れて一定時間が経過すると自動的に試験管そのものが破裂する仕組みだった。正確には試験管に空気と一定時間触れると小規模な爆発を起こす仕掛けだ。爆発は非常に小規模だ。それでも試験管を割る程度の威力ならある。


「いつの間に除草剤なんて作ったんだ?」

「次の目的地が森と聞いていたから植物タイプの魔物と戦う時に備えて準備しておいたんです。まさか、『世界樹』を相手に使用することになるとは思っていませんでしたけど」


 気付けば新たな薬を量産しているレイ。

 素材さえあれば植物を一瞬で枯らしてしまえる除草剤まで作り出せてしまうのだから、とてもハズレスキルとは思えない。


「そういう事なら」


 俺も地球から持参した除草剤の入ったボンベをばら撒く。

 枝が猛スピードで近付いて来て慎重にボンベを受け止める。そのまま今度はどこか遠くへ放り投げようとしている。


 自分の傍で毒が散布されなければいいと学習したようだ。


「悪いけど、俺はレイみたいな仕掛けはしていないんだよ」


 拳銃から銃弾を放ってボンベを破壊する。

 ボンベから溢れ出した除草剤が木を枯らして行く。


「なんだか凄い色なんですけど」

「黄色いガスとか大丈夫なの?」


 ボンベから溢れ出して来たのは黄色いガス。

 どうにも見た目的に信用できない。

 そんなガスを見てアンとハルナが不安になっている。


「俺だって中身がこんな物だとは知らなかったんだよ」


 なにせ軍事施設にあった超強力な除草剤。

 それを適当に放っただけだ。


 改めてボンベを取り出して確認してみる。


「やべ……」

「ちょっとドクロマークが付いているじゃない」


 明らかに劇薬だ。

 レイの作った除草剤は人体には影響がないように作られている。ところが、俺が使った除草剤は少量なら問題ないみたいだが、大量に吸い込んでしまうと後遺症を残してしまうほど危険な代物だった。


 どうやら使う為に軍事施設で保管していたのではなく、徴収した劇薬を保管していただけみたいだ。


「どうするの?」

「まあ、問題はない」


 【収納魔法】の魔法陣を出現させる。

 魔法陣が周囲に漂っていた除草剤を取り込んでいく。

 後にはレイの投げた除草剤だけが残される。


 ……自分たちにとっては害となる毒物だけを完全に無効化してしまうとは完全なチート能力だ。


 激痛に耐えられなくなった枝が後ろへと下がって行く。

 しばらくは大丈夫そうだ。


 静かになる森。

 しかし、根本的な解決をした訳ではないので何らかの手を打つ必要がある。


「まずは逃げるぞ」

「どこへ?」

「獣人たちのところだ。森の中で生きて来た彼らなら『世界樹』への対抗策を何か知っているかもしれない」

「なるほど」


 目的地は決まった。


 俺とマコトが先頭に立って駆ける。

 空にはショウに浮かび周囲の警戒。同時にミツキを抱えて移動してもらい砲台の役割をしてもらう。


 後は臨機応変に集落を目指すだけだ。


「走れ!」


 襲い掛かって来る枝を吹き飛ばしながら進む。

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