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第9話 守護聖獣―後―

 金色の体毛へと変化した魔物。

 その姿が一瞬にして消える……消えたように思えるほど速く動いただけだ。


「――加速」


 すぐに『加速』能力を発動させる。

 知覚能力が何倍にも引き上げられたことで世界の流れがゆっくりになる。


 魔物を探す。


「いた!」


 最も近くにいたハルナへと突進しようとしていた。

 世界がゆっくりになっているせいで分かり難いが時速100キロ以上の速度。ただの突進であってもトラックに撥ね飛ばされる以上の威力がある。


 魔物を睨み付けながら駆け出す。

 その瞬間、驚いた表情の魔物がグルンとこちらへ首を向ける。


『貴様、なぜ動ける!?』

「それはこちらのセリフだ」


 標的をハルナから俺へ変えられた。

 それでいい。全く反応すらできていないハルナよりも俺に攻撃をしてくれた方がいい。


 魔物が突進してくる。

 左手に聖剣を持ってタイミングを合わせて魔物の顔を殴る。

 殴られた魔物が地面を転がって離れて行く。


 もう加速している必要はないだろう。


「あ、あれ……?」

「……加速しましたね」


 直前にいなかったはずの俺がいる。

 魔物の位置が全く違う場所にいる。

 傍にいるハルナが訳の分からない状況にオロオロしている。


 対してショウは俺が加速した事に気付いたらしい。


「さすがにあんなに速く動かれると俺以外には対処が難しいだろうな」


 聖剣を手に倒れている魔物に近付く。


『どういう事だ……?』

「まだ現実が受け止められないのか」

『あり得ぬ。今のワシは「世界樹」より力を得ている。それが、あのような人間を相手に負けるだと……!』


 先ほど魔物の体に『世界樹』の根が突き刺さっていた。

 その時に『世界樹』から力を手にしていたらしく、強化されていたらしい。それが魔物の絶対的な自信に繋がっていた。


『「世界樹」より力を与えられたワシはそれまでの何倍も速く動くことができ、攻撃力は頑丈な森の木々すら薙ぎ倒せるのじゃ』

「この木か」


 外から見ていた時もそうだったが頑丈な木だ。

 試しに軽く叩いてみると固い音が返って来る。


「ふん」


 少し力を込めてみると木が粉々に砕け散った。


『ど、どういうことじゃ……この森の木はどれもが「世界樹」の加護を受けておるから簡単に壊せるはずがない!』

「そうなんですか?」


 離れた場所で見ていたフォレスタニア王国出身のミラベルさんに尋ねてみる。


「間違いないわ。この森の木は1本切るだけでも何人もの男たちが集まって特殊な刃物を手にして切る必要があるの。今みたいに素手で砕くなんて考えられないわ」

「なるほど」


 木を伐採して作られた集落だったが、森の特殊性を考えればかなり苦労したことが伺える。


「ま、『身体能力強化』の聖剣を手にした俺には関係のない話だな」


 刃渡り2メートルの大剣。

 本来は大剣で全てを叩き伏せる為に必要な膂力を使用者に与える為の聖剣。

 しかし、強化される前のステータスで大剣を振り回すことが可能なので聖剣は完全に鈍器と化していた。


「それにしても、そんな強化が可能ならどうして最初から強化した状態で戦わなかったんだ?」

『ワシらは「世界樹」を守護する存在。そのような者が守護する対象から易々と力を与えてもらう訳にはいかんのじゃ。故に緊急時でもなければこのように力を借り受けるような真似はせん』


 守護聖獣を名乗る存在らしく誇りがあるらしい。

 もしかしたら、力を与える事に対して『世界樹』にとって何らかのデメリットが存在しているのかもしれない。それなら簡単にできない事にも納得できる。


『じゃが、この姿になった以上は必ずお主たちを倒してみせよう』

「やってみな」


 駆ける魔物が木をバネのように利用して跳ぶ。

 直後、体を丸めて回転させる。

 聖剣をバットのように持って迎え撃つ。


 ――重っ!


『ハハッ、その程度の攻撃ではワシを止められせんぞ』

「やってやるさ」


 腕に力を込めて押し込む。


 ――ピキピキ!


「チッ……!」


 思わず舌打ちして聖剣から手を放す。

 同時に横へ跳ぶと聖剣が粉々に砕けてしまった。


『……! これがワシの力じゃ!』


 丸めた体のまま地面を転がりながら言っている。

 当然の事のように言っているが予想外の事態に驚いている。


「複製するのけっこう大変なんだぞ……」


 聖剣では力不足だという事が分かった。


「もう一度来い。次は確実に圧し潰してやる」

『ほざけ!』


 転がる魔物が迫る。

 右腕を上へ掲げると魔法陣を上空に描いて収納からある物を取り出す。


『ぐふっ!』


 圧し潰された魔物が動きを止めてペシャンコになる。


『な、何なのじゃこれは……』

「ロードローラーだよ」


 もっとも名前を教えたところで魔物には分からないだろう。


 とりあえずデカくて硬い物で収納から選んだところちょうどいい物が見つかったので取り出してみた。

 いやぁ、上から叩き付けるならロードローラーに限るな。


「え、いつの間にこんな物を持って来ていたの?」

「工事業者の車庫に忍び込んだ時に色々と拝借して来たんだよ。他にもクレーン車とかミキサー車とかがあるけど見るか?」

「いや、いい」


 さすがにこんな場所で出す物ではないと分かっているアンが首を振る。

 魔物はロードローラーに圧し潰されて動けないでいる。さすがに不安定な体勢で上から総重量10トン以上の乗り物に圧し付けられては膂力の強化された魔物でも脱出は容易ではない。


『このような物……!』


 どうにか押し退けようとしている。

 このまま時間を掛ければ脱出が叶いそうだ。


 ……もっとも猶予を与えるつもりはない。


「魔石をもらおうか」

『何をするつもりじゃ』


 魔石は基本的に魔物の心臓にある。

 背中から腕を突っ込むと心臓があるべき場所へと手を伸ばす。


 ……あった。見えないがたしかに気配を感じる。


『や、止めるのじゃ。守護聖獣たるワシに危害を加えれば「世界樹」が絶対に黙っていないぞ』

「そんな事は知らない――収納(ストレージ)!」


 魔石が収納に入る。

 かなり高いステータスを持っていたらしく強化された。いくつかのスキルも手に入ったが、獣に近しい体をしていた魔物だったからこそ使えるようなスキルばかりだ。


 とにかく、これで依頼は完了だ。


「後は長老から『楽園への門』がある場所を教えて貰えばいいだけだな」

「これで帰れるようになる為に1歩近付いたんですね」

「ああ。話を聞いた感じだともう少し苦労するような感じだったけど、概ねそんな感じで間違いはないかと――」


 ――イエエエヤアアアァァァァァァァァ!


 レイと暢気に会話をしていると森全体から不気味な悲鳴が聞こえて来た。


 どこからだ?


 咄嗟にホルスターから銃を抜き取る。

 森がざわついている。


「……こんなのフォレスタニアで永く過ごしているけど初めてだわ」


 ミラベルさんでさえ初めての出来事。

 木がガサガサと音を立てて揺れる。

 全員が1箇所に集まる。


「どういう状況なのか分かるか?」

「そう言えば魔物が最期に気になる事を言っていましたね」


 ――『世界樹』が黙っていない。


 その言葉を思い出した瞬間、背筋が凍るような感覚を覚えて発砲。

 弾丸が飛んで行った先には、こちらを狙うようにグニャグニャになった木の枝が聳えていた。

 さらに地面では木の根がウヨウヨと這い出て来た。


 森の中に強大な敵が現れたのではない。

 森そのものが敵になった。


「これが『世界樹』が敵になるっていうことかよ」


次回、世界樹VS主人公です

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