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第5話 獣人の集落

 しばらく垂直離着陸機を飛ばしていると『世界樹』の傍まで辿り着く。

 世界樹。そう呼ばれるだけの威容を誇っており、世界樹の正面にいると天頂は雲を突き抜けているのかと思わせるぐらい高く、左右も端が見えないくらいだ。


「さて、どうするか?」

「どうする? って着陸させるんじゃないの?」


 ハルナが言うようにここまで飛んで来たのだから着陸させるしかない。

 そして、眼下には獣人たちの集落と思われる場所がある。

 目的地には辿り着いたと言っていい。


「たしかに着陸させるだけのスペースもある」


 森の中は木々が鬱蒼と生い茂っていて着陸に足りるだけのスペースを確保する事ができなかった。離着陸に便利な事ばかりに目が言っていて着陸場所を確保しておく必要性を考えていなかった。

 とはいえ集落に住んでいる人たちが広場として使う為なのか何もない場所が陸上トラック並の広さであった。ここなら問題なく着陸できるだろう。


 ただし、問題が何もない訳ではない。


「物凄い形相で空を見上げている奴らがたくさんいるんだけど」


 試しにカメラを地上に向けてみると睨み付けている人たちの姿が映し出される。


「ど、どうしてですか?」

「いえ、さすがに鋼鉄よりも硬い体を持ちながら空を自由に飛び回る事ができる乗り物があるとは考えない。普通は、凶悪な魔物が出現したと考えるはずよ」


 そう、彼らは垂直離着陸機を脅威と見做して警戒していた。実際、この世界の人たちにとっては太刀打ちできない乗り物である事は間違いない。

 こんな状況で降りるのは話を聞きたいだけの俺たちにとっては好ましくない。


「とはいえ、下りない訳にもいかないじゃない」

「そうですよ。燃料だっていつまでも持つ訳じゃないんですから」


 常識的に考えればいつまでも飛び続けていられる訳がない。ミツキとユウカの言っている事は常識で考えれば間違いではない……常識なら。


「燃料なら大量に収納してあるから永遠に飛び続けていられるぞ」

「へ?」


 それでも機体そのものをメンテナンスしなければならないので永遠に飛び続けることはできない。


 けど、いつまでも上空で待機している訳にもいかない。

 ゆっくりと降下させて行く。


 垂直離着陸機の巻き起こす風が草を吹き飛ばし、取り囲むように周囲で警戒していた人々は腕を翳して顔を守っている。

 着陸すると同時に持っていた槍を突き出してくる獣人たち。


「歓迎はされないと思っていたけど、最初から警戒心MAXだな」


 たしかに機体は異様だ。

 それでも森の上空を飛んでいる時に攻撃されたのは最初の頃。獣人の足がどれだけ速かったとしても攻撃して来た獣人たちは置き去りにしているはずなので、まだ集落にまで垂直離着陸機の固さは伝わっていないはずだ。

 しかし、取り囲んでいる獣人たちは警戒しているだけで攻撃しようとして来ない。

 明らかに攻撃が無意味だと分かっている。


「こんな場所で悩んでいても仕方ないか」


 仕方なく垂直離着陸機から降りる。

 女性陣には機体の中に残ってもらっていてショウとマコトの二人を連れてだ。


「俺たちは、この世界を救う為に異世界から召喚された『勇者』の一人だ。今日はいきなりではあるが、獣人の方々に尋ねたい事があって参った。誰か『勇者』と交渉ができる者がいれば話を聞いて欲しい」


 まずは交渉役を求める。

 取り囲む人々を見ると誰も彼もが見た目は20歳ぐらいで若い。そして、頭の上に生えた獣耳や体に生えた獣の毛を確認してみると虎や熊といった強そうな獣の特性を備えている事が分かる。

 ただ、老け難い獣人の中でも本当に若いらしく武器を突き付けている姿に戸惑いが見て取れる。交渉相手としては不足だ。


「ワシが対応しよう」

「あなたは?」


 白髪の老人男性が出て来た。

 頭の上に生えている獣耳が狐である事から狐の獣人である事が伺える。


「ワシは、この集落で最長老を務めているダンベルトという者じゃ」


 最長老。どれだけ偉い役職かは分からないが、少なくとも交渉相手として不足という事にはならないだろう。

 嘘を吐いていた時にはそれなりの対応をするだけだ。


「では、あなたと交渉をさせていただきます」

「うむ」

「俺たちは、元いた世界からこの世界へと召喚されて来ました。召喚した人物からは『魔王を倒せば元の世界へ帰れる』と言われましたが、正直言って全く信用できません。もしも、方法を知っているのなら、もしくは心当たりがあるのなら教えて欲しいんです」


 ここは自分たちの事情を包み隠さず伝える。

 用件はシンプルなので下手に言い繕ってしまうと警戒心をさらに抱かせる結果に繋がり兼ねない。


「……心当たりはある」

「本当ですか!?」


 期待はしていなかった。

 だからこそ心当たりがあるという言葉に心が躍った。


「じゃが、対価に何を差し出す?」

「対価?」

「そうじゃ。情報とは貴重な物じゃ。それを何の対価もなく差し出せるはずがないじゃろう」


 たしかにダンベルトさんが言っている事には共感できる。

 対価もなく自分たちだけ要求を通そうなど間違っている。


 ……ただし、それも相手の立場による。


「こちらは世界を救うために召喚された『勇者』です。あなたたちは『世界を救う者』の協力要請を拒む、と言うつもりですか?」


 軽く殺気を出す。

 すると、殺気に耐えられなくなった俺たちを取り囲んでいた若い獣人たちが武器を構えてしまった。


「止めんか!」


 ダンベルトさんの喝が飛ぶ。


「申し訳ない。若い連中にとっては少しばかり刺激が強過ぎたようじゃ」

「いえ、問題はありませんよ」


 ちょっと試すつもりだっただけなのだが……


「やり過ぎですよ」

「そうそう。今のあなたのステータスは既に魔王を圧倒できる化け物レベルなんですから」

「そこまで言う!?」


 ショウとマコトから呆れたような視線を向けられてしまった。


「……まあ、世界を救う『勇者』として困っている事があるなら協力してあげなくもないですよ」


 条件次第では手を貸すぐらいの事はしてあげてもいい。

 もっとも人間に対して宣戦布告をするような獣人が相手だ。条件によっては手を貸すつもりもなく一気に強硬手段に出るつもりだ。


「いいでしょう。このような場所でする交渉ではありません。では、ワシの屋敷へご案内させていただきます」


 女性陣も機体から出てくる。


 最後にミラベルさんが出て来たところで俺たちを睨み付ける力が強くなった事に気が付いた。

 どうやら街の情勢に詳しい者がいるらしく、領主の孫であり警備隊にも所属しているミラベルさんについて知っている者が少なからず情報を流しているらしい。


「申し訳ない。ワシら獣人は人間から追いやられてこのような僻地で過ごすようになった経緯がある。そのため、獣人の中にはどうしても人間そのものを許容できない者がおるのじゃ」

「あまり気にしていないから構わないですよ」


 垂直離着陸機を収納する。


「……!?」


 一瞬にして巨大な乗り物が消える光景を目にして獣人たちが動揺している。


「今のは……?」

「俺のスキルです」


 それ以上、詳しい事を言うつもりはない。


「承知した」


 何も言わず先を歩く最長老の後を付いて行く。

 集落にある建物は森の中にある木を伐採して造られているらしくログハウスのような建物が多かった。この辺は森の外と森の中、フォーラントと似たような事情なのだろう。


 案内された屋敷も大きなログハウスだった。

 入口から入ってすぐの場所は広間になっており、大きな円卓が置かれている事から会議などに使われている事が伺える。


 円卓の前に座る。

 俺の対面に座った最長老が口を開く。


「あなたたちが探しているのは『楽園への門』でお間違いありませんね」


 ――見つけた。

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