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第3話 宣戦布告の影響

 フォレスタニア王国外縁部にある都市フォーラントを歩く。

 警備隊の一員であるミラベルさんが一緒という事もあって正門前に作られた行列に並ぶこともなく都市の中へ入ることができた。


 フォーラントは自然の中にいるような感覚になるログハウスのような木造の建物が並ぶ都市だった。


「フェクダレム帝国の帝都に比べたら質素なものだろ」

「いえ――」

「この街で生まれ育ったアタシでさえ田舎だって思っているんだから」


 たしかに地球の都市や異世界人の介入によって頑丈な建物が造られたこの世界の都市に見慣れてしまうと田舎に見えてしまう。


 けれども個人的にはフォーラントの方が好きだったりする。

 たしかに田舎のように自然の方が多いが、物が不足している訳でもないし、外から多くの人が訪れてくれていることもあって活気に満ち溢れている。これぐらいの方がちょうどいいぐらいだ。


「着いたよ」


 ミラベルさんに案内されたのは大きな建物。庭が広く、他の建物と違って頑丈に造られていた。特に正面にある門は金属を使って頑丈に造られており、他の建物とは明らかに違った。


「ここは騎士団の詰め所でね。アタシが所属しているのは警備隊なんだけど、今は非常事態なんで命令系統の集中化もあって警備兵もここに詰め込むようになっているんだよ」


 案内されながら騎士団の詰め所を奥へ進む。

 途中、訓練中だったり仕事中だったりする騎士から鋭い視線で睨まれていたせいで居心地が悪い。彼らにとって今は緊急事態であるからこそ異分子である俺たちの事を警戒しているのだろう。


「ちょっと待ってな」


 そう言って案内されたのは広い会議室。

 8人も案内しないといけないとあって広い部屋を用意してくれたようだ。


「さて、予定とは違ったけどどうするかな?」


 収納から缶コーラを取り出して全員に配る。

 この体に悪そうな炭酸飲料の味が辞められない。


「本来は冒険者ギルドにでも行って森に関する情報を集めるんでしたよね」

「そうだ」


 目的地が森の中心にある『世界樹』の傍である事には変わりない。

 しかし、『世界樹』に辿り着くまでの間にどのような道を辿ればいいのか、現地住民にはどのような対処をするのが正しいのか……色々と具体的な情報が欠けていた。

 そのため情報収集は必須だった。


 冒険者でもある俺たちはギルドへ行けば最低限の情報は無料で手に入るし、入手が困難な情報でも『勇者』という肩書を前面に押し出せば手に入れるのは難しくない。状況次第では金の力に頼る事にもなる。


 冒険者は魔物の素材を求めて森の中へ入っている。

 そのため大昔から蓄えられた膨大な情報が眠っている。

 その情報を頼りにさせてもらっていた。


「ま、冒険者ギルドに拘る必要はないんだけどな」


 情報を得るだけならギルドに伝手のある者を頼ってもいい。

 騎士団の中でもそれなりの地位にいる者ともなればギルドに対して伝手もあるはずだ。

 彼らは『勇者』である俺たちの頼みを断れるはずがない。


 世界を救う為に召喚された『勇者』の要請を断る。

 見方を変えれば世界の救済に協力していないようなものだ。


「待たせたな」


 コーラだけでは飽きて出したポテトチップスを片付ける頃になってミラベルさんが戻って来た。


「待たせてしまったのは事実だが、少し寛ぎ過ぎではないか?」

「こっちは街に着いたら1泊してから情報収集に努めるつもりでいたんです。それをいきなりこのような場所へ連れてこられたんですから少しはゆっくりさせて下さいよ」


 溜息を吐きながらミラベルさんが俺たちの前にある机の後ろに立つ。

 ミラベルさんが立っている場所の前に置かれた椅子に一人の女性が座る。


「初めまして。私はアナスタシア、このフォーラントの領主を務めております」


 椅子に座った女性はフォーラントの領主。

 美しい声にスラッとした長身の女性は騎士が着るような服を着こなしていた。

 外見は全体を見ればミラベルさんと同様に20代ぐらいの女性に見えなくもないのだが、細かく見ると顔の所々に細かい皺のような物が……


「うおっ!?」

「失礼。良からぬ事を考えていたような気がしたもので」


 アナスタシアさんがナイフを投げて来た。

 たしかにアナスタシアさんが実際には高齢である事を考えていたが、その程度で懐に隠していたナイフを投げてくるとは思わなかった。


「ソーゴ……」


 彼女の反応からアンは俺が何を考えていたのか予想できたらしい。


「お婆様!? 相手は『勇者』なのですから失礼のないようにお願いします」

「もう、ミラベルったら……私の事は普段通りに『領主様』と呼ばないと人様に示しが付かないわよ」

「いえ、それは『お婆様』と呼ばれたくないだけの話ではないですか」


 凄い言葉が聞こえたような気がする。


「ええと、ミラベルさんとアナスタシアさんの関係は……」

「お察しの通り、アタシは領主であるアナスタシア様の孫に当たる」

「とはいえ、私の五女が結婚した平民との間にできた三女だから領主家との繋がりはかなり薄いけどね」


 労働力が求められる異世界において結婚と出産は早く、家によっては多くの子供を残す。

 アナスタシアさんも領主家の一人として多くの子供を求められ、早くに子供を出産した。その事実を勘案したとしてもアナスタシアさんは60歳を超えている可能性がある。

 とてもじゃないが、そんな高齢には見えない。


「貴方たちが『勇者』である事はミラベルを通して知りました。そして、貴方たちが帝国だけでなくデュームル聖国やクウェイン王国でどのような事をしてきたのかも既に各国へ知らされています」


 情報共有はされている。

 なら、話は簡単に通り易い。


「私たちは密林の奥にいる獣人たちへの接触を望んでいます」

「だから、少しでも情報が必要なんです」


 ユウカとミツキが頼み込む。

 頼み事というのは女性がした方が通り易い。


「残念ながら、それは難しいでしょう」

「宣戦布告されたからですか?」


 アナスタシアさんが頷く。


「5日前、密林の奥から現れた一人の獣人が獣人たちの王――『獣王』の使者を名乗って密林の東西南北にある大都市に対して宣戦布告を行いました。要求は、自分たちへの絶対服従。当然、そのような要求が受け入れられない為に獣人との戦争へ突入する事になりました」


 北の街であるフォーラントを訪れた使者はそのまま帰って行った。

 領主を中心に対策会議がすぐに行われた。徹底抗戦の意思だけはすぐに統一させることができたが、問題になったのは獣人たちとの戦闘方法だった。

 獣人たちと戦うのならば森の中での戦闘となるが、森の中での戦闘は獣人たちの方に分がある。人間の軍隊では数で勝っていたところで森の中で獣人に勝つのは難しいとされていた。


「今、森の中へ入れば一瞬で敵と見做されて戦闘状態へと移行してしまうでしょう。森の中にいる獣人は強い。そのような場所へ勇者である貴方たちを無駄に行かせる訳にはいきません」

「そういう事ですか」


 アナスタシアさんが止める理由は理解した。

 しかし、その程度の理由では止まる理由にはならない。


「森の中は危険。なら、森の中を通らずに『世界樹』まで辿り着けばいいだけの話です」


 奥の手として考えていた方法ではあるものの本当に試す事になるとは思わなかった。問題ないはずなのだが、まだ練習段階なのでしばらくは使うつもりがなかった。


「そんな事は不可能です。森全体が獣人たちのテリトリーになっております。もちろん上空も例外ではなく、不審な物が空を飛んでいればすぐに撃ち落とされてしまうでしょう」


 森の中で普段から狩りをしている彼らにとって空を飛んでいる鳥を弓で撃ち落とすなど造作もない。

 もしも、ドローンを森の奥まで飛ばせば撃ち落とされてしまうだろう。さっき撃ち落とされなかったのは、その姿が動物と比べるとあまりに異様だったためだ。次は警戒されながらも攻撃されるだろう。


「大丈夫ですよ。弓程度では撃ち落とされない乗り物で行くつもりですから」


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