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第2話 機械的使い魔

 密林の王国フォレスタニア。

 国の中央に巨大な密林があり、密林の外側にはいくつかの都市や村が点在していて森の中でのみ得られる食料や素材を売って生活をしている。


 そんな都市の一つを訪れていた。

 森の中へ入る前に少しでも多くの情報を集める為だ。


 都市の前には長い行列ができていた。

 ちょうど混雑する時間に訪れてしまったらしく行列ができていた。


 なので、列から離れて観光に勤しむ。


「うわ~、凄い場所ですね」


 遠くに見える巨大な樹を見ながらレイが呟いた。


 俺たちの前には巨大な森が広がっている。

 端は見えない。巨大な森と聞いて大都市並みの大きさを予想していたが、これは森そのものが国レベルの大きさだと思った方がいい。


「あの巨大な樹は何かな?」


 レイと同じように巨大な樹を見ていたハルナの疑問。


「この世界にある樹木の中では最大の樹だそうです。大昔は本気で『世界を支える樹』などと信じられていたみたいです。その事から『世界樹』という名前で呼ばれています」


 物知りなユウカが教えてくれる。

 獣人が追いやられるようになった最初の魔王が現れた頃からあった樹。少なくとも樹齢は数千年という事になる。


 当時から今ぐらいの大きさを誇っていた。

 それだけの長い年月を生きて来たのなら『世界を支える樹』だと信じられてもおかしくないかもしれない。


「もっと近くで見えないかな」

「あたしたちの目的地はあそこなんだから別にいいじゃない」


 ミツキの要求に対してアンが言ったように俺たちの目的地は世界樹。

 正確には迫害された獣人が逃亡先に選んだのが世界樹の傍であり、そこに大きな都市を作った、という伝説が残されているので頼りにさせてもらった。

 ここからでは距離があり過ぎるうえに森が深くて何も見えない。


「せめて空から見下ろす事ができれば……」

「僕が行って来ますか?」


 マコトの呟きに対してショウが空を飛ぶ事を提案する。

 ショウが新たに造った兵器ならば上空から世界樹の様子を確認することも可能だ。


 しかし、いくら今いる世界がファンタジー世界とはいえ空を飛べる人間は限られている。空を飛ぶ姿を目撃された瞬間には間違いなく騒ぎになる。

 人間では大きすぎる。


「じゃあ、俺の使い魔を飛ばす事をしよう」


 役に立つ物があるので提案する。


「使い魔って……いつの間にシルバーみたいな存在を?」


 メタルスライムのシルバー。

 強くなる事を目指したスライムは、自分をより強い存在へと変化させてくれる相手を主と定め、今はショウの腕輪として大人しくしている。


 この世界で使い魔と言えば心を通わせて仲良くなった魔物の事。

 基本的に一緒に行動しているため使い魔など手に入れられるチャンスがなかったように見える。


「元の世界に戻った時に調達して来たんだ」

「いえ、それならますます使い魔など手に入るはずがないではないですか」

「そうでもないよ」


 この世界の定義に沿った使い魔を出すつもりはない。


「じゃ~ん」

「……」


 収納から出て来た物を見て全員が言葉を失っていた。

 上部に四枚のプロペラを付けた球体ボディ。


「いや、どう見てもドローンよね」


 そうとも言う。

 ドローンを起動させる。


「行け」


 ゆっくりと浮上したドローンが世界樹の方へと向かって行く。

 電波の存在しない世界だが、操作は手元のコントローラーで行う。


「なんだ。けっこう簡単じゃないか」


 ゲームのコントローラーにも似ているので問題なく動かせる。

 慣れれば自由自在に動かせるようになるだろう。


「けど、やっぱりドローンが見ている景色が見られないのは不便だな」


 そればかりは仕方ない。


「カメラとかはないの?」

「いや、搭載しているから後で回収して録画した映像を確かめよう」

「えっと……携帯みたいに電波を受信して見られる奴を手に入れなかったの?」

「そんな物を持ち込んでも意味がないだろ」


 携帯電話が使えないのと同じだ。

 電波の存在しない世界で電波を使える事が前提の物を使用しても意味がない。


「これでも偵察には十分だろ」


 リアルタイムでの確認はできないが、向かう先に何があるのか事前に知ることはできる。


 まるでラジコンを動かしているような光景。

 動かしている本人は遊んでいるような感覚になって楽しいが、見ているだけの人たちにとっては退屈な時間が続く。


「こんな物をどこで手に入れて来たんですか?」


 そうなると雑談が始まる。


「ん? ちょっと電気量販店の倉庫に忍び込んで拝借して来ただけだけど」

「え、それって盗難……」

「まさか、盗難なんかじゃないさ」

「そっか」


 盗難容疑を否定したことで安心しているアン。

 妙なところで真面目なんだよな。


「倉庫の中にあった物を片っ端から収納に入れた後で、時間を巻き戻したんだから『倉庫からドローンがなくなった』という事実もなくなっている。故に盗難ではない」

「やっぱり犯罪じゃない!」


 憤るアンの前に人差し指を立てて「チッチッチッ」と舌を鳴らす。

 馬鹿にされたような態度にアンの表情が歪む。


「格言を教えてやろう」

「格言?」

「バレなければ犯罪じゃないんだよ」


 消失したという事実がなければ訴える事もできない。

 まさに完璧な犯罪だ。


「……もういいわよ」


 どこか諦めてしまったアン。

 俺としては生活に役立つ道具が欲しかったのだが面倒臭くなってしまったので倉庫ごと回収させてもらっただけだ。


「ランタンとか懐中電灯には助けられただろ」

「そうだけど……」


 フォレスタニアに辿り着くまでの間に行った野営。

 月明かりぐらいしか頼れる光源がない状況で現代の光に溢れた夜に慣れた女性陣は不安そうにしていた。ところが、光を生み出す道具を渡したところ安心して眠ってくれていた。


「寝袋だって同じ方法で回収した物だぞ」


 現代の野宿をしているにも関わらず快適性を追求した寝袋。

 新しい寝袋のおかげでぐっすり眠ることができたと言ってくれた。


「必要だと思ったから拝借して来たのに」

「分かったから!」


 あれらを全て現金で用意しようと思ったら数十万という金が掛かる。

 むしろ金で買える物までしか見せていないので、これ以上は見せるのを躊躇ってしまう。


「そろそろ戻すか」


 数分も飛ばすと手元に戻す。


「お、映っているぞ」


 搭載していたカメラの映像を確認すると距離があり過ぎて詳しく見ることはできないが、森の中で足を止めて空を見上げる何人もの人影が写っていた。


 鳥にしては異様な姿。

 森の中で生活する人々を警戒させるには十分だったらしい。


「どうやら獣人が森の奥にいるのは間違いないらしいな」


 彼らの歩いて来た方向は森の奥。

 間違いなく映っていた人たちが獣人だろう。


「森の奥で誰かが生活しているのは間違いない」


 これで本当に誰かが生活しているのか不安に思わずに探索することができる。


「あなたたち!」


 剣呑な雰囲気の女性の声に振り向く。

 すると、そこには見覚えのある女性が立っていた。


「ミラベルさん!」


 俺たちの中では最も関わりのあったショウが近付く。


「久し振りね」

「武闘大会以来ですね」


 ミラベルさんは武闘大会の予選でショウと戦い、本選では準決勝まで勝ち進んだ実力のある冒険者だ。その後の魔族との戦いではレイがお世話になった。


「そう言えば故郷に帰るって言っていましたね」

「ええ、戻って来てから冒険者として魔物を討伐していたのよ。この森で出てくる魔物は強力だけど、あの時ほど危険じゃないわ」


 魔族との戦いは本気で命の危機を覚えたらしい。


「それで、一体何の用ですか?」


 少なくとも既知の相手に声を掛けたという雰囲気ではなかった。

 そもそも声を掛けられた時は背を向けていたので誰なのかは分からなかったはずだ。


「実は、今のアタシは国に頼まれてこの街で警備隊に臨時で所属していてね」


 実力を買われて一時的な所属を果たしたらしい。

 俺たちと会った時も気ままな冒険者の方がいいと言っていたミラベルさん。故郷とはいえ簡単に士官はしないのだろう。


「そこで奇妙な物が飛んでいる、という報告を受けて確認に来たのよ」

「それは俺の使い魔です。ご迷惑を掛けたみたいで、すみません」


 ドローンを目撃したのは森の住人だけではない。

 都市の前で並んでいる人たちも同様だ。


「問題がないならいいわ。あなたたちなら問題もないでしょう」


 俺たちが魔王軍四天王とも戦う存在である事を知っているミラベルさんはすんなりと信用してくれた。


「ただ、気を付けた方がいいのは事実だわ」

「どうしてですか?」

「森の奥に住む獣人たちが国に対して宣戦布告してきたから誰もがピリピリしているのよ」

トラブルの真っ最中ですが、お構いなしです。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ドローン 携帯回線じゃなくて無線LAN回線で一対一で通信してるから圏外でも関係なかったような……? 見えてれば回収できるからロストのリスクはそんなに無いのね
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