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第25話 召喚後の世界

 俺たちが異世界に召喚されてから約4カ月。

 元の世界でも同じように時間が流れていた場合を考えると何が起こっていてもおかしくないとは考えていた。


 けど、さすがに目の前に自分と瓜二つの人物がいるとは考えていなかった。


「……あんたは何者だ?」

「今、お前の中でいくつかの可能性が浮かんでいると思うけど、その中に正解がある」


 男は確信を持って言えた。

 それこそが正解とも言える。


「『未来の俺』なんだな?」

「正解。俺は『異世界から仲間を連れ帰って来た』お前だ」


 全ての問題を解決させたうえで元の世界への帰還を果たした。


「答えだけを言おう。お前が見つけた方法での世界移動ではお前しか移動することができない」

「魔力が足りないから、か?」

「それは、『次元の壁』を越える為に必要な方法だ。最も問題にしているのは、その手前である『次元の壁』を認識する方法だ」

「認識?」

「そうだ。次元の壁を認識する為には『空間』に対して強い適応力が必要になる」


 あの世界と世界の間にあった見えない壁のような物。

 次元の壁を認識する事ができなければ世界を越えることはできない。


「どうして俺は認識することができたんだ?」

「簡単だ。【収納魔法】を持っていたからだ」

「【収納魔法】?」


 触れた物を亜空間に収納して持ち運ぶだけのスキル。


「本来なら空間に干渉して震動を起こしたり、一瞬で遠く離れた場所へ移動したりすることができる【空間魔法】の方が空間に対する適性は高いんだけど、お前の場合は【収納魔法】のレベルを上げ過ぎた。【収納魔法】はスキルで作り出した亜空間内に物を入れておけるスキルだ。何度も使用している内にお前の空間に対する認識能力が向上していた」

「なるほど」


 たしかに【収納魔法】も【空間魔法】の一種と言えなくもない。


「ちなみにアイテムボックスで代用することは?」

「やりたければやればいい」


 答えをはぐらかされてしまった。

 しかし、それこそが答えとも言える。


 ――無理だった。


 既に可能性を模索した後なのだろう。

 しかし、俺自身が過去の自分だからこそ色々と試した事をさせない訳にもいかない。そして、下手にダメだった事を教えてしまうと怠けてしまう事を分かっている。今ならば可能性が僅かばかりに残っている。


「まあ、いい」


 『転移の宝珠』による移動は不可能だと分かった。


 しかし、方法がない訳ではない事が分かった。

 目の前に絶対的な証拠がある。


「どうやって帰って来た?」

「色々と考えて遠回りしたみたいだけど、初心に帰ってみるのが一番だぞ」

「初心?」


 そう言われて思い付くのは一つしかない。


「――楽園へ行ける魔法道具」

「それを使って元の世界への帰還を果たした」

「は?」


 正直言って途中からは存在を怪しむようになった。

 聖国でも帝国でもそれなりの情報収集をしたつもりだったが、それらしい物の陰すら掴むことができなかった。


 それに勇者の情報そのものが200年も前のものだ。

 実在していたとしても既に失われた可能性の方が高い。


 だから、それ以外の可能性を考えるようになった。

 幸い、様々な魔法道具を報酬として頂いていたので可能性を模索するのに苦労はしなかった。


「あれは実在するのか?」

「当然だ」


 当たり前のように頷く未来の俺。

 奴にとっては過去に起こった出来事であるから否定する要素など何一つない。


「そうだな。証拠を見せてやる」


 収納から『転移の宝珠』を一つ取り出す。

 左手で宝珠を持って右手で俺の手を掴む。


「移動するぞ」


 瞬きにも満たない時間だけ視界が暗転。

 しかし、すぐに視界が回復すると見慣れた自分の部屋からある場所へと移動していた。


「ここは……学校?」


 それも階段の踊り場。

 思わず懐かしい想いに囚われる。

 ここで召喚されて異世界へと行く事になった。


「この場所が校内で最も目立たないから移動させてもらった」

「今のって『転移の宝珠』による移動だよな」

「そうだ」

「俺以上にスムーズに移動しているな」


 未来の俺は、普通に歩いているように空間を跳躍した。


「もう使えるようになっているから教えてやるけど、対になっている宝珠を目的の場所に設置して宝珠に魔力を注ぐだけだ。もっと慣れれば俺がやったみたいに空間をスムーズに移動することができるようになる」


 持っていた宝珠を収納する。

 同時に部屋に置きっ放しになっている宝珠も収納されているはずだ。


「これを付けろ」


 ネックレスを渡されたので首から提げてみる。

 意識を向けてみると魔力を放っていたので間違いなく何らかの魔法道具だ。


「姿を消せるようになるネックレスだ。とはいえ、効果は低いからそこそこの魔力を持っている奴を相手にした時は姿を隠せないけどな」


 それも、魔力を持っている人がいないこの世界ではデメリットにならない。


 未来の俺も同じ物を首から提げている。


「付いて来い」


 未来の俺に付いて行く。

 まだ1カ月しか過ごしていない校舎を歩く。


「今は授業中なんだな」


 時計を確認させてもらうとお昼前。

 教室の中では授業が普通に行われていた。


「あれ……?」


 その中に見覚えのある人物がいた。

 異世界に召喚された後で何度か顔を見た事がある。


「全員、連れて帰る事ができたのか?」

「仲間だけじゃない。何人かを残して連れ帰る事に成功した」


 と、未来の俺の表情が少しだけ暗くなる。

 何かを後悔している?


「他に気付いた事があるか?」

「……他の時代に召喚された人だっているはずだ」


 セイジや先代勇者がいい例だ。


「ちなみにあの人が手記を残してくれた先代勇者だ」

「は?」


 隣の教室にいる人たちの一人を指差す。

 少し茶髪の混じったどこにでもいるような普通の少年が教室で授業を受けていた。


 けど、そんな事はありえない。

 手記で読んだだけだったが、彼は間違いなく異世界で生涯を終えて死んでいったはずだ。


「詳しい事は言えないけど、異世界で死んだ奴らは異世界での記憶を全て失ったうえで召喚直後の時間に呼び戻している」


 時間にして数秒。

 彼らは全ての記憶を失っていたためにガスでも吸い込んで全員が同時に気絶したと思い込んだ。医者にも診てもらったみたいだが、原因が分からなかったから詳しく考えることも止めてしまった。

 それで被害者は納得したらしい。


 問題は、呼び戻している(・・・・・・・)という言葉だ。

 俺が自発的に何かをした、という事になっている。


「ただ、問題が全くなかった訳じゃない」


 ――ガタッ!


 椅子を倒して一人の男子生徒が立ち上がる。

 その表情は怯えたように酷く青褪めていた。


「大丈夫か? 保健室へ行っていなさい」

「失礼します」


 男子生徒が教室から出てくる。

 そのまま震える体を抑えてどこかへと駆けて行く。


「行き先は保健室だ」

「どこか体調が悪いのか?」

「悪くしたのは心だよ」

「心?」

「生き返らせる事に成功して記憶も消去したはずなんだけど、魂が微かに異世界での出来事を記憶しているらしい。だから時々思い出したように自分が魔物に生きたまま喰われたり、潰されたりした奴が死んだ時の光景を唐突に思い出してしまう事があるんだ」


 体には異常はない。

 ところが、蘇って来た恐怖によって心がボロボロになってしまう。


「悪いが、俺にできるのはここまでだ」


 後は本人の精神力次第らしい。

 これから何をする事になるのか分からないが不安に圧し潰されそうになる。


「そんなに気に病む必要はないですよ」

「え?」


 俯いて歩いていると目の前に現れたレイに励まさられる。


 数分まで一緒にいたレイと全く変わらない姿。

 唯一、明確に違うところがあるとすれば学校の制服を着ている事ぐらいだ。


「朝からいなかったはずなのに急に来たから何事かと思って見に来たらソーゴさんが二人いるのでビックリしました」


 異世界にいた時と全く変わらない態度。

 目の前にいるレイは記憶を消去された訳ではない。


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