第5話 倉庫整理
翌朝、依頼を受ける為に冒険者ギルドを訪れる。
昨日訪れた夕方前の時間とは違って朝の早い時間には多くの冒険者が依頼を受ける為に訪れており、5つあるカウンターの前には行列ができていた。
どの列に並んでも時間が掛かりそうだったので、せめて手続きが早く済みそうな昨日と同じ受付嬢の前に並ぼうということでシャーリィさんが受付をしているカウンターの前に並ぶ。
しばらく待っていると俺たちの番が来た。
「ようこそ冒険者ギルドへ」
「すみません。依頼を受けてみようと思ってギルドへ来たんですけど、どうすればいいですか?」
「依頼の受け方ですね。あちらにある掲示板に受注可能な依頼票が貼られていますので、自分の冒険者ランクで受けることができる依頼の中から希望する依頼の依頼票をこちらまでお持ちください」
「分かりました」
俺たちは最低のGランク。
受けられる依頼は主に雑用関係ばかりだ。
「もしも、まだ希望する依頼が決まっていないなら私の方で紹介しましょうか?」
「いいんですか?」
「はい。実は、昨日皆さんが帰られた後で依頼を受ける為に今日来るんじゃないかと思って手頃な依頼を選んでおいたんです」
いい人だ。
「Gランクの依頼は、報酬の低さと内容に目を瞑ればたくさんありますからね」
報酬の低い依頼など誰もやりたがらない。
そのためたくさん余っていた。
どれどれ……?
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内容:食事処での給仕
報酬:銀貨5枚
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内容:薬品庫の整理
報酬:銀貨4枚
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内容:鍛冶場の掃除
報酬:銀貨6枚
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内容:倉庫整理
報酬:銀貨5枚
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文字が読めるので何をさせられるのかはなんとなく分かる。
なんというかアルバイトみたいな雑用ばっかりだな。
「どうする?」
「これってアルバイトみたいな感じよね」
ハルナも依頼内容を見て俺と同じような感想を抱いていたらしい。
「アルバイトの経験は?」
「興味はあったんだけど、ウチは親の意向もあって学校がある間のアルバイトはダメだって」
俺たちの通っていた学校ではアルバイトの禁止はされていないが、必ず親から同意を得る必要がある。
そのためハルナの家では夏休みなどの長期休暇中でなければアルバイトは認められていないらしい。
俺の家でも同じような感じでアルバイトはさせてもらえなかった。
「どうしますか?」
「Gランクの依頼ってこんなものばかりですか?」
「そうですね。街中で済ませられる雑用ばかりです。危険はありませんし、報酬は少ないですけど難易度は低いので確実に稼ぐことができます」
報酬も低いみたいだけど、日当で4,000円~6,000円って考えればアルバイト並みの金額なのかな?
「ソーゴ君にオススメなのは、この依頼ですね」
シャーリィさんが倉庫依頼の依頼票を出してくる。
「収納魔法を持っていれば重い荷物を持つのも簡単じゃないですか」
「そういうことですか」
さすがに重い荷物を持たせるなら女子2人に任せるわけにはいかない。
「俺はこの依頼を受けてみようと思うけど、3人はどうする?」
「シャーリィさんが選んでくれた依頼、だよな?」
ショウが手に取ったのは鍛冶場の掃除。
「僕の錬金魔法からして色々と勉強になりそうだ」
「じゃあ、あたしはこっちかな」
「わたしも……」
ハルナが食事処での給仕、レイが薬品庫の整理を選んだ。
「では、頑張って下さいね」
笑顔のシャーリィさんに送り出されてそれぞれの仕事先へと向かう。
☆ ☆ ☆
「ここだな」
依頼票とは別に渡された紙に描かれていた地図に従って都市の中を歩いていると大きな倉庫の前に辿り着いた。
「すいません。冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者です」
「お、今日は来たみたいだな」
倉庫の奥の方に向かって声を掛けると奥から大男が出てきた。
盛り上がった筋肉によって服が内側から押し上げられている。
「なんだ。随分と弱そうな奴が来たな」
目の前にいる筋骨隆々な男に比べれば一般人は誰もが弱々しく見えるだろ。
「依頼内容は倉庫の整理ですよね。初めての依頼ですけど、きちんと仕事はするので問題ありませんよ」
「そうか」
男は目に見えるほど落胆すると倉庫の入口横へと移動して行く。
何も説明されていないので男に着いて行くと、倉庫の入口横には両手で抱えられるサイズの木箱が100個ほど積み上げられていた。
「これは……?」
「この倉庫は、いくつかの商家が合同で利用している倉庫なんだが、1週間後に祭りがあって、その時に売ろうと思って大量に酒を発注した馬鹿がいやがった」
確保した酒を置いておく場所も事前に用意していなかったらしい。
木箱の蓋を開けてくれると中には液体の入った瓶が詰め込まれていた。
「お前の仕事は、この木箱を倉庫の奥へ運ぶことだ」
男の示した方を見ると倉庫の奥にスペースが開けられていた。
「あそこへ運べばいいんですね」
「ああ、そうだ」
試しに木箱を持ち上げてみると、
「お、重い……」
持てないことはないが、軽々と持ち上げることはできない。
これでは持って移動するだけでかなりの時間が掛かる。
「今日中に終わってくれれば問題ない。俺は、この倉庫の管理人でもあるから奥で別の仕事をしているな」
「分かりました」
――5分後。
「終わりました」
「は?」
奥の事務所で帳面らしき書類を書いていた管理人が事務所に顔を出した俺を見てポカンとしていた。
それも仕方ない。
管理人の考えでは作業に半日掛かるかもしれないと考えていた。それが、たった5分で終わったなど考えられるはずがない。
「はぁ~」
嘘の申告をしたと思われて管理人が溜息を吐いていた。
「あのな、こんなに早く終われるはずがないだろ」
「だったら来て自分の目で確かめてくださいよ」
「お、おい……!」
管理人を連れて倉庫入口横へと行く。
そこには積み上がっていた木箱が綺麗になくなっていた。
「……なに?」
木箱がなくなっていることを確認し、次いで倉庫の奥を確認すると5分前の入口横と同じように木箱が積み上がっていた。
「……どうやって運んだ?」
「えっと……」
木箱を運んだ時と同じように近くにあった別の木箱に触れると木箱が消える。
「収納魔法、か」
そう、普通に持ち上げたら重たくて動くのも大変だったが、1度収納してから倉庫の奥へと移動して収納から取り出せば簡単に移動させられることができた。
「俺も収納魔法を使えるが、普通の収納魔法だと1度に運ぶことができるのは優秀な奴でも10個が限界なはずだ。俺だって8つまでだ」
普通はそうなのか。
「いえ、俺は普通に全部を運ぶことができましたよ」
「なに!?」
ただし、収納する時は1つ1つ木箱に触れて行かなければならないため入れる時と出す時に時間が掛かってしまった。
(でも、これって木箱で収納しようとしていたから1つずつしか収納できなかったけど、もっと大きな木箱の中にまとめて入れた状態でなら全部を1度に収納することもできたのかな?)
その辺りは、今後検証する必要がありそうだ。
「お前は、どこまで入れることができる?」
「限界、ですか? 実は今までに限界を感じたことがないのでよく分からないんですよね」
「そんな……」
大きさや容量に限界を感じたことはない。
ただし、無限というわけではなさそうだ。全ての木箱を収納すると魔力が僅かに消費されたような倦怠感があり、両手が何かを持ったように重く感じた。
感覚的には、まだ10倍ぐらいなら耐えられそうだ。
「どうだ、坊主。お前もこの倉庫で働いてみないか?」
「いえ、遠慮しておきます」
無限に思えるほどの量を収納できる俺の収納魔法は倉庫の管理人から見れば喉から手が出るほど欲しい魔法なのだろうが、俺の目的はあくまでも元の世界に帰る為の魔法道具を手に入れることだ。
倉庫整理は、ランクを上げる為の雑用でしかない。
その後、管理人から依頼票に依頼完遂のサインをもらってギルドへと帰る。