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第24話 世界帰還

 手に持つ螺旋突撃槍に魔力を注ぐ。

 1000……10000……100000を超える魔力量。


「ちょ……」


 周囲には台風のような風が巻き上げられ、回転しているはずの槍の軌跡を捉えることができなかった。


「――届け!」


 何もない荒野に向かって槍を全力で投げる。

 俺の手から離れた3秒後――槍が消えた。


「え、どこへ行ったの?」


 それまでの台風みたいな様子が嘘みたいに静かになる。


「向こうの世界に到達した」

「本当に?」


 どうあっても世界を越えての帰還など不可能だったはずだ。

 まずは道具だけとはいえ世界を越えた事実をハルナは受け入れられなかった。


「問題ない」

「で、ここからどうやって帰還するの?」

「これを使う」


 帝国の宝物庫から頂戴した水晶玉を取り出す。


「あ、これなら私も見た事がある」


 水晶玉を見たアンが呟く。


 転移の宝珠。

 2つで1つの魔法道具で、片方の水晶玉に魔力を注ぐ事によって対になった水晶玉が置かれた場所まで移動することができるようになる。


 本来の用途としては、防衛拠点として重要な場所に一つを置いておいて勇者のような特級戦力に対になる水晶玉を渡していつでも帰還ができるようにしておく。

 どうやら魔王軍との戦いでも王城へすぐにでも戻って来られるよう対になる水晶玉を渡されていたらしい。


「で、対になる水晶玉はどこにあるの?」

「実は、さっき槍を投げた時に付いていたんだ」


 聖国で報酬として手に入れた鎖型の魔法道具。

 長さは30センチ程度で鎖としては短く、縛る為に用いられる物ではない。鎖の両先端に二つの物を磁石のようにくっ付ける事ができる。

 まるでキーホルダーのようにして槍とくっ付けた。


「今、向こうの世界に槍と鎖、水晶玉の魔法道具が行った事になる」


 これで全ての準備が整った。


「ちなみに『俺の部屋』を目的地に指定させてもらった」


 目標地点を指定するにも強いイメージが必要だった。

 俺の中で向こうの世界で最もイメージし易い場所が自分の部屋だっただけだ。


「後は、水晶玉の効果を発揮すれば世界を越えての帰還が完了する。どこでもいいから俺の体を掴め」


 一緒に転移するには触れている必要がある。


 転移に必要な魔力は、重量が大きくなればなるほど必要になる。

 そのため多人数での移動は不可能なのだが、魔王も取り込んだ俺の魔力なら多人数での移動が可能になる。もっとも10人が限界なので、この世界へ召喚された全員を連れての帰還は不可能になる。

 今、この場にいるメンバーだけでの帰還だ。

 各地で今も勇者として活躍している人たちには申し訳ないが、帰還できるのは俺たちだけだ。


「準備はいいな?」

「はい!」


 レイが力一杯答える。

 この世界に召喚されたばかりの頃は元の世界に帰りたい思いで涙まで流した少女だ。帰還できるとなれば喜びは一入だろう。


「やるぞ」


 回転突撃槍を使用した事による魔力を回復させる。


 そして、持っている魔力を全て右手に持った水晶玉に注いで掲げる。

 水晶玉からバチバチと魔力が電撃のようになって爆ぜる。


「跳べ――」


 向かう先は、対になる水晶玉がある場所――自分の部屋。


「跳べ――」


 魔力を注いで魔法道具を発動させる。

 何か事故や使用方法に間違いがあっては困るので短距離でのテストは問題もなく終えていた。

 だが、短距離の時のように上手くいかない。


「クソッ、何が足りない!」


 今も注ぎ続けている魔力がバチバチと爆ぜている。


 魔力は足りている。

 そんな手応えがある。


 ――だが、何か壁のような物があって転移を阻んでいる。


「……やっぱり、無理だったのよ」

「そうかもね」


 ミツキとユウカが俺の背中から手を放す。

 二人は諦めてしまったみたいだ。


「大丈夫よ。槍が世界を越える事はできたんでしょ。だったら元の世界へ帰る方法だって別にあるわよ」

「そうです。落ち込む必要はありません」


 アンとマコトが俺の肩から手を放す。

 二人とも俺が仲間を期待させてしまっただけに責任を感じて落ち込んでいないかと励ましてくれている。


「そうそう気にする必要はないわよ」

「復活した前魔王は倒す事ができたのですから、このまま普通に現魔王を倒してしまうのも一つの選択肢かもしれませんね」


 ハルナとショウが俺の左手から手を放す。


 たしかにショウが言うように今の俺なら魔王でも圧倒できるだろう。

 だが、この世界に召喚されただけの俺たちだけが死ぬかもしれない戦場へ赴くなど絶対に嫌だった。

 何か――元の世界へ帰れる可能性でもなければ請け負うつもりはない。


 そして、最後に残ったレイ。


「頑張って下さい」


 レイだけは2分以上も魔力を注ぎ続けても何の変化もないにも関わらず俺の事を信じて右手に触れ続けていた。


「まだ魔力が不足しているというなら、わたしの魔力も使って下さい」


 レイも魔力を注いでくれる。

 二人分の魔力が注がれて魔力の光がさらに強くなるが、世界を越える事はできない。


「……どうやら、この方法でも無理だったみたいだな」

「そんな――」

「付き合わせて悪かった――」


 力なく崩れ落ちるレイ。

 魔力を一気に失ったことで疲労してしまった。


 期待させ、付き合ってくれた仲間に謝ろうと振り返ろうとすると視界が急に歪む。


「ソーゴさん!?」


 驚くレイの声が聞こえてくるが、次第に掠れて行く。


「何が――」


 周囲の景色はグニャグニャと歪んでいる。

 そんな景色のままどこかへと引き寄せられている。


「どこへ?」


 決まっている。


 ――自分は直前まで何をしようとしていた?


「世界を越えて移動しようとしているのか」


 引き寄せられていた体が壁にぶつかったように止まる。

 しかし、すぐに見えない壁が消失する。


「ぐっ……」


 ドッと魔力がなくなる感覚。

 そして、再び引き寄せられて行く。


「今の壁が世界と世界の間にあって転移を阻んでいた?」


 壁があるせいで世界を越えての転移は不可能だった。

 回転螺旋槍は、次元の壁すらも排除したから届くことができた。

 だが、次元の壁はすぐに再生してしまう物らしく水晶玉に魔力を注いでいる間に元に戻ってしまった。


「でも、どうして俺は転移することができたんだ?」


 レイが手を放した瞬間――全員が手を放した瞬間に転移することができた。

 おそらく転移するのが俺だけになったから転移が可能になった。


 俺だけが世界を越えられる理由。


「世界を越える為に必要なのは【収納魔法】?」


 次元の壁は、たしかに俺の転移すら阻んでいた。

 だが、俺が触れたことによって収納されてしまった。


「次元の壁は収納してもすぐに復元されるみたいだし、どうやら収納する為には膨大な魔力が必要になるみたいだ」


 収納するだけならアイテムボックスでも可能だったかもしれない。

 だが、収納する為に必要な魔力が足りていなかった為に次元の壁に触れる事すらできなかった。


「もっとも……そんな魔力を得るのは不可能だろうけど」


 10万を超える魔力を手に入れた俺だからこそできた。


「……って考察するのは後回しだ」


 目の前に光が溢れる。


 直後、浮遊感が襲い掛かって来て床に叩き付けられる。

 床をゴロゴロと転がって柔らかい物にぶつかる。


「ははっ、懐かしい……」


 触れただけで分かった。

 自分が慣れ親しんだベッドの感触だ。

 高級宿に泊まればこのベッドよりも上質で柔らかいベッドで寝る事ができるが、やはり自分が慣れ親しんだベッドが一番だ。


「と言う事は……」


 周囲を見渡す。

 少し模様替えされているように感じるが、間違いなく自分の部屋だ。


「帰って来られたんだ」


 感動から思わず呟いてしまう。


 しかし、すぐに失敗である事に気付く。


「俺一人だけが戻って来ても意味がない――!」


 帰還するなら全員でなければならない。

 すぐに来た時と同じ方法で向こうの世界へ戻る為に魔法道具を回収する。


「まあ、少しぐらい待て」

「――!」


 帰還できた感動と戻らなければならないという焦燥感から周囲への警戒が薄れていた。

 自分を見ている人物がいる事に今さら気付いた。


「そんなに警戒する必要はないぞ」

「ああ、そうだろうな。あんたは最も信頼できる人物だ。同時に最も信用できない人物でもある」

「失礼な奴だな。自分(・・)に向かってよくそんな事が言えるな」


 自分の机に鏡の中でしか見た事のない自分が腰掛けていた。


単身での帰還には成功。

ここから主人公だけなら世界観を自由に行き来してチートが更に進みます。

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