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第23話 魔王のいなくなった後で

 魔王軍四天王だったロットの死。

 魔王となった後の肉体も完全に消滅させたがイルミナティは何も変わらなかった。


 ロットの施した『教示』は永続的な効果があったらしく、翌日になっても人々は塔に向かって祈りを捧げ続けていた。


 何よりも魔王が暴れた事に対して誰も疑問に思っていない事だ。

 魔王が暴れたことによって街には甚大な被害があり、多くの人が亡くなっているにも関わらずだ。


 ロットは洗脳していた人に対して自分を『至上』の存在として崇めるよう教示していた。

 そのせいで魔王になったロットが齎した被害を誰もが受け入れていた。


 そして、いつもと変わらないように生活しようとしている。

 直接的な被害を受けなかった者は普段通りに商売に努め、直接的な被害を受けてしまった者は食糧を手に入れるにも苦労する状況なので放置しておくとゴミ箱でも漁って腹を満たそうとしていた。

 現在は、炊き出しが行われているのでそういった事態にはなっていない。


「これが現在の街の状況です」

「そうか……」


 目の前にいるマントを羽織った男が俺の報告を聞いて頭を抱える。

 場所は、行政の塔内にある応接室の一つだ。他国からの来客を招き入れることもあるこの部屋が相手の身分もあって最も適していたのでソファに座りながら語る。


 魔王復活の騒動から3日。

 騒ぎを聞き付けたクウェイン王国の重役が状況を確認する為にその日の内に訪れ、急いで戻った3日後には最も偉い人物が感謝と謝罪を述べる為に訪れていた。


「息子の非礼を詫びさせてくれ」


 そう言って目の前に座った人物が頭を下げる。

 ロットの父親――クウェイン王国の現国王であるローサー・クウェインだ。


 ローサーは父親として謝っているが、既に60を過ぎた白髪の目立つお爺さんだ。お爺さんという言葉にも間違いはなく、後ろに立った次期国王である長男には子供があり孫を持つ国王だ。


「頭を上げて下さい」


 ローサー国王だけではない。

 後ろに立った次期国王にも告げる。


「謝罪は必要ありません。この世界に召喚された勇者として当然の事をしたまでです」


 勇者として魔王軍と戦うのは当然。

 まして相手は四天王になっていた人物なのだ。


「その事についてもそうだ」

「その事?」

「ええ、私も兄として弟の事が恥ずかしくあり、自分自身の事も恥ずかしく思います」

「ああ、儂もだ。儂はあの子の父親でありながらあの子の嫉妬に気付いてやる事ができなかった。それどころか魔族になってしまった事にすら気付く事ができなかった。あの子の興味が魔王の復活にだけ向いていたから助かっているもののクウェイン王国の転覆を狙っているような奴だった場合、今頃は息子に殺されていたかもしれない」


 国王の暗殺が最も簡単に国内に混乱を起こす方法だ。

 優秀な後継者や家臣がいればすぐに持ち直せるかもしれない。それでも少しの間は混乱してしまうのは間違いない。


「ま、相手は色々と裏で画策する人物だったみたいですし気付かなくても仕方ないんじゃないですか」

「そういう訳にはいかん。少なくとも王として今回の責任を取る必要がある」


 父親として王位を王太子である長男に譲渡。


「その前に国として彼らの生活を保障する必要があるでしょうね」

「街にいる浮浪者の事か」


 都市の3割ほどが壊滅。

 重力の息吹(ブレス)により東門の前にある広場から都市の南西にかけて消滅。さらに重力弾をばら撒いたせいで東側のあちこちで空白地帯が存在していた。


 普通であれば暴動が起こってもおかしくないのだが、全員が家を持たない浮浪者になった事を受け入れていた。

 国として何らかの支援が必要だ。


「もちろん彼らの生活は保障する。ただし、国としてではなく儂のポケットマネーから出させてもらう」


 あくまでもロットの父親として責任を取るつもりのようだ。


「ま、彼らの補償についてはそちらに一任しますよ」


 住む家を失くした人々について問題を国王に丸投げする。

 この3日間は善意から支援してあげていたが、これ以上は関わるつもりがなかった。


「どれだけ感謝をすればいいのか……」

「では、こちらが請求額になります」


 感謝を述べようとしていた国王の言葉を遮る。

 彼は自分の前に出された紙を見て困惑していた。


「これは?」


 その紙には国家予算規模の金額が記載されていた。


「この3日間で使った支援金額です」

「なんだと――」


 財産を失ってしまったので当然何も持っていない。

 中には親を失ってしまった子供までいたので炊き出しなどをして支援する必要があった。


 あまりに多くの人が浮浪者となってしまったので万が一の場合に備えて用意しておいた街の備蓄だけでは賄えない。

 そこで、俺の収納から捻出することで賄った。


「安心して下さい。交易都市として有名だったイルミナティには金銀財宝に様々な魔法道具があったので、それで補いました。その請求書は、あくまでもいくら持ち去ったのかという事を報告する為の物です」

「……致し方ない。これも息子のしでかした事の後始末だ」


 国として表彰。

 今後の勇者としての活動を支援する事で報いようと考えていたのかもしれない。


 だが、そんな物はすぐにでも元の世界へ帰るつもりの俺には不要な物だ。


 元の世界へ帰れば、この世界での名誉など意味がなくなる。金銀財宝はそのまま換金する事ができるのでありがたく頂戴させてもらった。


「こちらはこちらでやる事があるので後は任せました」

「もちろんだ」


 応接室を後にする。


 そのままイルミナティからも出る。

 もう洗脳される事もないが、さっさと入っただけで洗脳されるような都市からは出たかった。


「ただいま」


 街から離れた場所では仲間が野営をしていた。

 みんな、どこかソワソワした様子で俺が戻って来ると満面の笑みを浮かべていた。


「もういいんですか?」

「ああ、これで勇者としての義務は果たしただろ」

「勇者として、じゃなくて街を壊した者としてでしょう」


 ハルナの言葉に肩を竦めて答える。

 やり方次第では街に一切の被害を出さずに解決する事もできたはずだ。少なくとも過去へ跳べば魔王復活を阻止する事はできた。それでも自分勝手な理由から過去への跳躍を拒んだのだから最低限の責任だけは果たしたかった。


 所詮は自己満足。

 数日間の物資を提供したところで彼らが全てを失った事には変わりない。


 それでも、恨まれてもやり直すつもりはない。


「これで帰れるのよね」

「ああ、帰れる」

「よかった……」


 俺の言葉にハルナが安堵する。

 それは全員に共通している事でレイは涙を流しており、アンは弟を抱きしめている。ミツキとユウカに至ってはハイタッチまでしており喜びを露わにしていた。


 ついに目標が達成される時が来た。


「不足していた魔力も手に入った」


 魔王軍四天王どころか魔王を倒してしまったので予想を大きく上回って成長することができた。


 収納から世界を越える為に必要な魔法道具を取り出す。


「それ、魔王戦でも使っていた魔法道具ですよね」

「そうだ」


 俺が取り出したのは螺旋突撃槍。


「こいつは魔力を注げば注ぐほど回転を速めて、指定した目標地点までの間にある障害を排除してくれる」


 魔王戦で使ったように接近して削る、などという方法は間違った使用方法だ。

 正しくは、投擲して目標地点までの間にある壁などといった障害物を排除する。


「それって――」

「こいつで元の世界を指定して世界と世界を隔てる次元の壁を突き破る」


ネタバレ:全10章を予定しています。

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