表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/236

第22話 封緘

 魔王は瘴気を得ることによって傷を癒し、自らの力を強化させることができる。

 しかも、魔王が持つ特性によるものなのか魔王が呼ぶだけでどこからともなく瘴気を集めることができる。


 どうやら、魔王城での最終決戦前に一度戦って逃げられているらしく、その時の反省を活かしたうえで最終決戦には挑んでいたらしい。


 結果――対策を万全にしたうえで挑めた。


「勇者のスキルによって封印術が使えた。その力を使ってデカい魔王城を覆うほどの結界で瘴気を集められないようにした」


 それにより魔王は事前に体内で保有していた瘴気しか使用することができなかったせいで敗北してしまった。


 とはいえ、勇者のスキルも万能ではない。

 魔王に対して封印術を使用する為には、封印術の使用に集中する必要があり、仲間が自分を犠牲にしてまで作ってくれた時間があったからこそ魔王を倒すことができた。


「……どうします? 僕たちも犠牲になりますか?」


 隣を走るショウが尋ねて来る。

 データだけなのでみんなのアイテムボックスにも渡してある。


「そもそも【封印術】を使える奴がいないだろ」


 その時点で同じ作戦は成立しない。


「じゃあ、役に立たなかったんですね」

「いや、そうでもない」


 要は瘴気の供給が得られないようにすればいい。


「『回転螺旋槍』」


 収納から傘のように広がった槍を取り出す。


「それは……?」

「帝国の宝物庫から頂いた魔法道具だ。実戦の中で使うのは初めてだけど、魔王を倒すには必要な物だ」


 できれば間違っても壊してはならない物だから使いたくはなかった。


「螺旋機構回転」


 槍がドリルのように回転を始める。

 この槍は魔力を得ることによって回転し、触れる物全てを粉砕する。


 魔力を次々に注いで回転を速めて行く。


「ちょ……」


 回転が速くなればなるほど多くの魔力を消費し、余剰魔力の光が周囲に撒き散らされる。


「ん……?」


 そんな光を放っていればロットの注意を惹いてしまう。


「そこにいたか!」


 10発の重力弾がばら撒かれる。


「【加速】」


 最低限の動きだけで回避すると近くにあった建物の壁を伝って上へ回避する。


「死ね」


 ロットの口から強烈な光が放たれる。

 それは、何十発分もの重力弾を一点に圧縮させた息吹(ブレス)


 解き放たれた息吹は、数秒で街の反対側まで届いて間にあった物を全て消失させてしまう。建物だけじゃなく、ただそこにいたというだけの理由で人が消えた。


「ははっ、これで……」

「――吶喊!」


 回転した槍が空気を裂いて突き進んでいく。

 槍を手に地面スレスレを走る。


「チィッ!」


 体の上を重力弾が通り過ぎて行く。

 螺旋が放つ光のせいで俺の位置を正確に掴めていない。


「貫け!」


 螺旋槍を手に跳び上がる。

 右手を翳して防御するロット。重力を纏った手が螺旋の回転を止めようとする。


「もっと回れ!」


 さらに魔力を注いで回転を速める。


「……! これほどの力を……! お前は何者だ!?」

「この世界の事情に巻き込まれた可哀想な異世界人だよ」


 右手が回転に巻き込まれて吹き飛ばされる。

 周囲に血が撒き散らされ、グチャグチャになった肉片が落ちる。


「私は最強の力を手に入れたんだ!」


 残った左手が再び槍を受け止める。


「この程度の傷など簡単に再生してくれるわ」


 周囲の地面から瘴気が噴き出す。

 だが、1メートルほど跳び上がったところで消失してしまった。


「どういう事だ!?」


 瘴気を集めて手にすることで失った右手も回復する。

 そういう腹積もりだったが瘴気が集まらない。


「全ての瘴気は俺が奪わせてもらった」


 ロットが手にした後ではロットの物になってしまっているが、ロットの元へ集まろうとしている瘴気は誰の物でもない。


 ロットが手にする前に奪ってしまえばいい。

 それが俺なりの封印術。


「この都市そのものを俺の【収納魔法】で覆わせてもらった」


 都市と同規模の大きさで地面に魔法陣を描く。

 消耗が激しく、驚異的なステータスを持つ俺でも10秒しかもたない。それでも魔力が尽きる直前に収納内にある魔法道具に充填しておいた魔力を吸収して持続させている。


「ふざけるな!」


 イルミナティの向こうから黒い瘴気が渦巻きながら近付いて来るのが見えた。

 渦巻く瘴気が都市へと侵入し……できなかった。


「なに……!?」


 都市へ入る直前に消失してしまう。


「言っただろ。『都市そのものを覆っている』って」

「まさか……!」


 地面だけではない。

 ドーム状に都市を覆うようにも魔法陣が展開されている。

 もはや、【収納魔法】の魔法陣の内側で戦っていると言ってもいい。


「お前も魔王になったのなら勇者と戦った時の魔王を見習って今持っている瘴気だけで戦え」

「そ、そんな……私が【収納魔法】のようなスキルを相手に負ける……?」


 スライム同様に嘲笑の対象である【収納魔法】。


「どんなスキルであろうと関係ない」

「認められるものか!」


 超重力空間がロットの正面――俺に向かって放たれる。


 体が重くなって動けなくなる。

 重力弾を放っている間は使えなかった超重力空間。対象の範囲を正面へ絞ることで使えるようになったか。


「悪いな。俺は最初から一人で戦っているつもりはないんだよ」


 ――ドォン!


 レイの作った爆弾が背中に炸裂する。威力もハルナの【強化魔法】によって強化されたおかげで魔王に火傷を負わせることに成功する。


「おのれ……!」


 怒りを露わにするロット。

 そこへ左右からミツキとユウカの攻撃が当たる。


「これが全員で戦うっていう事だ」

「いつの間に……!」


 背後と左右からの攻撃に注意が向いてしまうあまり正面への警戒が薄れてしまった。

 その間にロットの胸に潜り込む。


「お前はたしかに最強の力を手に入れた。けど、やっぱり最強の力を使いこなす為の経験が圧倒的に足りていないんだよ」


 回転する槍を胸に叩き付ける。


「がぁっ!」


 胸の皮膚が削られ、肉が吹き飛ばされる。


「見えた!」


 見えた物へ手を伸ばす。

 手を伸ばさなくても射程圏内にはあったが、手を伸ばすことによって宝を手にするというイメージを強くする。


「潰れろ!」


 超重力空間がロットを中心に発生する。

 潰される前に加速して逃れる。


「もう目的は達成してるからいいぞ」


 手にした瞬間に収納へ入れておいた物を取り出す。


「それは……」


 掲げられた物を見てロットの顔が蒼白になる。


「ああ、お前の魔結晶だ」


 巨体である為か。

 それとも魔族ではなく魔王であるせいなのかは分からない。

 だが、今までの魔族が持っていた魔結晶よりも一回り大きな魔結晶が俺の手に握られていた。


「か、返せ……!」


 魔結晶を失っても体内に瘴気が残っている。

 それを消費してゆっくりと前へ歩いている。


「悪いが、もう俺の物だ」

「あ、ああ……!」


 ロットが胸を掻いてもがき苦しむ。


「……ヤバくない?」

「けっこう危ないと思います」


 掻いた場所から血が噴き出すように瘴気が溢れ出す。


「……マズい! このままだと暴発するぞ」


 魔結晶という制御装置を失ったことで膨大な瘴気が行き場を失くしてしまっている。このままだと大爆発を起こす……そういうセオリーを感じた。


「吹っ飛べ」


 殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

 既に呻き声しか出せなくなったロットを殴って街の外まで押し出す。

 都市の外には草原が広がっている。


「うおりゃあ」


 都市の門を出たところで蹴り出す。

 何もない草原を吹き飛ばされて行く。


「う……」


 直後、吹き飛ばされたロットの体から黒い光が溢れ出して――爆発が起きる。


 50メートル先で起こった爆発。

 このままだとイルミナティも爆発に呑み込まれる。


「収納!」


 都市を覆っていた魔法陣をそのまま利用して爆発を全て収納してしまう。


 爆発の後には、イルミナティ側では何事もなかったように無事な都市があった。ただし、反対側は悲惨なもので生えていた草が全て消し飛んでしまっている。

 それでもイルミナティにいた人を守ることができた。


「勝った……」


 都市を覆うほど広大な魔法陣はさすがに疲れる。

 支え切れなくなった体で地面に座り込む。


魔王戦終了。

そして、第7章のリザルドをやったら元の世界への帰還です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] このドリル槍も・・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ