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第18話 鬼ごっこ

 ロットが飛び降りた窓へ駆け寄る。

 5階の窓から地面を見るとちょうど着地するところだった。


 地上から5階にいる俺を見上げるロット。


「追い付けるかな?」


 唇がそんな風に動いている。

 すぐに逃げ出さず態々そんなセリフを言っている姿を晒している。

 明らかな挑発だった。


 そのまま街中へと駆け出す。


「ま、待て!」


 あまりな急展開に止まりかけていた思考をフルに働かせる。


「俺は奴を追い掛ける」

「はい」


 警備員の相手をしていたショウが返事をする。

 ショウは槍を使って警備員の攻撃を受け止めると後ろへ吹き飛ばして部屋の中へ入って来られないようにしている。部屋の扉では一度に通れるのが精々一人まで。部屋に入って来られないようにしているだけで時間を稼げる。


「僕たちも付いて行きます。ここに居てもジリ貧でしょうから」


 今は入口の狭さを利用して侵入を防げているが、万全という訳ではない。

 それに相手は無尽にいると思わせるほどの人数を支配下に置いている。持久戦になればこちらの体力が先に尽きて窮地に陥る可能性が高い。


 いざ、部屋を出て行こうとすると後ろから声が掛かる。


「わ、私はどうすれば……!」


 もう一人、諜報員がいたのを忘れていた。

 彼の戦闘力は、一般人よりも少し高い程度で冒険者の中でも中堅クラスの実力しか持っていない。

 そんな実力では、こんな敵しかいない状況で置いて行かれるのは不安でしかないだろう。


「……残念ですけど、そっちにまで気を配っていられる余裕がありません」

「そんな!」

「あなたも軍人なら自力で生き残って下さい」


 それだけ言い残して窓から飛び出す。

 地面に着地する直前に宿屋から持ち帰った布団をいくつも収納から取り出す。

 布団がクッションになって落下していた俺たちの体を受け止める。


「わあっ」


 一人、布団から飛び跳ねて落ちてしまったハルナだったが、予め外側にも布団を用意しておいたおかげで無事だ。


「……違うからね」

「何が?」

「決して、あたしの体が重いせいで外に飛び出したとかそういうのじゃないから」

「……分かった」


 本人が否定しているのだから、ここは素直に受け止めてあげるべきだろう。


「それよりも敵さんが待っているぞ」


 先に下りていたロットは人混みの前で待っていた。


「あれは、人混みではなく群衆と呼ぶべきものです」


 人混みを前にしたショウが感想を口にする。

 人混みは整列した状態でギラギラした目をこちらへ向けていた。


「既にイルミナティにいる全ての人間が君たちの敵に回った。この状況でどれだけの事ができるのか見させてもらおう」

「うおおおぉぉぉぉぉ!」


 群衆が殺到する。

 連携など全く考えていない。ただの突進。


 直後、群衆の先頭が左右へ吹き飛ばされる。


「彼らは操られているだけです。手加減した方がいいのでは?」

「ちゃんと手加減しているだろ」


 ショウの質問に対して吹き飛ばされて倒れ伏した人を指差して答える。

 吹き飛ばされた連中は、大怪我を負っているものの息をきちんとしていた。


「どの程度の威力で殴れば死ぬのかは大凡把握できている。悪いが、生きているだけでも儲けものだと思って欲しい」


 突撃に対してこっちも突撃する。

 圧倒的なステータス差に負けてしまった人々は何もできずに吹き飛ばされるしかない。


「いやはや……」


 群衆の中にいながら先頭集団が吹き飛ばされて行く光景を見ながらロットが呆れていた。


「彼らはさっきの警備員と同じで君たちを『敵』だと認識させられているだけ。しかも警備員と違って一般人も紛れ込んでいる。当然、一般人のステータスだと中には死んでいる者もいるかもしれない。にも関わらず、躊躇なく攻撃するのか」

「関係ない。俺の目的を阻むのなら吹き飛ばすのみ」


 ロットまでの距離は8メートル。

 飛び込むようにして手を伸ばす。


 その間に割り込んでくるガタイの良い男。


「……! 邪魔」


 割り込んで来た男を殴り飛ばす。

 再度、ロットを見据えるが割り込んで来た男を殴っている間に他の人間まで割り込んで来ていた。

 しかも、ロットは奥の方へ既に移動している。


「たしかに『個』としての力なら君の方が上だ。しかし、こっちは『全』――都市にいる全ての人間で戦うだけだ」


 50メートル先で立ち止まるロット。

 普段ならば数秒で辿り着ける距離なのだが、間に何百人という人が集まって人垣を作っているせいで進むことができない。


「このまま全員で襲い掛かればいずれは力尽きる」

「そうかな?」


 粗末な剣を手にした二人の男が正面から斬り掛かって来る。

 紙一重で回避すると男たちから剣を奪い取って上へ投げる。投げた先には斬り掛かるべく大きな剣を手にした二人の男がいた。防具まで含めて装備が整っている事から冒険者だと思える。

 最初の男たちは陽動。本命は視覚外から攻撃する二人。


 案の定、本命の二人によって投げた剣が弾かれる。


 だが、それでも問題ない。


「ボールゲット」


 上へ跳んで二人の頭を掴むと群衆の中へ向かって投げ付ける。

 大剣を持った状態で叩きこまれた二人は多くの人を巻き込みながら突っ込む。


 同じ都市に住む人間が簡単に倒される光景を見ている。


「……敵から目を離すな!」


 ロットが一喝する。

 しかし、もうロットの頭上まで迫っていた。


 群衆の意識が叩きこまれた二人へ向いている間に収納から足場となる金属の板を取り出して一気にロットまで飛び込む。


 しかし、そこへ再び飛び込んでくる人影。

 今度は全身鎧を纏った男だ。

 小賢しくも同じ手――勇者と魔族の戦いには無関係な者を盾にして来た。


「悪いな」


 聖剣を抜く。

 魔力を流され鋭利になった刃が鎧ごと割り込んで来た男を斬り捨てる。


「なっ……化け物め」

「魔族のお前にだけは言われたくない!」


 全身鎧の男を盾にしている間に逃げようと思っていたせいでロットは未だに射程圏内にいる。


「ぐわっ!」


 投げた聖剣がロットの脇腹を貫通して地面に突き刺さる。

 串刺しにされたロットが聖剣を自分の体から引き抜こうとしている。


「捕まえた!」

「ク、クソッ……!」


 串刺しにしている聖剣を握って魔力を流すと傷口から血が溢れる。


「あと少し、なのに……」

「一体、何を企んでいる?」

「私がこんな特性を手に入れたのは他者が持っている力を羨んだからだ」


 一度、魔王軍に蹂躙された事のあるクウェイン王国では何よりも武が優先される傾向があった。

 それは、王族であっても例外ではない。

 たとえ第6王子という王位継承順位の低い者であっても武において優秀な功績を示すことができれば王位の継承すらも認めさせることができる。


「ところが、兄弟の中で私は最も出来が悪かった」


 文官しては最も優秀だったが、剣や魔法においては兄たちに敵う事すらできなかった。

 だからこそ潔く諦めて副都の領主として日々を過ごしていた。

 そういった多くの人を見る立場になると、やはり強力な武を誇る姿をみてしまうと羨ましくならざるを得なかった。


「色々な奴を見てとにかく強い力を求めていたせいで『他人を支配できる』、それに準じた力が手に入った。だけど、こんな特性は私が求めていた特性じゃない」

「そうか……いや、さっさと始末しよう」


 なぜか、長々とした話に付き合ってしまったが早く始末してしまった方がいい事に気付いて聖剣を脇腹から抜く。


「慢心したな?」

「なに?」

「勝利を確信するあまり油断していたな」


 ロットが口を開く。


 言葉のままに教えを刷り込ませる特性を持つ者との会話。

 十分に危険な行為をしていた。


「君は私の『教示』を完全に防げていた訳ではない。おそらく、ほんの……本当に一瞬だけ受けてしまっている。そのせいで私の言葉は聞かなければならないという想いに駆られてしまう」


 そう。ロットが言うようになぜか聞いてしまった。

 それが『教示』という能力なのだろう。


「だから、どうした?」


 聖剣を振り上げる。

 今まで相手にした魔王軍四天王クラスと比べれば呆気ないものだが、それだけ俺が強くなった証だと納得する。


「そろそろタイムリミットだ」


 背中の方からバチバチと放電するような感覚を覚えて振り返る。

 実際に放電していた訳ではなく、スキルが暴発して空間を歪ませていた。


「なっ……!」


 背後には波打つ水面のように波紋が浮かんでいた。


「何をした!」

「孵化するのさ」

「孵化?」

「既に準備が整ったから教えてあげるが、封緘の棺に入っていたのは『卵』だ。その卵は少々特殊で、孵る事を願う人々の想いを糧に誕生するようになっている」

「まさか――洗脳した人に健康祈願させていたのは……!」


 健康≒復活。


「そうだ。全ては、その卵を孵化させる為だ」


 卵から新たな命が誕生する。

 先ほどまでは物体だったから収納する事ができたが、孵化した事によって生物になってしまい収納している事ができなくなってしまった。


「さあ、ようやく前魔王(・・・)復活の瞬間だ」


第8章のラスボスはロットであってロットではありません。

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