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第4話 宝物庫の財宝

 その日、メグレーズ王国王城は大騒ぎとなった。


 事の発端は、簡単な魔物討伐に向かった騎士と4人の異世界人が戻らなかったことだ。

 騎士に連れられて彼らが向かった場所は弱い魔物しか出現しない場所で、彼らのように戦う力の弱い者でも帰って来られると勇者たちには説明していた。


 しかし、魔物討伐に向かった異世界人は帰って来なかった。

 当初の目論見通り、勇者たちは異世界が非常に危険な場所だと悟って自分たちが同じように死なないために訓練に励むようになった。


 それはいい。

 少年少女が帰って来ないことは最初から計画されていた事で、計画では彼らを守るはずの騎士が殺し、凶悪な魔物が突然現れて少年たちを守ろうとするものの騎士は命からがら逃げてきた、ということになるはずだった。

 だが、少年たちだけでなく騎士までもが帰って来なかった。


「いったい、何があったというのだ?」


 1人しかいない執務室で宰相である私が呟いてしまう。


「いや、こんなことではいけないな」


 もしかしたら嘘の報告のように凶悪な魔物が本当に現れてしまった可能性がある。


 彼らを山まで連れて行った馬車の御者をしていた兵士は日没になっても戻る気配のない騎士たちを心配して山の中を探索した。陽が暮れて辺りが真っ暗になった彼が見つけたのは大量の血痕。遺体がないか探そうとしたが、暗くて見えなかったため捜索を諦めて報告の為に王城へと戻った。

 翌日、兵士からの報告を受けた数名の騎士と兵士による捜索が行われたが、大量の血痕が見つかるだけで誰の遺体も見つからなかった。


「頭の痛い問題だ」


 騎士の育成には莫大な費用が掛かっている。

 兵士と違って簡単に補充できるような人材ではなかった。


 ――コンコン。


 執務室の扉がノックされる。


「入りなさい」

「失礼します」


 執務室に入って来たのは鎧を脱いだ騎士だ。

 全員ではないが騎士の顔を覚えているので彼がどんな仕事をしているのか知っている。たしか、備品関係の管理をしていた騎士だ。


「どうした?」

「報告があります」


 そんな者が私に直接報告に来るなど今までなかった。

 彼らには直接の上司がいるため宰相である私に報告をする者は、もっと地位の高い者になる。

 それらの関係を無視した報告。


「急ぎの案件かな」

「はい。上司に報告したところ直接目にした私が宰相へ報告するべきだと言われました」

「何があった?」

「とにかく目にしていただくのがいいかと思います」

「分かった」



 ☆ ☆ ☆



 騎士に案内された場所にあった光景が信じられなかった。


「君の仕事は何かな?」

「主に備品関係の管理です」


 私の記憶は正しかった。

 そして、目の前の状況は彼の職務怠慢を意味していた。


「では、宝物庫にあるべき品物はどこへ行った?」

「そ、それは……」


 騎士が私の言葉に何も言い返せずにいた。


 連れて来られた宝物庫の中には何もなかった。

 いや、ほとんどの物は残っているのだがいくつか足りない物があることに入り口から簡単に見ただけで分かるほどスペースが空いていた。


「実は5日後に行われる勇者のお目見えで使用される王剣の状態を確認するべく宝物庫の鍵を開けたのですが……」


 勇者召喚から2週間。

 既に異世界から勇者を召喚した噂は広まっており、実戦を経て実力を付けた勇者を一般にも公開しようと前々から計画されていた。


 その際、王にも出てもらって儀礼が行われることになっていた。

 儀礼では王が王族だけが扱うことのできる特殊な力を秘めた剣――王剣が使われることになっていた。


「まさか……」


 騎士を置いて宝物庫の奥へと走る。


「ない……だと?」


 そこにあるべき王剣が置かれていなかった。

 他にも近くに置かれていたはずの貴重な武具が消えていた。


「何があった!」


 駆け寄って来た騎士に詰め寄る。

 王剣の消失など大問題だ。


「私が数時間前に確認した時には既になくなっておりました」

「最後に王剣を確認したのはいつだ!」

「勇者召喚が行われる前日に宝物庫の中にあった宝物を取りに来た際には王剣が残されているのを確認しました」


 勇者召喚には特殊な力を秘めた財宝がいくつも必要だった。そのため儀式を執り行う私も宝物庫に訪れて中を確認している。私自身がその時に王剣が残されているのを確認しているのだから騎士の記憶は正しい。

 それならこの10日ばかりの間に盗まれたことになる。


 いったい、誰が!? どうやって!?


 宝物庫の扉には物理的な方法で鍵が施錠されているだけでなく魔法による施錠も施されているため簡単に侵入できるような場所ではない。


「待て。犯人はどうやって宝物庫に入った?」

「……分かりません」


 騎士と共に宝物庫の入口へと戻る。

 あらためて扉を見てみるが犯人が宝物庫に侵入した方法が分からない。


「どういうことだ……?」


 一流レベルまで魔法を修めている私だから分かるが、扉に仕掛けられた施錠は破壊された様子もなく綺麗な状態で残されていた。扉を開けて入ったのだとしたら鍵は壊されていなければならない。正しい手順で開錠されている。

 後は扉以外の場所からの侵入が考えられるが、宝物庫には明かり窓があるだけで宝物を運び出せるほどのスペースはない。



「私はいつものように宝物庫へと入りました」


 鍵を使って決められた者が普通に入れば魔法は発動しない。

 魔法の鍵が壊れていない現状では、宝物庫に侵入した犯人は目の前にいる騎士以外に考えられない。


 問題は……


(仮に目の前にいる騎士が犯人だったとして、どうやって盗品を運び出した?)


 盗まれた宝物の量を考えると誰にも見つからずに盗み出せるとは考えられない。

 どれだけ考えても分からない。


「とにかく、お前は目録から盗まれた品の確認を急げ」

「はっ!」


 騎士がどこかへ走って行く。

 おそらく目録を取りに行ったのだろう。

 私には私のやらなければならないことがある。


「王剣を盗んだ犯人はなんとしても捕まえなくてはならない。あのような代物を大量に盗んだということは必ず何者かに売るはず。そこから犯人を見つけなくてはならない……」


 国の宝物を盗まれることは威信に関わる。

 なんとしても犯人だけは捕まえなくてはならなかった。


「まずは、陛下への報告が必要か……」


 数日後の儀礼では使用されることになっていたため中止するにしろ外見だけを似せただけの偽物を使用させるにしろ王には偽物であることが露見してしまう。偽物には王族だけが使える特殊な仕掛けが施されていないのだから当然だ。


 国宝が盗まれた。

 そんな前代未聞の事件を自分が宰相の時に行われてしまった責任を考えると胃が痛くなる思いだった。




 問題ばかり起こる。

 召喚された勇者の精神的ケア。

 行方不明の騎士。

 消えた宝物庫の財宝。


 彼の頭からは切り捨てた4人の少年少女たちのことなど抜け落ちていた。おかげで4人の中に犯人がいることに気付くのはかなり先のことになる。

鍵も含めて全てをゴッソリと収納、宝物庫にある宝物も全て収納した後で扉を元の状態で取り出す。

密室なんて関係ない完全犯罪が完成。

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