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第14話 封緘の棺

 落ちていた意識が浮上する。

 時間にすれば数秒もない。

 けれども、たしかに死んでいた。


 自分の体を確認してみる。

 全身が血に濡れて服も切れ端になって離れた場所に落ちている。

 誰も見ていなくて良かった。


 血と服の切れ端を収納して、新しい服を着せた状態で取り出す。

 着替えを一瞬で済ませるスキル――本当に便利だ。


 両手を掲げて上に投げていた物をキャッチする。


「無茶をしないで下さい」


 すると上空からショウが降りて来る。

 飛行ユニットがあるおかげで空を飛ぶことができるショウが一番高い場所にいたにも関わらず、仲間の中で真っ先に下りて来ることができたみたいだ。


「これが一番面倒臭くない方法だ」


 他にもいくつか倒す方法を考えていたが、逃げられない状態にして地面に叩き付ける。

 これが考えた中でも一番単純な方法だった。


「それは何ですか?」


 ショウの視線が今しがたキャッチしたばかりの物へ向けられる。


「敵が使っていた魔法道具だ」


 死ぬ前に空へ投げ飛ばした鉤爪の付いたグローブ型の魔法道具。地面に叩き付けると同時に壊れるのを避ける為に腕を引き千切って上へ投げ飛ばしていた。


 念の為に中身を確認してみる。


「うわっ」


 引き千切られた部分が残っており、血が滴り落ちていた。


「【収納(ストレージ)】」


 血や汚れ、中身については収納内で分離させる。

 とはいえ、どうしても必要という訳でない魔法道具なのでしばらくは死蔵させることになるかもしれない。


「戦闘相手の魔法道具を奪うのはいいですが、目的の物は手に入ったんですか?」

「もちろん」


 収納から棺を取り出す。


「良かったです」

「ただ、問題があるんだよな」


 奪い取ることには成功したものの、まだ終わりではない。


「とりあえず人が集まって来たので移動することにしましょう」


 野次馬が集まって来た。

 多くの人が行政の塔から出てきた人たちだ。

 慰霊塔の役割も担っている場所から人が落ちて来たのだから注目を集めてしまうのも仕方ない。


 とりあえず証拠隠滅を図ることにする。

 周囲に撒き散らかされた血や肉片を収納する。

 すると綺麗な地面へ早変わり。

 これで人が落下してきたという痕跡は残っていない。


 ただし、まだレイたちが集まっていない。

 塔を自力で昇っているのだから時間が掛かる。


 広い都市ではあるものの適当にしていても魔力の探知ができるようになったおかげで待ち合わせには苦労しなくなった。

 だが、この都市においては野次馬を気にするなど無意味だ。


「まさか。本当にソレを奪い取ってしまうとは恐れ入った」


 事故現場を確認する為に一番前にいた行政の塔の女性職員。

 その女性の口から男のような口調で言葉が発せられた。


「お前がイルミナティにいる人々を洗脳している奴だな」

「いかにも」


 その口調には覚えがあった。

 やり直す前に宿屋の受付の肉体が乗っ取られた時の口調だ。


「このような姿で失礼する」


 女性でありながら男性の口調で語り掛けて来る。

 どうにもちぐはぐな様子に困惑してしまう。


「一番前にいたから彼女の体を使わせてもらったが違和感がある、か……では、こうさせてもらうことにしよう」


 女性職員の指がパチンと鳴る。

 次の瞬間、後ろの方に居た男性職員が無表情のまま前に出て来る。

 先ほどまで会話をしていた女性職員は、それ以上動こうとしない。


「これで問題ないだろう」


 男性職員が会話を続ける。


「操作できるのは一人だけなのか?」

「全員に命令を下すことはできるさ。ただし、会話までするとなると私と意識を同調させる必要がある。さすがに『ワタシ』が全員であったとしても『私』は一人しかいないから会話は無理なのさ」


 宿屋で遭遇した時も会話をしているのは一人しかいなかった。


「黒幕であるアンタがいるなら聞きたいことがある」

「なにかな?」

「これは何だ?」


 棺を差し出す。

 収納したが、俺には詳しい事が分からなかった。


「これが『封緘の棺』だっていう事は分かった。だけど、中身が何なのかまで分からなかった」


 収納すれば名前や効果、使い方について分かるようになっている。

 しかし、封緘の棺については詳しい事が分からない。正しくは、封緘の棺以上の事が分からない。


「封緘の棺は、中にある物を封印してしまう物だ」


 収納しても封緘の棺を開けることは叶わなかった。

 現状では開封するのは不可能そうだ。

 しかも、あらゆる鑑定効果を無効化させてしまう力があるらしく、中身について知ることはできなかった。

 何よりも怖いのは、棺の中にしまった本人でさえ開封することができない、という強力な呪いが掛かっていることだ。


「私が中身について教えると思うのか?」


 少なくとも俺なら教えたりしない。


「てっきり俺は塔に人々を洗脳する何かがあると思っていたんだけどな」

「それは間違いだ。塔が持つ役割はむしろ逆だ」

「逆?」

「おっと、これ以上は教えるつもりがない」


 態と驚いたような表情をする男性職員。

 いちいち反応させることがムカつく。


「で、お前は何をしに来たんだ?」

「君のような存在が現れてしまうのは想定外だったからね。もっと近くで見てみたいと思ったんだ。ただ、それ以上にお礼を言いたかった」

「お礼?」

「私の目的を叶える為にはまだ数週間の時間が必要だった。けど、君たちが来てくれたおかげで私の計画は大幅に前倒しされることになった」

「なに?」


 もしかしたら非常にマズい事態になったかもしれない。


「具体的に言おう。あと24時間もしない内に私の目的は達成される」

「な!?」


 数週間必要だったのが1日になった?


「どうして、そんな事を俺たちに伝える?」

「これはゲームだよ」

「ゲーム?」

「現状、君たちが私の目的を阻止する為には、タイムリミットまでに私を捕まえるなり、殺すなりして無力化させる必要がある。そういうゲームを提案させてもらっているんだよ」


 タイムリミットを提示することによってゲーム性を持たせる。

 そういう事か。

 計画が前倒しされたことによって喜び勇んだ男にとって目的は達成されたようなもの。後はタイムリミットが来る瞬間を楽しみにしながら待つだけ、のような感じなのだろう。


「さあ、どうする?」

「……いいだろう。24時間以内にお前を見つけてやる」

「その瞬間を楽しみに待っているよ」


 男性職員に表情が戻る。

 表情が戻ったのは野次馬となっていた人々も同じで、皆一様に落下による事故現場を見に来たはずなのに何も起こっておらず、何が起こったのか訳が分からずに元いた場所へ戻って行く。


 街にいつも通りの喧騒が戻る。


「……とりあえず、どこか宿で休憩しながら話し合うことにしよう」

「大丈夫なんですか?」


 記憶にはないが、宿屋で襲われたのは事実。

 その事を思えば宿屋へ向かうのを躊躇してしまう。


「ああ、今度は問題ない」


 黒幕は、自分を見つけてくれるゲームを提案してきた。

 休んでいるところへ不意を突いて襲撃してゲームを台無しにするような真似はしないはずだ。

 最悪の場合には、もう一度やり直せばいいだけの話だ。

 とにかく今は休んだ方がいい。


「自力で塔を昇って戦闘までしたんだ。疲れた体を休ませた方がいいだろ」

「そう、ですね」


 同じように戦闘をしたはずだが、疲れた様子のないショウ。

 ただし、パーティに加わったばかりのメンバーの疲労を考えれば休ませた方がいいはずだ。


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