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第12話 空中戦

ショウ視点です。

 ソーゴさんが頂上に向かって進む。あの人の速度なら3分以内には目的の物を回収できる。

 僕の役割は、それまでの間を敵に邪魔されないようにすること。

 敵は、蝙蝠のような翼を背中に生やした男の魔族。


「なんだ、その背中にある物は!?」


 魔族は僕の背中にある物が気になって仕方ないもよう。


「これですか? これは、僕が作った飛行ユニットですよ」


 僕たちの中で一番強いソーゴさんもさすがに空中戦はできない。

 いや、収納の中から足場になるような物を取り出して空中を飛び跳ねるという事は以前にしたことがありますけど、あまり自由に空を飛び回れるような方法ではありませんでした。


 彼の役に立つにはどうすればいいのか?


 ソーゴさんが適応することのない場所でも戦えるようになろう。

 色々と考えた結果、そういう結論に至った。


「けっこう苦労したんですよ」


 飛行ユニットは、円盤状の物から左右と下、間の斜めに2つずつ――計7個の筒が取り付けられており、斜めに取り付けられた4つから炎を出して空中に浮いている。


 炎を噴き出した時の推進力を利用して空を飛ぶ仕組みになっている。

 さらに炎を出す方向を自由自在に変更する事で飛ぶ方向も一緒に変える。


 構想自体は、アニメのロボットから取っていたからすぐに作る気になったし、炎に必要な燃料もレイさんが薬品から用意してくれて飛行ユニットの内部に大量に詰め込んでいる。おかげで20分の飛行は可能になった。


 問題だったのは炎を噴き出すオンとオフの切り替え。

 最初に考えたのはスイッチによる操作。

 けど、その方法だとスイッチが7つもあると間違える可能性が高いし、操作している時間が惜しい。


 他にも試行錯誤したけどいい解決方法がなかった。


 そこに僕自身の意思が介在する以上は、絶対にタイムロスが生じる。

 だから――僕が操作しないことにした。


「よろしくシルバ!」

「空中は私の独壇場だ!」


 魔族が翼をはためかせて塔から離れる。


 それを追う。

 僕の手には槍が握られている。

 材料は、塔にあった鉄骨の一部を利用させてもらった。塔を支える為の支柱だったため下手な金属よりも頑丈にできている。


「チッ、速い!」


 蝙蝠魔族が槍による突きを回避する為に左へ逸れる。

 高速で飛んでいる僕はそのまま魔族の右を通り過ぎて行く。


 僕の視界がグルン、と回転する。

 目の前には攻撃を避けられたはずの魔族の背中がある。


「な!?」


 振り向いて僕の存在に気付くけど、まるで遅い。

 槍を叩きつけて魔族の体を塔まで吹っ飛ばす。


 鈍い音を立てて衝突する。


「あり得ない……」


 魔族がゆっくりと僕と同じ高さまで浮かび上がって来る。


「私は念願だった空を飛ぶ術を手に入れた。相手が勇者とはいえ、ここは私のフィールドだ。自由にさせる訳にはいかない!」


 魔族の周囲に黒い棘がいくつも生まれる。


「闇魔法か」


 闇魔法は、攻撃を受けると物理的なダメージもそうだけど、気が落ち込んだり、中には病に陥らせたりするほど厄介な物もあるって聞いた事がある。


 目の前の棘は掠るだけでも体が斬られて痛そうだ。


 もっと怖いのはスキルを制御する気が失われる事。

 こんな空中でスキルが制御できなくなれば地面まで真っ逆さまに落ちていくことになる。

 そんな事態だけはゴメンだ。


 一斉に解き放たれる棘。


「行くよ」


 背中からシルバの同意する意思が返って来る。

 飛行ユニットを使って体を前へと進ませる。


「……は?」


 魔族が呆けている。

 体一つ分しか滑り込ませられない棘の中を進む。


 時には左へ体を傾け、体を落とすことによって棘をやり過ごす。


「捕まえた」


 シルバの体の一部を変化させて造ったガントレットで魔族の頭を掴む。

 実際の腕よりも大きく造られたガントレットは難なく頭を掴む。


「ク、クソ……どうして、こんな簡単に……」

「単純にステータスの差でしょう」

「ステータス?」

「この塔において空を飛べて遠距離から攻撃ができるあなたの闇魔法は脅威と言っていい。けど、こっちはそれなりの場数を踏んで来ているんです。落ち着いて見れば棘を見切る事なんて簡単です」


 僕へ一撃でも当てる為に縦横無尽に放たれた棘。

 けれど、上がったステータスが棘の動きを捉えてゆっくりと見据えることができるようになる。


 後は、棘の動きに合わせて飛行ユニットを動かせばいい。

 細かな操作が必要な飛行ユニットだけど、どこへ動かせばいいのか見切った僕の意思を従魔契約しているシルバに伝える。食事や睡眠を必要とせず、単純作業が得意なスライムであるシルバは僕の意思を受け取った瞬間に正確な方向と距離に適した方向へと炎を噴き出させる。


 僕一人だとここまで自由自在に動かす事はできなかった。


「調子に乗るなよ」


 魔族が魔力を全身から迸らせる。


「これは……」


 黒い靄のような物が魔族の体から流れてガントレットを覆って行く。


「ははっ……私の黒魔法は触れた者の気力を削ぐ。力を失って、そのまま地面まで落ちて行くがいい」


 流れてきた黒い靄がガントレットから流れて……来ない。


「ど、どうしてだ!?」


 顔を掴まれて視界が塞がれているせいで見えていない。

 それでも自分の魔法が相手に届いていないことは分かるらしい。


「残念だったな。このガントレットはスライムの体を利用したものなんだ」

「スライムだと!?」


 スライムは不眠不休で動き続けることができる。

 そこに感情はあっても気力などという曖昧な精神力は存在していない。


 それにスライムは病気にもならない。


 だから、闇魔法を使うと分かった瞬間に武器にはシルバの体を変形させた物を使うと決めた。


「そろそろいいでしょう」


 上に向かったソーゴさんが目的を果たした頃。


 ガントレットに力を籠めて行く。

 魔力による筋力補助もあってギチギチと魔族の頭を締め付けて行く。


「ま、まさか……そんな事は止めろ!」


 言われても止めるつもりはない。

 空を自由に飛べる特性を持つ男は放置してしまうと逃げられてしまう可能性が高い。

 心配のタネになるような物は排除しておきたい。


「私はこのような所で死ぬ訳には……どうせ見るなら死んだ後ではなく、生きている内がいい――」


 男の声が途切れる。


 ポタポタと地面に向かって落ちる赤い液体。

 手を広げて魔族の体を足場に落とすと首から上が潰れたトマトのようになっていた。


「この倒し方は次から控えよう」


 死体を見て決意する。


 それよりも気になるのは男が最後に言っていた言葉だ。


 ――どうせ見るなら死んだ後ではなく、生きている内がいい。


 思考が魔族の言葉へと一瞬だけ移る。

 しかし、直後頭上からソーゴさんが降って来る。


「何をやっているんですか!?」

「目的は達成した。さっさと脱出するぞ」


 雷を纏った何かが鉄骨を下へ向かって駆け抜けて行く。


「追って来るのはいいけど、無意味な事をするな」

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