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第10話 射撃

 複雑に組み立てられた鉄骨。

 その間を縫うように1本の矢が縦横無尽に動きながらアンへ迫る。

 わたしの撃った弾丸が矢を粉々に吹き飛ばした。矢は木で作られていて金属の弾丸が当たれば粉々に砕けるのは当然の事だった。


「あっぶな……」


 塔を登りながらアンが自分に迫っていた矢が吹き飛ばされる光景を見て呟いた。

 両手で鉄骨を掴んで塔を登っている状態では、迎撃することができないからヒヤヒヤするのも仕方ない。


「行って! 矢はわたしが行かないようにするから」

「任せた!」


 そのまま再び塔を登り始める。


「行かせない」


 今度は3本の矢が放たれた。

 狙いはユウカ、ハルナ、レイの3人。


 左手に持った銃でユウカに迫っていた矢、右手に持った銃でハルナとレイに迫っていた矢を吹き飛ばす。


 3人とも目線だけでお礼を言って塔を登り始める。


「あなた……」


 女が下にいるわたしに弓矢を向けて来る。


「遅い」


 放たれた1発の弾丸が矢を放とうとしていた女――アーシャの手前にあった鉄骨に当たる。


「障害物が多すぎ」


 鉄骨に阻まれている間に隣へと移動されてしまった。


「……変わった射撃武器を持っている」

「そう? わたしたちの世界だと一般的な武器なんだけどね」


 鉄骨の向こう側を走るアーシャを追いながら銃弾を放つ。

 3発は鉄骨に当たって阻まれたけど、4発目は鉄骨の間にある隙間を通り抜けて空の彼方に飛んで行った。


「銃弾は通る」


 最悪のパターンは鉄骨の間にある空白部分に不可視の壁があること。


「なら、あたしにも対処できる」


 次に撃った2発の弾丸は隙間を通り抜けて行った。


「本当、あの二人には感謝してもし切れないわね」


 わたしが使っている銃。

 もちろん地球で使い親しまれていた本物の銃なんかじゃなくてソーゴが使っている物と同じ収納した物を射出する銃型のアイテムボックス。

 その中でも暇な時間を見つけてはソーゴとショウが改良案を出し合って現段階では完成させた銃弾を射出することに特化させた銃。引き金を引くだけで収納されていた弾丸が射出されていた。


 銃だけじゃない。弾丸の形までリアルに再現されていた。

 こんな物を特別に作ってくれたのには理由がある。


 わたしのスキル【射撃】。

 本来は、銃なんて存在しない世界のスキルらしく弓矢みたいな射撃武器を用いた時の命中精度を高める為のスキル。変わりどころとしては投石器が用いられる場合があるとは聞いたことがある。


 わたしもソーゴたちと合流するまでは弓矢で攻撃していた。

 ただ、現代人としては弓矢は非常に使い辛かった。


 スキルの使用に最も大切なのはイメージ。

 この世界に来てから練習はしたけど、それまで弓なんて触ったことすらなかったわたしが簡単に上達できるはずもなかった。

 あくまでもスキルのおかげで戦えていた。


「その点、銃ならゲームセンターで何度も遊んだからイメージがしやすいわ」


 相手に狙いを定めて引き金を引く。

 真っ直ぐに飛んで行った弾丸がアーシャの服を掠める。


「惜しい!」


 鉄骨しかない足場で体勢を崩すアーシャ。

 そのまま足場の上を転がりながら3本の矢を放つ。


「なにそれ!」


 適当な方向へ飛んで行った3本の矢。

 けれども全ての矢が同じタイミングで進行方向をわたしへと変える。


「これがアタシの能力――『射撃操作』」


 アーシャの手から射られた全ての攻撃は、飛んでいる途中であろうとも進行方向を自由自在に操ることができる。


 似たようなスキルを持っているわたしには分かる。

 さっきソーゴの持っていた盾を壊したのだって全ての矢を同じ場所に進ませることで先頭を飛ぶ矢が空気抵抗を引き受けて、2本目以降の矢は空気抵抗を受けることなく勢いを保ったままに当たることができる。


 しかも鏃には特殊な金属を使っているのか弾丸の直撃を受けても鏃だけは原形を保っていた。


「甘い!」


 別方向から同時に襲い掛かられた時には驚いたけど、冷静になれば対処できなくはない。

 左右の矢を撃ち落とした直後に正面へ向かって銃弾を放つ。


 全ての矢が叩き落とされているにも関わらずアーシャは5本の矢が弓に番っていた。


「げっ……」


 しかも、今放とうとしている矢の前に射っていたらしく20本の矢が雨のように頭上から降り注いでいた。


「連射、連射、連射っ!」


 頭上に弾幕を張る。

 尽きる事のない弾丸は正真正銘の壁になって全ての矢を防いだ。あるだけの弾丸を撃ったはずなのに尽きる様子がない。

 一体、どれだけの弾丸を造ってくれたんだろう?


「やる……普通は、大量の矢を見せたら逃げるものなのに」

「逃げても追って来るんでしょ」


 『射撃操作』なんて特性を持っている相手に逃走は意味を成さない。むしろ無防備な背中を晒すだけになる。


 だから、わたしにできるのは……


「……どういうつもり?」


 目を瞑って銃を構える。


「これからあなたを撃ち抜く」

「意味が分からない」


 何も聞こえない。

 代わりに意識が研ぎ澄まされて行く。


 目を閉じたわたしの耳にアーシャの足音が聞こえて来る。

 わたしの隙を窺っているみたいで右側へ回り込もうとしている。


 そのまま走りながら矢を射る。


 右手に持った銃で矢を撃ち落とす。

 1発……2発……3は


「そこ!」

「っ!?」


 右手に持った銃から放たれた弾丸がアーシャの右太腿を貫通する。

 さらに胸で隠すように持った左手の銃でアーシャの射った矢を撃ち落とす。


 足を撃ち抜かれたせいで足場から滑り落ちていた。


「ここに来るまでの間に魔物を相手に練習したけど、人間ほど色々と考えて行動しないから少し自信がなかったの」


 動く相手を射る練習は弓矢でもしていた。

 銃でも魔物が相手なら問題ない事は分かっていた。


 問題は、わたしの動きを読んで攻撃を回避してくる相手にも攻撃を当てることができるのか。


「スキルはイメージすればするほど力を高めてくれる。こっちの動きを読んで縦横無尽に動き回る相手に当てる為にはかなり集中しないといけないけど、しっかりとイメージすることができれば当てられる」


 撃ち抜かれる前にアーシャがいた場所に立つ。

 すると10メートルほど下にある鉄骨に右手でしがみ付いて左手には弓を持っていた。


「その状態で矢を射ることはできないでしょ」


 弓矢は両手でなければ使うことができない。

 片手だけが使えたところで攻撃できるはずがない。


「アタシを攻撃できるの?」

「もちろん」


 弾丸が鉄骨を掴んでいた手を貫く。

 すると鉄骨を掴んでいられなくなり地面へと真っ直ぐに落ちて行った。


「アレを直接見られないのが残念だけど、あの世で待っている」


 アーシャが地面に落ちる。

 高すぎてどうなったのか分からないけど、間違いなく死んでいるはず。もっと悪い場合には何も残らずに地面の染みになっている可能性が高い。


「わたしたちはとっくに覚悟を決めているの」


 覚悟を決めていなかった勇者がどうなったのかは聞いた。

 これまで人を殺した事のないわたしたちだったけど、人を殺す事によって何かが変わってしまう事よりも事態が何も変わらない事を恐れた。


 何よりもアンの弟と同い年の後輩たちが頑張っているのに先輩のわたしたちが情けない姿を見せる訳にはいかない。少しは役に立てるんだっていうところを彼らに見せないといけない。


「最後に呟いた言葉が気になるけど……」


 地面に落ちて行く間も塔の頂上部分を見ていた。

 わたしも塔を見上げると最上部で稲光が発生した。


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