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第9話 塔を登る―後―

 ソーゴの体が半分に分かれた瞬間、ショウとハルナ、レイがアンとミツキ、ユウカを抱えて後ろへ跳んで距離を取る。こういう非常事態に真っ先に動けるのは彼らの方が危険な場面に遭遇した経験が多いからだ。

 マコトは自分で離れている。


「ちょっと……!」


 抱えられたアンは不満そうにしている。


「ソーゴを助けないと」

「そんな必要はありません」


 体が上下に分かれてしまった人間。

 普通に考えれば手の施しようなどない。


「安心しろ。全員、あの世に送ってやるから」


 倒れたソーゴの前に立っていた男。

 全身を忍者のような黒い装飾に身を包んだ人物なのだが、右腕の肘から手首にかけて長い刃が取り付けられていた。


「ロットの奴から『洗脳』が通用しない奴がいるって教えられた時は驚いたけど、まさかここへ真っ先に来るなんてな」

「やっぱり、ここには何かがあるんですね」

「ああ、あるぜ」

「一体、何が?」

「それはな――」


 ――カン!


 忍者のような出で立ちの男の足元に矢が突き刺さる。


「喋り過ぎ」


「そうだな。アーシャの言う通りだ。ここで死ぬような奴らに教えたところで意味なんてないよな」


 男がニタァと笑う。

 全員を殺す、と宣言している。


「これ以上の情報は引き出せそうにありませんか」

「いや、十分だ」

「……!」


 足元から聞こえて来た声に男が視線を落としながら振り返る。

 だが、振り返るよりも早く足首を掴まれてしまい足場に叩き付けられていた。



 ☆ ☆ ☆



「クソッ……一体、なんなんだ!?」


 足場に倒された男が血を流した鼻を押さえながら倒れたまま振り返っていた。


「ど、どうしてお前が立っているんだ!?」


 そこには万全な状態の俺が立っていた。

 もちろん下半身もきちんと繋がっている。


「こっちは『再生』能力を持っているんだ。上半身と下半身が分かれた程度の傷なら数秒もあれば元に戻す事ができる」


 目の前の男がペラペラと喋っていて俺から意識を逸らしていた間に再生させてもらった。こいつにとって殺したと思っていた相手は意識を向ける価値もない。だからこそ必要以上の苦痛を味わうことなく再生させることができた。


「大丈夫ですか?」

「ああ、服を一式無駄にしたぐらいで問題ない」


 離れているレイが確認してくる。

 彼らは俺に再生能力がある事を分かっていたからこそ慌てることなく自分たちの安全を優先させていた。


 被害と言えば血で濡れてしまった服ぐらいだ。

 立ち上がる前に収納から別の服を着た状態になるよう取り出していたので裸を晒すこともない。


「それにしても……やっぱり、上に何かがあるんだな」

「……! ち、違う。上に行ったところで何もない」


 嘘が下手な奴だ。

 忍者みたいな服装をしている癖にワタワタと手を振りながら汗まで流している。


「馬鹿……」

「仕方ねぇだろ」


 矢を射って来た女――アーシャも忍者風の男の言動に呆れていた。

 これで上へ行かなければならないのは確定した。


「とりあえず一発殴らせろ」

「は? 何を言って――」


 突然の宣言に戸惑っていたが、構わずに腹を殴る。


「……かはっ!」


 口から色々な物を吐き出しながら塔の端まで吹っ飛んで行く。


「いくら再生できても痛いものは痛いんだよ」


 切断された直後は焼かれたような熱を感じていた。

 そのままの状態を保つ為に意識を維持し続けるのは地獄にいるのに等しかった。


 しかし、突然の襲撃に対して少しでも情報が欲しかった身としては死んだフリをするだけで相手の情報を探れるのは安い物だった。


「……ん?」


 塔の端まで吹き飛ばされた男。

 吹き飛ばされた先はちょうど上へと延びる鉄骨があり、そのまま吹き飛ばされていれば確実に叩き付けられているはずである。


 塔から追い出して放置するのも危険だったため鉄骨に叩き付ける事を選択したが、叩き付けられた音が全く聞こえて来ない。


 それどころか……


「後ろ!」


 前へ跳ぶ。

 同時に回転しながら剣を振り下ろすと足場の鉄骨から上半身だけを露出させて腕に装着した刃で斬り掛かってきた男がいた。


 剣と刃が衝突する。

 二人の攻撃が衝突すると体ごと弾かれる。


「そういう能力か」


 殴り飛ばされた先に男の姿はなかった。

 その代わりに水面から上半身だけを出したように鉄骨から上半身だけを出した状態で後ろへ飛ばされていた。


「どういう能力なんですか?」

「細かいところまでは分からない」


 能力の詳細が分からなくても『できる事』が分かれば十分だ。


「あいつは、鉄骨の中に潜って自由に移動することができる」


 物体の内部を水中のように移動することができる。

 少なくとも鉄骨の中を移動できるのは間違いない。


「暗殺者としては最も厄介な特性だ」


 なにせ、どんなに守られた建物であろうとも易々と侵入することができる。


 さらに相手の意表を突いて移動する事も可能になっている。

 俺が斬られた時も目の前にいつの間にか現れていた。おそらく、俺たちが見ていない場所から鉄骨の内部に侵入して足元にある鉄骨まで移動してきた。

 そこからは姿を晒せば簡単に斬ることができる。


 誰にも気付かれずに近付くことができる特性。


「けど、近付くところまでだ。殴られた事で俺に対する殺気が隠せなくなったのか姿を晒した瞬間に気配がバレバレだったぞ」


 とはいえ、咄嗟に背後からの攻撃に反応することができた程度だ。


「なるほど。テメェを殺すのは無理みたいだ」


 男の姿が消える。


「――死ね」


 次に現れたのはアンの左。


「――え?」


 突然の襲撃にアンは反応できていない。

 再生されて致命傷を負わせても無意味。殺気を感知されて奇襲も意味を成さなくなり始めた。


 そこで、男が取った選択が他の者から倒す。

 距離も離れている為に姿を晒してからの殺気にを感知して対応しているようでは対処することができない。


 そう――姿を晒してからでは……


「ぶべっ!」


 男の顔を掴んで足場に叩き付ける。

 攻撃しようとしていたところだったため特性を発動させられる状態ではなかったので顔面を足場に叩き付けた瞬間はダメージを負っていた。

 だが、すぐに鉄骨の中に潜り込むと姿を消す。


 すぐに離れた場所に姿を現す。


「――どうして、俺の出現場所が分かった」

「分かった……と言うよりも知っていたっていう方が正解かな」


 俺以外の人間を狙う。

 確率は7分の1で誰が狙われるのか予測するのは難しい。


 だから、先に答えを知った。


 腕に装着した刃によってアンの体がズタズタにされる光景を見てから時間跳躍してアンをギリギリで助けられるようにした。


 一見して無敵のように思える対処方法だが、『聖典』は魔力を使用してしまうので無限に対処することができる訳ではない。


「ふざけた事を言いやがって!」


 よく分かっていない男は怒鳴っていた。

 仲間は俺が時間跳躍した事を理解しているみたいで頷いていた。


「それで、どうするの?」

「マコト!」

「は、はいっ!」


 ハルナたちでも殺気を感知することは出来ているみたいだが、咄嗟に対応する事ができるのか自信がないみたいだった。

 だから、男への対処はマコトに任せる。


「覚えた(・・・)か?」

「……完全ではありませんが、最低限の対処ができる程度には記憶してあります」

「それで十分だ」


 この時間へ跳ぶ前に襲われた俺たちだったが、俺とマコト以外は突然の奇襲に対して全く対処できずに斬られていた。

 俺以外で唯一対処できていたのがマコトだ。


 あの時点へ戻ったのも意味がある。


「こっちは任せた。俺は上へ向かう」


 こんな人員を配置してまで守りたい物。

 それが気になって仕方ない。


 収納から錨と鎖が繋がった魔法道具を取り出すと錨を上に向かって投げる。錨は100メートル近く上にある足場に突き刺さり、長い鎖が手元に残っていた。


「じゃ、後はよろしく」


 魔法道具の力を発動させると長い鎖が鏃の内部に向かって巻き取られて反対側を握っている俺の体が持ち上げられて行く。

 鎖は魔力で造られた物で巻き取ることができるようになっている。


「行かせるか!」

「……逃がさない」


 忍者風の男が姿を消して、アーシャが弓矢を射って来た。

 どうしても上へ行かせたくないらしい。


「残念ですけど――」

「あなたたちの相手はわたしたち」


 マコトが40メートル先まで移動して足元の鉄骨を剣で叩き、ミツキが手にした銃で矢を撃ち落としていた。

 二人の魔族に対して相性のいいスキルを持っている二人に魔族の対処は任せた。


 ショートカットした俺。

 眼下を見ればハルナ、レイ、アン、ユウカの4人が四方へ散って塔を登り始めていた。敵はマコトとミツキに任せる事にして塔を登り始める事を選んだみたいだ。


「で、お前はどうする?」

「……気付いていやがったか」


 俺が態々先に一人で到達した理由。

 3人目の敵が塔の外側で待機していからだ。


「今度は空を飛べる奴か」


 塔を登っている最中に外から攻撃されれば対処は難しい。最悪の場合には転落する危険性だってあった。


「お前たちは危険だ。ここで始末を――」


 何かを言おうとしていた魔族が下から蹴り上げられて飛んで行く。


「これは僕が対処します。ソーゴさんは先に向かって下さい」


 魔族と位置を入れ替えたのは炎を噴き出す円形の装置を背負ったショウだった。

 いつの間にか空を自由に飛べる装備を造っていたらしい。


「いいのか?」

「これ以上の高さまで女性陣を登らせるのは酷です」


 地上は……もう見てはいけないレベルの高さだ。


「……分かった。さっさと終わらせてくる」


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