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第4話 イルミナティ

 国境の街バーティスで1日を過ごした5日後。

 俺たちは巨大な壁で囲まれた大都市――副都イルミナティの前まで来ていた。


 車での移動速度なら2日後には辿り着けたはずだが、クウェイン王国での俺たちは勇者である事を一切隠さずに行動するつもりでいるので、勇者の移動速度に合わせた移動をしている。


 街へ入る為には厳しい検問があるらしく、門の前では長い行列ができていた。


 入場を待つ行列に俺たちも並ぶ。

 勇者としての立場を利用すれば待たなくても入れるかもしれないが、順番を無視するような行動は良く思われない。態々自分から一般人の反感を買うような真似をする必要はないので素直に並ばせてもらう。特にこれと言って急いでしなければならない予定もないので問題ないだろう。


 最後尾に並ぶが、入場できるまでかなりの時間が掛かりそうだ。

 こうなると暇を持て余して退屈してしまう。


「しかし、デカい都市だな」

「都市を囲う壁も大きいですね」


 街を囲う外壁。

 魔物が存在するこの世界にとって魔物という脅威を忘れて生きる為には必要不可欠な物。

 小さな村では簡単な柵で囲うだけで終わらせてしまう場合が多いが、大都市のように余裕があれば安全の為に壁を用意する。


「でも、この街の外壁はメテカルの……ううん、メグレーズ王国の王都にあった外壁よりも大きいよ」


 ミツキ先輩が言うように今まで見て来たどの外壁よりも大きかった。


「アンタたち、イルミナティは初めてかい?」

「はい」

「だったら、この街の外壁の大きさに驚くのも納得だよ」


 列に並んでいると前にいた商人風の男が話し掛けて来た。


「この街は大昔は王都だったんだけど、魔王が復活した時に襲われて廃墟になっちまったらしいんだよ」

「あ、その辺の話は知っています」

「そうかい? その後で、イルミナティの再建計画を考えた奴の中にもう一度魔王軍に襲われて壊滅させられるのを畏れた臆病者がいたみたいでね。外壁を通常よりも厚く、高く造ったみたいなんだよ」

「なるほど」


 商人の言葉には納得できた。

 過去の悲惨な出来事を教訓に同じような襲撃があったとしても無事でいられるよう防御を完璧にした。


 しかし、物理的な防御を完璧にした代わりに魔王軍は搦め手で攻めて来たらしい。


 これでは堅牢な外壁も意味を成さない。


「それだけじゃない。イルミナティの北は人が住むには適さない土地だ。そのせいもあって東西を行き来する人のほとんどはイルミナティを経由する」


 今までに見たことがないほどたくさんの人がいるのは、そういう理由があった。


「これだけ沢山の人が集まるんだ。当然、悪い事を企む奴だっている。そういう奴が街に紛れ込まないように厳重な警戒がされているんだよ」


 もちろん、その逆に街から出さない意味もある


「それで、街へ入る為に時間が掛かっているんですね」

「ま、これもイルミナティの名物みたいなものだ」

「教えてくれてありがとうございます」


 レイがお礼を言うと列が動き出した。



 ☆ ☆ ☆



 1時間後。

 ようやく俺たちも門の前まで辿り着いた。


 目の前にある門の前では、6人の衛兵が街へ入ろうとしている人や馬車の検査を行っており、その奥では10人以上の衛兵が無謀に侵入しようと考える者を警戒しているのか武器を手にして立っていた。


 馬車を利用していた商人などは、乗っていた馬車の荷物まで確認されていた。

 冒険者であり、基本的に手ぶらとも言える俺たちは身体検査とアイテムボックス内の確認がされるだけ。後は、バーティスの時と同じように身分証を見せれば街の中へ入れてもらえる。


「ゆ、勇者様!?」

「その通りです。問題なく街へ入れますね」

「はい!」


 兵士が門の左右に立って敬礼してくれる。

 この世界の人にとって勇者は尊敬すべき存在。

 これぐらいの待遇はされて然るべきらしく、特に怪しい物を持ち込んでいる訳でもないので簡単に通してくれる。


「この後はどうしますか?」

「そうですね。こうして街の中を見ても怪しいところなんてないし……」


 報告書や集めた情報からでは具体的な怪しい場所が分からなかった。

 どこから手を付けるべきか迷っていたため行き当たりばったりで挑むしかない。


「とりあえずは拠点にできそうな場所を……」


 探そう――そう言おうとしたところで体に静電気のような物が走るのを感じた。

 実際に静電気が走った訳ではなく、まるで心を――魂を揺さぶられるような感覚を覚えた。


「なんだったんだ?」


 思わず足を止めてしまう。

 先頭を歩いていた俺が足を止めたことで後ろを歩いていた仲間が抜き去っていく。


「……なんだ?」


 止まったから抜かれた。

 特におかしなところはないにも関わらず、どうしても違和感を拭うことができない。


「おい……!」


 7人とも足を止めた俺に構わず先へ進んで行く。

 先を歩いている7人も仲間同士で話をすることなく先へ進む事だけを考えて足を動かしている。


 そして、7人の行き先はバラバラだ。


 街に入ってすぐの場所は広場になっており、広場から先は3本の大きな道が延びている。

 西へ延びている道にはショウとハルナ、レイの3人。

 北西へ伸びている道には長谷川姉弟。

 南西へ伸びている道にはミツキ、ユウカペア。


 おそらく別れ方に理由はなく、単純に近くにいた者同士で分かれている。


「一体、どうしたんだ?」


 ショウよりも近くにいたマコトの肩を掴んで振り向かせる。


「……っ!」


 思わず息を呑んでしまった。

 振り向かせたマコトは、俺の事を全く見ておらず、どこか遠くを見ていた。


 その表情を見ていると恐怖が沸き上がって来る。


 ――明らかに正常ではない。


「そういうことか!」


 街に入ったら洗脳をして来る相手に気を付ける。


 そんな考えは甘かった。

 街に入った時点で洗脳に必要な条件を満たしてしまっている。


「どうすればいい……」


 俺が無事な理由。

 洗脳された状態から元に戻す理由。


 色々と考えなければならない事はある。

 そんな事は、洗脳された7人が取った行動のせいで考えられなくなってしまった。


「は……?」


 マコト以外の6人が同時に脱兎の如く街の奥へと姿を消した。


 俺に肩を掴まれていたマコトだけは、掴まれているせいで逃げ出すことができずにいたため腰に差していた剣で俺に斬り掛かって来た。


 咄嗟に後ろへ跳んで回避する。


 マコトの追撃を警戒していたが、マコトが襲って来ることはなかった。

 彼もまたすぐさま街の奥へと逃げ出していた。


「今のは本気の斬撃だった」


 マコトの斬撃は俺の腕を斬り落とすつもりのものだった。

 ステータス差があるおかげで本当に斬り落とされることはないだろうが、軌道は間違いなく本気だった。


 新たに加わった仲間のスキルについても聞いており、マコトの持っているスキルは使い方次第では、この世界にいる誰よりも強くなる事が可能だった。

 残念ながら十全に使えていたとしても俺とのステータス差は覆せないけど。


「街に入った瞬間に洗脳されるとか厄介過ぎるぞ」


 見上げると空が見えていた。

 いつの間にか厚い壁を越えていたみたいだ。


 それにしても厄介な事態になった。


「戦うつもりがないのか」


 相手の魔族は、洗脳する事に長けた特性を持っているはず。

 そのせいか今まで戦って来た魔族のように姿を簡単に見せるような事はない。


 その程度の事は最初から予想できたから、相手を探し出すことに苦労させられると思っていた。

 だから、探し出す前から苦戦させられるとは思っていなかった。


 何よりも困ったのは、洗脳の方法が分からなければ元に戻す方法が全く分からない事だ。


 あまりに情報が不足し過ぎている。

 だから――洗脳された状態から元に戻すのは諦める。


「――やり直しを要求する」


 収納から聖典を取り出し、呪文を詠唱して過去へ跳ぶ。

 洗脳された状態から元に戻す方法が分からなかったとしても、洗脳される前まで戻ってしまえば問題ない。


入った瞬間に洗脳される都市へ潜入。

最初からムリゲーっぽい。

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