第24話 帰還手段
帰還手段。
それは、魔王を倒しても元の世界へ帰ることができないと知った者なら誰もが望む物だろう。
「ど、どうしてそんな物を持っているの!?」
「そっか。さっき盗んだ物の中にあったんだ……」
落胆するハルナ。
帰還手段が手に入った事そのものは嬉しかったが、結局スタート地点に戻って来たことで手に入ってしまった。
これまでの自分たちの旅は一体なんだったのか……?
「いや、俺が手に入れたのは日記に書かれていた『楽園へ行ける魔法道具』じゃないからな」
「じゃあ……」
「今回王城にある宝物庫から拝借した物と帝国の帝城にある宝物庫から拝借して来た物を組み合わせれば元の世界へ帰れるかもしれない」
その効果は、楽園へと行けるような効果とは程遠い。
しかし、俺の思い通りなら世界すら超えることが可能なはずだ。
「もっとも試してみないと本当に世界渡りができるかは分からないけどな」
それでも可能性がない訳ではない。
「なら、こんな所にいないでさっさと試して下さい」
レイが急かしてくる。
彼女だって元の世界へ帰りたくて涙まで流していた。可能性があるなら縋りたくなってしまうのはおかしな事ではない。
だが、試さなくても不可能な事は分かっている。
「この方法で世界を越える場合には膨大な魔力が必要になる。それも、本来は武器として使用される魔法道具だから使用者の魔力だけで補う必要がある。今の俺でも世界を越える為には足りない事ぐらいは分かる」
「そんな……」
肝心の魔力が足りない。
これでは世界を越えるほどの効果を発揮してくれない。
「具体的にどれぐらい足りないか分かる?」
俺たちのステータスについては知らない長谷川先輩が尋ねて来る。
これまでは事情説明だけで終わらせるつもりでいたから異常なステータスについてまで教えるつもりがなかったが、仲間になるなら詳しい事情まで教えた方がいいかもしれない。
とはいえ、魔王軍四天王に勝てるぐらいの魔力を持っている事は説明しているので膨大な量を持っているのは分かっているはずだ。
「今の魔力が5万とちょっとなので、その魔法道具を使う為には最低でも7万、余裕を見るなら8万は欲しいところですね」
「ちょっと待って!」
想像以上の数値に長谷川先輩が頭を押さえている。
徐に自分のステータスを確認する。勇者のステータスは一般人よりもレベルアップ時の上昇が大きい。それでも成長途上の今で魔力の上昇が大きい者でも1000に届くかどうかというところ。
「あたしたちのパーティだと優香の魔力が一番高いんだけど……」
「それでも800ですよ」
つまり、五条先輩の100倍近い魔力を必要としている。
「む、無理です……! どれだけレベルを上げれば追い付けるんですか……!?」
「まあ、その辺りは裏技を使っているので問題ないですよ」
せっかくなので予備に用意しておいたアイテムボックスを渡す。
「わっ……!」
装備した瞬間に上がったステータスに驚いている。
あれは、もしもアイテムボックスが破壊された時の為に備えて作っておいた物で収納されているステータスは大したことがない。それでも1000は上昇されるようにしてある。
「これが俺たちの強さの秘訣です。そのアイテムボックスは、俺の【収納魔法】を元に造られています。アイテムボックスだとその程度のステータス上昇しか望めませんが、【収納魔法】の場合は、その10倍近い効果が見込めると思って下さい」
「分かったわ。そんな途方もない魔力を手に入れられるっていうことを信じるわ」
納得してくれたみたいなので今後の方針を伝える。
元の世界へ帰る為に必要な魔法道具を使用する為に必要な魔力を得る為に魔物と魔族を狩りまくる。
「残念ながら、ここまで上がってしまうと雑魚を倒して収納してもステータスが上がらなくなって来たので狙うなら強い奴です」
「強い奴?」
部屋の中心にあるテーブルの上に1枚の紙を置く。
その紙にはメグレーズ王国が他国に放った諜報員が集めた情報が記されていた。
「経済とか政治の情報はどうでもいいです」
今見なければならないのは下の方に書かれていることだ。
「魔族に占拠された街……?」
「詳しい事は調査中みたいでまだ分かっていないみたいですけど、魔族が街の住人を洗脳して支配しているみたいです」
下手に近付き過ぎてしまうと自分たちまで洗脳されてしまう。
既に国の重要機密が記憶されている以上、自分たちが捕まって洗脳された後に情報を吐かされるような事態があってはいけない。
捕まった時のリスクを考えて潜入ができずにいるらしい。
「街一つ分の住人全員を洗脳。いくら魔族が強力な特性を授かるとはいえ、ここまで強力な特性が普通の魔族に手に入るか?」
「たしかに」
ショウ、ハルナ、レイの元から仲間だったメンバーは頷いていた。
思い出しているのはこれまでに出会った魔族たち。ショウたちが帝都で戦った魔族でさえ強力な特性を持っていたが、魔王軍四天王のアクセルやパラードほどではなかったように思える。
逆にアクセルやパラードは俺でなければ手を付けることすら不可能だった。
「俺は犯人が魔王軍四天王じゃないかって考えている」
「まさか……」
「そいつから魔結晶を奪って魔力の足しにする。それでも足りなければドラゴンでも狩って魔石を手に入れれば、どうにかなるような気がする」
狙うなら大物でなければならない。
洗脳された人たちを助けるつもりもなければ、世界の為に魔王軍をどうにかしようという想いもない。
それでも自分たちの為に魔王軍四天王の魔結晶が必要だ。
だから、魔王軍と戦う。
「これで次の目的地が決まったな」
今後は大手を振って活動することができる。
幸いにして明後日には活動資金が大量に手に入る。
「何かあるの?」
「もちろん」
収納からオルゴールのような魔法道具を取り出す。
『それで、奴らは納得したんだろうな』
『はい。陛下の言葉を信じ切っていたようで旅に出ました』
『そうか』
聞こえてくるのは二人の男性の声。
どちらの声も昼間に聞いたばかりなので誰なのか分かった。
メグレーズ王国の国王と宰相による会話だ。
「明日の夜、宰相が王城に戻った後で行われる会話だ」
こっそりと録音させてもらった。
『全ては陛下の思惑通りです』
『奴らがこちらの謝罪を要求してくる事は分かっていたからな。派遣したお前が何度も謝罪を拒否したところで、私が謝罪するように言う。そして、渋々ながら承諾したところで奴らの溜飲を下げる』
『国王命令に逆らえず頭を下げている姿を見て満足しているようでした』
最初から向こうの掌で踊らされていた。
実際、嫌々ながら謝罪している姿を見て宝物の返却を考えたぐらいだ。
過去に戻ることによる宝物の複製を知らない彼らは、交渉した場合は足元を見られて高額の対価を要求してくると考えた。
そこで、一芝居打つことで俺たちの怒りを治める方向で行くことにした。
結果、俺たちの怒りは下がり対価を要求するようなこともなかった。
『しかし、愚かな奴らだ。全ては私の掌の上だというのに』
『その通りです。あのような勇者が遺した日記が存在していた事には驚かされましたが、前回の勇者召喚時に王家がどのような事をしていたかは王家に機密資料としてしっかりと伝わっています』
『そこまで子供では気付けないさ』
いや、気付いてはいなかったけど疑っていた。
「なに、これ……」
再生が終わるとハルナが憤っていた。
長谷川先輩たちは平気で約束を破る相手に空いた口が塞がらなかった。
「つまり、王様も最初から全部知っていたって事でしょ」
それどころか黒幕に等しい。
「ソーゴは平気なの!?」
「そんな訳ないだろう」
「じゃあ……」
「あんなクズでも一国のトップに立つ人間だ。簡単に死なれると次に誰がトップになるかで何の罪もない国民が困ることになる」
だが、国王はあの場で『神に誓って嘘偽りはないと証言しよう』と言っていた。
にも関わらず神に背いて嘘を吐いていた。
「王様が関わっている事を知っていたの?」
「知っていた、というよりは知ったから過去に跳んだんだよ」
あの瞬間に跳んで、さっきの誓いを言わせた。
「俺の【収納魔法】でも王の私室だけは没収できなかったから、これまでに手に入れた魔法道具を駆使して潜入させてもらったら宰相とこんな会話を始めたから録音させてもらったんだよ」
姿を透明にするローブを羽織って、匂いや気配を消す道具まで使って城に潜入。誰にも気付かれることなく王の私室に潜入させてもらった。
二人とも俺が部屋の隅にいることに気付かずに会話を続けるほど俺については気付いていない。
この時間軸においてはそもそも王の私室に行くつもりがないので気付く、気付かない以前の話なのだが。
「嘘つきはいけないよな」
「……うん」
「けど、俺まで嘘つきになるつもりはない」
だから宝物を戻す、という約束は守る。
「そのうえで嘘を吐いた罰として宝物庫以外の場所にあるありとあらゆる物を没収してやる。あのクソ国王には今後一切金なんて握らせない平民以下の生活を送らせてやる」
全ての金を没収。そして、毎朝になると銅貨1枚を小遣いとして渡す。豪勢な食事が作られたなら全てを没収し、貧民のような生活をさせる。
国王が貧しい生活を送っていたとしても実際に働く役人たちには関係がない。
「明日の夜には同じ会話がされる。だから明後日になったら全ての資産を没収させてもらう」
相手は神に対する誓いを破った。
躊躇する気など全く起きなかった。
以上で第6章は終わります。
第7章はステータスアップの為に邪教と戦う話になります。