第23話 増える仲間
メテカルにある宿屋で広い部屋を借りると8人で話し合いを始める。
一気に人数が倍に増えてしまったので今までよりも広めの部屋を借りても少しばかり窮屈に感じてしまう。
「――と、今話したのがこれまでの冒険です」
メテカルで冒険者として活動していた勇者の4人に自分たちの境遇とこれまでの出来事を語る。
彼らは一様に落胆していた。
異世界で頑張って来られたのは、『魔王を倒せば元の世界に帰れる』という明確な目的があったからだ。
ところが、その目的は幻だった。
これからどうすればいいのか分からなくなってしまった。
「本当に、魔王を倒しても元の世界へは帰れないのね」
「俺たちも帰れないと明確に言える訳ではありません」
「けど、僕たちは前回召喚された勇者が魔王を倒しても帰ることができない、という事実を知ってしまっています」
「そう、よね」
彼女たちも日記を読んでいるので何があったのかは理解していた。
それでも、間違っていて欲しいという想いがあった。
「長谷川先輩、どうしますか?」
4人組の中でリーダーを務める3年の長谷川杏先輩。
スラッとした長身に腰まで届く長い髪をポニーテールにした切れ長の目を持つ女性だ。元々は、男子を除く3人組の中で中心人物だったためパーティを組んだ後も彼女が中心になって4人をまとめていた。
「少し、考えさせて」
ベッドの上で膝を抱えて考え込む先輩。
最初にギルドで会った時はキリッとした印象を受ける強い女性のように思えたのだが、今は弱々しいイメージしか抱くことができない。
これまでは必死に頑張って来たが、俺たちから過去の出来事を告げられたことでこれまでの努力が無駄だったと知って消沈してしまっている。
「まあ、いいですけど」
蹲る長谷川先輩を二人の女子が手で擦って慰めていた。
一人は、長谷川先輩と同じ3年生の阿部美月先輩。フワッとしたクセのある髪型が特徴的な人でおっとりとしたイメージの人だ。
もう一人は、同じ3年生の五条優香先輩。眼鏡を掛けた三つ編みの先輩だ。
二人とも必死に慰めている。
これまで長谷川先輩が無理をしてリーダーを務めていたことは二人とも分かっている。甘えていた自分たちに自覚があるからこそ、長谷川先輩が辛くて折れそうになった今こそ支えようとしている。
「お前はいいのか?」
「僕は、お姉ちゃんの決めた事に従うだけですから」
最後の一人が気弱そうな1年の男子――長谷川誠。
苗字から分かるように長谷川先輩の弟で俺たちと同じ1年生。彼は強いスキルを授かることはできたのだが、気弱な性格が災いして友達同士でパーティを決めて行く同学年に付いて行く事ができなかった。結局、弟の事を心配した姉のパーティに入れてもらうことになった。
姉に守ってもらうような形になってしまっている。
が、実際の強さは違うらしい。
「とりあえず落ち込んでいる間に今後の方針を決めよう」
とりあえず最低限の目的だけは達成された。
しかし、その方法は決して褒められたものではない。
「それにしても、よく王剣なんかの宝物を返す気になったわね」
「約束を取り付けるなら必要な事だったさ」
「でも、何か手を打っているんですよね」
ギルドを出る前に教えていた事をレイはきちんと覚えていた。
黙っていても意味がないのでネタバラシをする。
収納から王剣を取り出す。
「え、返したはずじゃ……」
「返してなかったの?」
「いや、きちんと宝物庫の中に王剣はあるぞ」
正真正銘、本物の王剣が今も宝物庫の中にある。
「これは、この時間軸でも元から持っていた王剣。宝物庫に戻したのは、未来から過去へ跳んで収納に入れっぱなしにしていた方の王剣」
あの時、宝物庫から盗み出した物を分かり易くする為に色々な物を床に並べていた。つまり、収納の中にはなかった。取り出す物も無造作に取り出していたのではなく、今後も必要になる物を優先的に出させてもらった。
1周目では、収納に王剣などの必要な物を戻した状態で過去へ跳ぶ。
そうすると過去に戻った状況では、王剣は外に出している物と収納内にある物の2本が存在している。
収納内に王剣がある状態のまま外の王剣を収納してしまうと2本の王剣は1本に統合されてしまう。
そこで、先に収納内にある王剣を宝物庫に戻したうえで外にある王剣を回収する。
そうすれば収納には1本の王剣しか存在しないことになり、宝物庫に王剣を戻すという約束も守られる。
「こんなに使い勝手のいい剣を手放す訳がないだろ」
今後も使い続けるつもりだ。
ただし、人に見られた時は王剣に似た剣だと言い張るつもりでいる。
どちらも本物だが宝物庫には王剣が納められたままになっている。その状態でもう1本の王剣が表に出てしまうと偽物を戻した、と疑われてしまう可能性があった。
何よりも俺たちの功績を王国の功績にしたくなかった。
王国の至宝とも言える王剣によって強敵を倒す。
それは、王剣が下賜された物だと言い張れば王国の功績になる可能性があった。
実際にはそうでなくても国家にはそれだけの権力がある。
「ま、その方法も使えなくなった訳だけどな」
なにせ本物の王剣は宝物庫に納められたままだ。
手元にある本物の王剣を偽物だと俺が言い張ったところで何の問題もない。
「凄いスキルですね」
「ん?」
説明の一部始終を聞いていた誠が呟いた。
「与えられたのは最弱クラスのスキルなのに皆さんはここまで生き残って来た。ううん、僕たちに比べて凄すぎるぐらいの功績を立てているじゃないですか。どうやって、そこまで強くなったんですか?」
「スキルって言っても『道具』みたいな物だ。少し凝った使い方をイメージするだけで特別な事ぐらいはできるようになるぞ」
最も大切な事は『できる』と信じ込む事。
毒ガスや突風みたいな物体ではない物だって取り込むことができるし、建物の外から建物内の一室に保管されている物だけを収納することができる。どれだけ遠くからでもスキルを発動させることができる。
そう思えば、特殊な使い方をすることができた。
スキル、というのは技能みたいな物。
魔法のない世界から魔法のある世界へ来たせいで難しく考えがちだが、ちょっとした特殊技能を手に入れた程度に思うのが上達への近道だ。
「ねえ、渡来君って言ったわよね」
「はい?」
長谷川先輩がグイッと近付いて来る。
「あたしたちもパーティに加えてくれない?」
「どういうことですか?」
部屋には連れて来たけど、あくまでも事情説明の為だった。
パーティに加えるつもりなんて全くなかった。
「正直言ってこんな状況に落とされて困惑していたの。あたしだって誰かに頼りたいけど、先生たちは頼りないし、あたしがどうにかしないと美月や優香、それに誠まで困っちゃう。だけど、もう無理なの」
これまで頑張って来たけど、彼女の我慢は限界に達しようとしていた。
――誰かに頼りたい。
頼りがいのありそうな先輩だけど、先輩だって18歳の少女であることには変わりない。俺たちと同じように元の世界に帰りたいという想いだって抱いている。何より目的が抱けなくなってしまった。
そこへ現れた希望。
俺たちに付いて行けば本当に帰ることができるかもしれない。
「分かりました」
「やった!」
「ただ、そうなると出発を数日ほど遅らせる必要がありますね」
「どうして?」
俺たちの移動手段は車だ。
パーティ4人での使用しか考えていなかったため詰め込んでも最大で5人までしか乗り込むことができない。8人で移動することはさすがにできない。
「この間みたいに荷台で何人かが移動するのはどうですか?」
「そうだな」
盗賊団討伐の帰りは安藤たちを車の後ろに取り付けた荷台に乗せていた。
今は【遠隔収納】ができるようになったから俺が車内にいる必要はない。女性陣に窮屈な思いをさせてしまうし、運転を担当してもらわなければならないことになるけど、男3人が荷車に乗るしかなさそうだ。
「ま、どこかの街に立ち寄って時間があったら改造する方向で行こう」
具体的には8人でも乗れるように大きくする。
ボックスタイプの車をイメージすれば造るのは難しくないだろう。
「車まで造っていたなんて本当に凄い人たちね。この分なら本当に元の世界へ帰れる魔法道具まで見つけてしまうかもね」
感心している長谷川先輩。
けど、一つだけ訂正しないといけない。
「元の世界への帰還手段なら手に入れましたよ」
「え……?」
全員が俺の言葉を理解できなかったのかキョトンとしていた。
『え~~~!?』
しかし、1分ほど置いてから驚くと大きな声を上げた。
突然のカミングアウト。
ただし、まだ帰れません。