第21話 第4段階
「何をした!?」
さすがは実力で宰相まで上り詰めた人物。
俺が魔法を行使したのは気付いたみたいだ。
しかし、何が起こったのかまでは理解していない。
俺自身もチート過ぎると思っているぐらいだ。
「俺の【収納魔法】が特殊なのは、もう気付いていると思う」
それぐらいは気付いてもらわないと困る。
様々な特殊能力を備えている【収納魔法】だが、その特殊能力は段階的に備わって行った。
まず、最初から備わっていた【容量増加】。
これがなければレベルが1なうえ、最低限のステータスしか持っていなかったのに王城にある宝物庫から大量の武器や防具、宝物を持ち去れるはずがない。
そして、第1段階目――【能力反映】。
これまで最も世話になった能力で、収納したステータスを持つ物体のステータスやスキルを得られる。これによって魔力量が増大したおかげで増大した容量も異常なまでに大きくなって行った。
第2段階目――【非物質収納】。
一般的な【収納魔法】について調べてみたところ、収納する事ができるのは物体に限定されている。少なくとも『毒ガス』みたいな気体、『水』のような液体をそのまま収納することはできない。収納するなら容器に収める必要がある。けれども、俺の場合も収めることなく、そのまま収納することができるため攻撃に利用することができている。
第3段階目――【間接収納】。
収納した物体に直接触れていなくても収納する事ができるようになった。これによって倉庫の外からでも倉庫の中にある物を回収する事ができる。
第4段階目――【遠隔収納】。
今回使用した【遠隔収納】だが、名前からして【間接収納】の強化版のように思えるが、実際の効果は全く違う。
「どんな能力があるのか詳しい説明は省かせてもらう」
第3段階までについては教える必要がない。
「必要な事だけ教える。今の俺にはこんな事ができる」
現れるのは王剣としか思えない剣。
しかし、本物の王剣は今も床に転がったままだ。
「それは……!」
宰相は新たに出現した剣について心当たりがあるようだ。
もちろん収納した俺にもどんな剣なのか知識が与えられている。
「盗まれた王剣の代わりに用意したレプリカみたいだな」
「どうして、それがここにある!?」
「さあ、どうしてでしょう?」
「……!」
惚けてみせると宰相の顔に怒りが現れていた。
まあ、揶揄うのもここまでだ。
「今、使ったのは【遠隔収納】。離れた場所からでも【収納魔法】が使えるようになる能力だ」
「そんな能力は聞いた事がない!」
「勇者の【収納魔法】を一般人の【収納魔法】と同じように考えるとか間抜けなのか?」
【遠隔収納】――遠隔地からの収納を可能にする能力。
これによって遠く離れたメテカルから王都にある王城の宝物庫内に対してスキルを使用することができるようになった。
レプリカとはいえ、王剣が宝物庫内で保管されていないのはおかしいとでも思ったのか同じ場所で保管していた。まあ、盗まれた事実を表沙汰にできないのなら宝物を保管しておく場所を変更するのも難しい。
それに城にいた人間の洗い出しが終わっていたなら安心していたのかもしれない。
「こんな物まであったぞ」
王剣とセットで使われる王盾のレプリカ。状態異常を防いでくれるペンダント。斬撃を飛ばすことができる真っ赤な大鎌。途中にある障害物を無視して目的地まで穿つことのできる杭。衝撃波を生み出すことができる大槌……。
他にも色々とある。
それらをギルドの床一面に出して行く。
次々と出される宝物に人垣が後ろへ下がって行く。
「この短期間でこれだけの物を集めるのにどれだけ苦労したと思っているんだ!」
王城に居た頃に大量の宝物を拝借したはずなのだが、かなりの量が補充されていた。
どうやら宝物庫の中が少ないままだと沽券に関わると思ったらしい。
「そんな事は知らない」
相手の事情など関係がない。
「この泥棒が!」
宰相が俺の事を指して、そう呼んだ。
人の物を収納して拝借する。
泥棒と呼ばれてもおかしくない。
「たしかに、このスキルがあれば盗み放題だな」
「こんな奴が信用できる訳がない」
「一応、このスキルにも欠点がある」
【遠隔収納】だが、【収納魔法】の起点とする事ができるのは過去に【収納魔法】を使用した事がある場所に限られる。
王城にいた頃は宝物庫だけでなく至る所で【収納魔法】を使用していた。
もっとも【間接収納】があるおかげで王城そのものだけではなく、王都にまで対象範囲を広げることが可能だ。
ただし、そんな事まで教える必要はない。
あくまでも過去に使った場所でのみ収納が可能だと伝える。
「他にも強力な魔法結界があれば防ぐ事が可能だ」
現に王城を対象にしようとしてみたところ『王の私室』だけは対象にすることができなかった。
王の私室と言えば、国王が寝泊まりする場所。
一番無防備な姿を晒すことになるため物理的・魔法的な防備を完璧にする必要があったため結界を用意する必要があった。
けど、逆に言えば『王の私室』以外は対象にすることができた。
王の警護レベルでなければ防ぐことはできない。
「宝物庫から俺が盗んだ物を返して欲しければ俺の要求に応えてもらおう」
「要求だと?」
「要求は二つ。一つは俺たちに対して勝手に誘拐してしまった事と使えそうにないからなんて理由で殺そうとした事を謝罪すること。二つ目は、二度と俺たちに対して関わらない事」
この二つの要求を呑ませる為に態々宰相との対談に臨んだ。
最も理想的なのは、元の世界への帰還手段との交換だが、話をしている内に最初から元の世界へ帰すつもりがないという事は間違いないみたいなので交換材料にすることができない。これから手に入れる、というのも望み薄だろう。
そういう訳で、元の世界へ帰る手段を探す事を邪魔されないようにした。
そして、できれば謝罪が欲しい。
「あと、謝る時は泣きながら赦しを請うぐらいでお願いする」
「なぜ、私がそのような事を……」
「殺されかけたのにその程度で許してもらえると思って欲しいぐらいだ」
この場で斬り捨てたところで鬱憤は晴れない。
隣の女性陣を見ると二人とも頷いている。
「どうする?」
「……」
歯を噛み締めて宰相は何も答えない。
まだ足りないみたいだ。
「早く謝らないと宝物庫の中だけじゃなくて色々な物がなくなって行くよ」
そう言う俺の指では金色の冠がクルクルと回されていた。
「それは、王冠ではないか!?」
分かり易い物を取り出させてもらった。
王冠と言えば王の象徴とも言うべき物。
「俺の【収納魔法】でも生物や身に着けているような物は対象にすることができない。けど、身に着けるような物でも身に着けていなければ収納することができるんだよ」
現在は謁見の間で休憩をしていた国王。
王冠とマントを脱いで近くにあるテーブルに置いて寛いでいるようだったので回収させてもらった。
「はい、これ」
次にマントまで収納から取り出す。
それでもこちらを睨み付けて来るばかりで謝罪する様子が見られない。
「じゃあ、仕方ない」
宝石など高価な物を次々と取り出して行く。
――トゥルルル。
俺たちの周りが宝物で埋め尽くされる頃、着信音のような物が聞こえて来る。
宰相が懐に手を入れて携帯電話のような物を取り出す。
『宰相!』
携帯電話のような物から男性の怒鳴り声が聞こえて来る。
「陛下」
『原因は分からないが、私の王冠とマントが突如として消えた。おまけに私の下に次々と物がなくなるという報告が上がっている。どういう事か分かるか!?』
どうやら携帯電話の役割を果たしてくれる魔法道具だったらしく遠隔地にいる相手との会話が可能になるらしい。
「いえ、それは……」
原因が分かっている宰相は答えない。
まだ、ダメか。
仕方ないので範囲を広げる。
「これは、騎士団長の剣!?」
柄に宝石が埋め込まれた剣を取り出したところ騎士が気付いた。
「もう止めて下さい!」
「俺は、要求を呑んでくれれば止めますよ」
「貴方たちは勇者でしょう。世界を救う正義の味方である貴方たちが、こんな泥棒みたいな真似をしてはいけない」
俺だって簡単に窃盗ができてしまうスキルを見せたくはない。
こんなスキルを持っていると知られるだけで物を失くした時に俺が真っ先に疑われてしまう。たとえアリバイがあったとしても意味を成さない。
だが、そもそも前提が間違っている。
「騎士の貴方が言ったように俺は異世界から召喚された勇者で『正義の味方』だ。そして、『正義の味方』に対して先に敵対したのは宰相だ。今、俺がしているのは『正義』の反対である『悪』に対して自分の罪を自覚させて反省させているだけだ」
少しばかり強引な方法を採らなければならなくなったが、話し合いを続けたところで宰相が反省したとは思えない。
騎士が宰相を睨み付ける。
宰相が謝って約束をするだけで全ての事は済む。
しかし、宰相はブツブツ独り言を呟いているばかりで騎士が睨み付けていることにも気付かない。
「……私は、何も、間違っていない。過去の勇者だって、同じ方法で成功したんだから」
おまけに反省している様子もない。
……仕方ない。
「解放」
どこにいても収納が可能なスキル。
王国だけでなく、聖国や帝国も宝物庫内にある物はいつでも奪われてしまいます。
そして、今回王国の宝物庫から回収した事が物語を進めます。